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サスティナビリティ

特集 | SDGs~地球環境編~|これからの世代につなぐ、地球環境について考えてみる!

キーワードから考える、 私たちの地球のこと。

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「2050年の脱炭素社会に向けて……」という言葉を最近よく聞くようになったが、つまりはどういう社会のことなんだろうか。地球環境を考えるうえで知っておきたいキーワードとその解説を『地球環境戦略研究機関(IGES)』参与の西岡秀三さんに伺いました。

目次

地球環境という大きな問題に、 どう取り組むか。

「温暖化への対策は、のんびりしていられない状況にきています」。本取材の冒頭、そう話された西岡秀三さん。「もちろん、二酸化炭素の排出は大きな問題ですが、生態系との相互関係や、大気・海洋汚染など、すべてが影響しているということ。そして一度限界を超えて壊れてしまった気候は、もとの姿に戻すことができないことも理解しておくべきでしょう」。

 地球環境という大きな問題に、個人としてどうアプローチできるのか。「今見えているゴールとして、温暖化を止める、二酸化炭素排出をゼロにするなどが挙げられていますが、最終的な目的は、すべての人の、そして地球のウェルビーイングを守ること。とにかく行動しないと人類に未来はないのですから、だったら楽しく、前向きに取り組んでみてはどうでしょう」。なんと心強いお言葉。西岡先生、よろしくお願いします!

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西岡秀三さん
にしおか・しゅうぞう●『地球環境戦略研究機関(IGES)』参与。工学博士。地球温暖化の科学・影響評価・対応政策研究に従事。専門は環境システム学、地球環境学など。

keyword 01 生態系

 地球環境は世界共通の「公共財」であるということをまずは認識してほしいです。公共財というのは「誰も所有権を持たず、みんなタダで使える」もの。そして、それを使うことは誰にも妨げることができないというものです。でも、そんな公共財である環境がおかしくなったときに、どうやって管理していくのでしょうか。それはみんなが一致団結していないと解決できません。ある国やある業界が「自分のところだけは(温室効果ガスなどを)出してもいい」としていたら、一向にまとまらないし、改善しません。

 さらに重要なことは、人間は生態系の一員であるということ。人間は海や陸や空など、地球の自然の理のもとで生存していて、その中でしか生きられない存在です。安定した気候は人類、そして生態系の生存基盤であり、生態系を守ることが人類に課せられた大きな使命なのです。

keyword 02 プラネタリー・バウンダリー

 生態系という仕組み、生物・人間・物質・地球からなる自然システムの中において、とくに近代に入ってからは人間活動が拡大し、自然破壊が進行し、自らの生存基盤をも脅かすまでになってしまいました。それがどの分野でどのくらい危機的状況であるかということを9つの指標で示した概念が、この「プラネタリー・バウンダリー(地球限界)」。スウェーデン出身の環境学者であるヨハン・ロックストローム博士たちにより提唱されたものです。これまで、図の水色の線の内側の範囲内であったら、地球の自己回復力に任せてやり過ごせていましたが、今では赤線を超え、不可逆的な変化にまで及んでいるものもあります。自然の力の限界をはるかに超えている事態。地球の回復力が、このままの状況が続けば機能しなくなってしまうのですね。

 この図を見ると、ほかにも多くの問題があるということがわかると思います。たとえば突出している「生物種の絶滅率」は、生物多様性が危機的状況であるということ。気候変動をはじめ、さまざまな要因が挙げられるでしょう。また、「生物地球科学的循環(窒素・リン)」とは、もともと自然界で循環していた窒素とリンが、過剰に放出されていることを示し、結果として海洋汚染や酸性雨、PM2.5などの大気汚染に影響を与えてしまうのです。「?」になっているところは、十分な数値がまだ揃っていないため判断がつかないもの。それぞれで完結することなく、相互に作用し合うことも理解しておいてください。

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keyword 03 地球温暖化

 現在、危機的状況にある問題の一つが地球温暖化。太陽光エネルギーが地表に到達し地球を温めるわけですが、二酸化炭素などの温室効果ガスは地表が反射した熱でさらに大気を温める性質があり、地球表面大気温度を高めます。まず、これが「温室効果」です。大切なのは温室効果ガスがないとマイナス18度くらいの世界になってしまうため、本来温室効果ガスは悪いものではなく、それらが限界値を超えないような社会であれば私たちにとって過ごしやすい地球環境づくりに役に立っているということです。

