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じいちゃんのれんこん畑

中山綾子

中山綾子

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あおあおと茂る蓮の葉の中で、ピンクや白の花が咲き誇る――ここは極楽浄土?

見渡す限りれんこん畑が広がる徳島県鳴門市はれんこんの産地。特に私の地元・大麻町は粘土質の土壌が多く、ずっしり太く大きなれんこんが自慢です。町内には四国八十八ヶ所霊場の一番札所や阿波一宮の大麻比古神社など古くからのパワースポットがあり、数年前には豊岡からコウノトリが移り住んで話題となったり、知る人ぞ知るルアーフィッシングのポイントを目指して県外からアングラーが訪れたりと多様な生き物が棲む地域でもあります。

ピンクの花は備中種。徳島を代表するれんこんの品種です。

私の祖父は「半世紀れんこんを掘った」が自慢の大正生まれ。90歳を目前に引退するまでれんこんを栽培し、関西市場に出荷していました。子どもの頃から毎晩のようにれんこんが食卓に並び、年末には夜なべして出荷をしていたのをうっすらと覚えています。でも10代の私にとって地元はダサい田舎であり、あるのは地域社会のしがらみだけ。早く抜け出したいと大学受験し、高知へ進学することになりました。

幼い頃、れんこん畑へ行く祖父母に付いて行ったことも。

フレンドリーで楽天的な土佐人や県外出身の友人たちと高知を満喫し、伸び伸びと地方都市ライフを送ります。就活はせずにバイトしていた出版社に居座り就職。編集やコーディネートの仕事に楽しさとやりがいを感じていた頃、祖父ががんを患い、1か月後に亡くなりました。最後に病室で昔話を聴いた時、「れんこんやりたい」とは言えなかった。でも、やるなら今しかない。「やめとけ」と反対していた両親をなんとか言いくるめ、2018年に夫と徳島に帰ってきました。ちょうど6月、蓮の花が咲き始め、あの懐かしいれんこん畑の風景が目の前に広がっていました。

それから近くの農家で働いて栽培や出荷について学び、畑を返してもらうお願いに農家を回り、2022年に約4反の圃場で栽培をスタートしました。少しずつ圃場を増やして3年目の今は約1町。直に教えてもらったことはなくとも、祖父が残してくれた畑の土質を生かしながら試行錯誤し、 “じいちゃんのれんこん”の味に近づくよう日々励んでいます。

重機(通称・レンボリー)で上土をめくった後、鍬を手にれんこんを掘り取っていきます。

はじめましての投稿が少し長くなりましたが、このれんこん畑が私の地元の大切な風景です。花の見ごろは毎年6月後半から7月頃。梅雨時期特有の曇天や、年に一度あるかないかの濃霧の日にぼやっと浮かぶ蓮の花を見るもの幻想的ですし、JRの汽車の車窓かられんこん畑を見渡すのもおすすめです。ぜひ一度、この世の極楽へお越しください。

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