 産業革命以前には、温度変化はほとんどなかったのですが、化石エネルギーを使うようになって、気温はどんどん上がりはじめ、地球全体に不具合が起きるまでになってしまいました。この地球温暖化を一定に抑える、つまり気温が上がらないようにするには、人為的な排出を止めることが不可欠です。

keyword 04 化石エネルギー

 地球温暖化を回避する唯一の解決方法、それは「人為的な温室効果ガスの排出を一切やめる」こと。原因のほとんどが石炭や石油、天然ガスなどの化石エネルギー利用による二酸化炭素排出にあるからです。

 もし人間がこれからも二酸化炭素を出し続けると何が起こるのか。出した半分が大気中に残り、それに比例して地球の表面温度が上がります。結果、世界中の気候が変調をきたし、農作物を損ない、洪水が居住地を襲い、経済活動をも脅かします。多少の温度上昇であれば人間が手を打てば止められるのでしょうが、このまま温度が上がってゆくと、たとえばシベリアでは、これまで凍土に閉じ込められていたメタンが噴出して人力では止めようがなくなり、ついには灼熱の地球になってしまう。仮に温度上昇を2度以内で止めても、そのような危機は起こりかねない、といった警告も出ています。

keyword 05 気候変動リスク

 このまま地球の温度が上がり続けていくと、その結果どうなるのか。生態系が気候に合わなくなり、さまざまな種が滅亡したり、異常気象と呼ばれるものが多発し、南極などの氷が解け、海水面が上がり、沿岸部に住む人たちの暮らしを脅かしたりするでしょう。コロナだって関係しているかもしれない。気候変動によってそれまでのように農作物が採れなくなった結果、食糧事情が悪くなったりすることもあるでしょう。

 植生が変わり、食料不足は人間を移動させます。彼らは難民となり、国際問題にまで発展する。再び強調しておきたいのは、気候変動は不可逆性の問題を抱えていること。今、仮に気温が2度上がったときに、南極の氷がどんどん解けだしますが、それらは元に戻せないのです。次の世代に対して、大変なリスクを負わせてしまうと考えたら、もはや一刻の猶予もありません。

keyword 06 炭素循環

 二酸化炭素をはじめとした温室効果ガスが地球温暖化を進めることをもう少し詳しく説明すると、イラストにある「炭素循環」を理解する必要があります。実はこの30年間、排出された二酸化炭素の行く末を世界中の科学者が探し求めていて、それが最近ようやくはっきりし始めました。森林や土壌、海洋は二酸化炭素を吸収する能力を有し、現在ではだいたい人類が排出する半分の量を吸収してくれています。そして排出した残り半分は大気中で数百年消えずに溜まり続け、その量に応じて温度が上がっていくということが、近年きちんと定量化されつつあります。つまり、二酸化炭素を排出し続けている限り、地球の温度は上がり続けるということ。不可逆性をはらんだ問題であり、もとに戻すことは難しいでしょう。

 気温上昇がまだ人間が生活できる範囲で留まっているのは、自然がなんとか調整してくれているから。でも、それももう限界です。工業化以降、人類が石油や石炭、天然ガスなど化石燃料を膨大に消費し、二酸化炭素を吸収してくれる大切な存在である森林を、食糧生産などのために過剰に伐採しています。また土地利用のため切り落とされ放置された木々からも朽ちていく中で二酸化炭素が出るなど、大気中の二酸化炭素濃度は、今この瞬間も増加の一途をたどっているのです。では、どうすればよいか。答えはシンプル。化石燃料の利用や森林の開発などによる二酸化炭素の排出をゼロにする以外、私たちに選択肢はありません。

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今、社会システム全体の「リデザイン」が模索されている。

 危機的状況に陥っている地球環境。あれ、これまで人類は手をこまねいていただけ⁉︎「いやいや、何もしていなかったわけではありません(苦笑)。前述したように気候は公共財ですから、どうしても国際的な協力、枠組みが必要となります。そこで生まれたのが国連気候変動枠組条約『UNFCCC』です。気候に関する世界中の専門家が集まった『IPCC』の報告書を受け、締約国による会議『COP』で、いつまでに何を実施し行動するかなどを議論します」。

 UNFCCC、そしてCOPプロセスの中で、地球温暖化は確実に人間の経済活動に由来するということ、温暖化が地球と人類の持続可能性を脅かすことが明らかとなり、2013年にはIPCCが気候変動を止める手段は、ゼロ・エミッション以外ないことを示し、「パリ協定」へとつながった。「ここで初めて、世界が一丸となってゼロ・エミッションを目指そうとなりました。パリ協定の中で気温上昇を2度に抑えることを世界共通の目標として設定し、さらには1.5度以内に抑える努力を追求することとしています。なかなか難しい目標ではあるのですが……」。目指すのは、「脱炭素社会」。社会システム全体のリデザインが模索されている。

keyword 07 ゼロ・エミッション

 ゼロ・エミッションとは、二酸化炭素などの人間の活動から発生する“排出”をこれ以上生み出さず“ゼロ”にするということ。もはや「低炭素」ではなく、「脱炭素」が世界の潮流になっていることを示唆しています。

 ゼロ・エミッションがなぜ必要なのかはもうお分かりだと思いますが、「二酸化炭素を出している限り温度が上がる」ということは、「一切出さなくする以外に止めようがない」ということ。これは自然の掟、自然の理。正確には温室効果ガスの排出と吸収・蓄積を同じにして「実質ゼロ排出」にすることでもあります。「炭素中立」「ネット・ゼロ」など、さまざまな呼び方がありますが、ゼロ・エミッションへの転換は、人類が200年で築き上げた化石エネルギー時代を大急ぎで“店じまい”し、新しい世界(生活様式)をつくるという人類生存を懸けた歴史的大事業なのです。

keyword 08 脱炭素社会

 今後はどう考えても、ゼロ・エミッションを軸にした、脱炭素社会への転換が不可欠です。温室効果ガスを止めるということは、エネルギーシステムの話だけではありません。そういうエネルギーを出すような経済、産業、生活の仕組み、つまり社会全体を変えていかなければ、とても達成できません。感覚としては社会の「リデザイン」。次の社会のあり方を、明確なビジョンを持ってつくっていこうという、積極的で前向きなアプローチが必要になるのだと考えます。私も参与として所属している『地球環境戦略研究機関(IGES)』のレポートに『1.5°Cライフスタイル―脱炭素型の暮らしを実現する選択肢―日本語要約版』や『ネット・ゼロという世界:2050年日本(試案)』というものがあります。食や住居、移動のあり方や、ゼロ・エミッションを達成した2050年のエネルギーシステムなどを、IGESの研究員が分析しています。Web上から読むことができ、おすすめのレポートです。

 個人の暮らしの選択肢として特に注目されているのは、断熱性能を向上させたうえで、発電設備の導入や省エネを図り、その建物で消費する年間の一次エネルギーの収支をゼロにすることを目指した「ZEH(net Zero Energy House)」や、「EV(Electric Vehicle)」、さらにはEVに蓄電された電力を家庭用に給電できたりする「V2H(Vehicle to Home)」と呼ばれる仕組み。脱炭素社会を目指すうえで重要な要素とされています。

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keyword 09 IPCC

 温暖化など地球環境が抱える課題への対応には科学的な知見、分析が必須であり、そこでできたのがIPCCです。正式には「国連気候変動に関する政府間パネル(Intergovernmental Panel on Climate Change)」。これはいってみれば、今のコロナでいう専門家会議みたいなものでしょうか。世界中の、温暖化、気候変動に関する研究論文や観測・予測データを集めてリスク評価しようという組織で1988年に発足しました。

 世界中から、政府の推薦などで選ばれた専門家3000人ほどが参加し、約6年ごとに気候変動の最新科学成果報告書を公表します。これまで第5次報告書まで作成され、私も第4次報告書まで参加していました。参加するのは科学者だけでなく、政府の関係者も入っています。この報告書は対策などを決める国際交渉の場などで強い影響力を持っています。

keyword 10 UNFCCC

 国連気候変動枠組条約(United Nations Framework Convention on Climate Change)」の略称がUNFCCC。1992年5月に採択され、6月にブラジル・リオデジャネイロで行われた国連環境開発会議(地球サミット)で、日本を含む150か国以上が署名。1994年3月に発効された条約です。

 地球温暖化防止について、締約国の一般的な義務などを規定したものではありますが、具体的な削減義務までは規定されていません。それは条約の締約国が集まって開催される年次の締約国会議(COP:Conference Of the Parties)で定められる仕組みになっています。京都府にある『国立京都国際会館』で開催された第3回締約国会議(COP3)で採択された、世界で初めての国際協定、京都議定書(1997年)や、第21回締約国会議(COP21)で採択されたパリ協定(2015年)はその一つです。

keyword 11 パリ協定

 締約国会議(COP)は1995年にスタートし、今も毎年開催されています。第3回締約国会議(COP3)で採択された京都議定書では、少なくとも先導するグループが温室効果ガスを減らす方向で進み始めたというのが大きな一歩でした。ただ反省になりますが、今振り返ればそれだけでは足りなかったという思いもあります。その後、温暖化は人間活動による二酸化炭素の排出が理由であり、このまま排出が止まらなければ人類の持続可能性を脅かすことになるとさまざまな報告から結論づけられ、それを受け2015年に第21回締約国会議(COP21)でパリ協定が採択されました。

 世界共通の長期目標として、平均気温の上昇を産業革命以前に比べて2度ないし1.5度に抑える努力を追求すること。そして途上国を含むすべての参加国が二酸化炭素の排出を減らす努力をして、5年ごとに進展報告することなどが決まりました。

keyword 12 1.5度/2度

 パリ協定で決まった、温室効果ガスの排出削減目標「自国が決定する貢献(NDC:Nationally Determined Contribution)」において、各国が2度から1.5度に修正する動きもあります。ただ、いずれにしても非常に厳しい状況にあります。

 最近のレポートでは、あと4、5年の間に40パーセントくらいの確率で1.5度にまで上昇するというものもあるほど。X度以下に止めるまでに出せる二酸化炭素排出量は「X度までの『炭素予算(carbon budget)』」と呼ばれていますが、これはいわば「世界が使える財布の中身」です。今の排出量のままで1.5度に止めたければ、2030年の大晦日あたりには財布の中身はなんと空に!ゆえに日本政府も2030年の温室効果ガス目標を2013年度比から46パーセントの削減、さらに50パーセントを目指していくとも表明しましたが、これを達成するためにどれほどの努力が必要か……。

keyword 13 省エネ

 脱炭素社会を目指す過程において、まず、なるべくエネルギーを使わないような行動様式を、需要側である個人が一つひとつ精査し、選択していくことがこれからは大切でしょう。エネルギー政策は、これまでは供給側からの視点で考えられてきたと言っても過言ではありません。社会として、どうゼロ・エミッションを達成していくかを考えるときに、これからは需要側の選択が非常に重要になってくると考えます。

 具体的な対策の一つが、この「省エネ」。僕は「節エネ」とも言っていますが、注意すべきは、従来の省エネだと、たとえば自動車の燃費効率や、クーラーなど家電の消費電力の話題に進んでしまいがち。それだけでなく、消費するエネルギーの総量自体を減らすという考え方が省エネ(節エネ)です。これは個人はもちろん、企業やコミュニティベースでも考える必要があります。

keyword 14 自然エネルギー

 化石エネルギーの代替として、太陽光、風力、地熱、波力、バイオマスなど、日本の国土でも十分なポテンシャルがあるとされる自然エネルギー。需要側での省エネと同時に、供給側が自然エネルギーを普及していくことが、脱炭素社会実現に向けて、大きな力になると考えます。ただ、使っているエネルギーの量は変えずに、エネルギー源を変えればいいかというとそれは違います。エネルギーの総量を減らすというのが目的であって、企業や国、個人レベルで、ぞれぞれで使っているエネルギーを見直し、できるだけ減らす行動をとることが大切。エネルギーを使わないといけない場合に、自然エネルギーを第一の選択にするということです。

 自然エネルギーを積極的に活用していくことを最優先に、脱炭素社会に向け、実際にどこまで自然エネルギーでまかなえるのかを早急に見極めることが大切です。

keyword 15 土地利用

 自然資源や土地面積は、自然エネルギーの生産だけでなく、二酸化炭素の吸収面でも大きな役割を担っています。そして、脱炭素社会の実現に向けての土地利用の中で、森林の規模や面積などを保持しなければならないという課題があります。

 森林などによる二酸化炭素の吸収によって、温室効果ガスの排出を相殺する「カーボン・ニュートラル」の考え方からも森林は重要。脱炭素社会、ゼロ・エミッションなど、さまざまな表現がありますが、2050年に向けたこれらの目標は、すべて森林などによる除去量が前提となっています。森林を伐採すれば二酸化炭素が大気中に放出されますから、間違いなく維持は不可欠。伐採しても植林をすれば安心かというと、木々が成長するまでの当面の間の吸収はゆっくりで、30年かかるとも言われていますので、その管理・運用には注意が必要です。

keyword 16 気候正義

 気候変動はさまざまなところで不公正を引き起こしているという事実も知っておいてほしいことのひとつです。まずは途上国と先進国間の不公正。先進国はこれまでエネルギーの大量消費や森林破壊など環境負荷をかけ、それらが気候変動をもたらしてきたにもかかわらず、そのしわ寄せは途上国に住む人々や経済にも及んでいるという現状があります。農業や漁業など、途上国の主要な産業は気候変動による影響を受けやすく、気候変動に由来する自然災害を受ける可能性も高いからです。

 また、世代間の不公正もあります。気温が上昇し続け、地球全体に不具合を起こしている世界を生み出したのは、若い世代ではなくその前の世代。さらに、低所得層や高齢者などは、気候変動による気象災害や環境変化などで不利益を被りやすい傾向にあります。こうした気候変動によって引き起こされる不公正から、社会的弱者の権利を保護するという考え方を「気候正義」と言います。

keyword 17 カーボンプライシング

 2050年までに脱炭素社会を実現するための手段の一つとして考えられているのが「カーボンプライシング」の導入。二酸化炭素の排出量に応じ、企業や家庭にコストを負担してもらうという仕組みです。海外ではすでに導入された「炭素税」はフィンランドを筆頭に、EUの多くの国が運用しています。日本でも「地球温暖化対策税」という名称で2012年から導入され、二酸化炭素の排出量1トン当たり300円程度を企業などに負担してもらっています。

 このほか、企業活動の中で事業所ごとの排出量を制限し、超えた場合は上限に余裕のある企業から買い取る「排出量取引制度」や、製品の製造段階における二酸化炭素の量に応じて課税する「炭素国境調整措置」なども海外では積極的に導入・検討されていますが、日本では経済界の反発もあり、本格的な導入には至っていません。

keyword 18 地域循環共生圏

 持続可能な開発目標(SDGs)やパリ協定を踏まえ、脱炭素に向けた社会変革による地域社会・経済システムの変革が求められています。それらを見据え、環境省が打ち出しているのが「地域循環共生圏」という考え方。これは脱炭素社会を実現するために、それぞれの地域が特性を活かし、地域が持つ特徴的な資源を循環させ、自立・分散型のコミュニティを形成することを目指したもの。地域内での再生可能エネルギーの利用や災害に強いまちづくり、シェアリングをはじめとした各地域ならではのモビリティ・システムの構築、森・里・川・海をはじめとする自然価値や文化的資源を再認識・再構築した健やかな暮らし、これらを包括した多様なビジネスを創出することなどが、地域循環共生圏の要素として盛り込まれています。

 昨今、二酸化炭素排出ゼロを目指す「ネット・ゼロ宣言」や、気候危機を受けた「気候非常事態宣言」などをする自治体も増えています。単独の自治体で二酸化炭素の排出をゼロにすることを目指すことは大変素晴らしいですが、たとえば都市部と地方の市町村が連携して、生産プロセスにおける二酸化炭素などの排出と、森林など広大な土地による吸収などを包摂的に捉え、地域連携によって脱炭素社会を実現していくことも考えられます。地域資源を近隣地域と補完し合い、より広域的なネットワークを構築していくという、地域循環共生圏の創造が急務となっています。

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次世代が希望を持ち生きられる環境を、みんなで守る。

 化石燃料を出さない発展に変えること、ゼロ・エミッションの脱炭素社会へシフトすること、経済システムを見直すこと。ここで紹介するキーワードが具体策だとされるが、それらをやみくもに実施すればいいわけではないと西岡さん。「あるべき未来の社会のありようを模索・設定しつつ、社会の転換計画、転換へのロードマップを政府が示すことがまず必要不可欠。次世代が希望を持てるような社会変化への転換に向けた計画、ビジョンの策定が急務です」。

 ハードかつ、そして達成しなければならない課題が山積みであり、悲観しそうになってしまう……。が、西岡さんはあくまでもポジティブだ。「これまでは人間が好き勝手やっていてもなんとかうまくいっていた気候や環境というものが、手の負えない時代になってしまいました。若い人は特に、そういう世界を生きていかないといけない。それは大変なこと。でも、自然とのつき合い方も含めて、この大問題にぜひ挑戦してもらいたい。どうせ生きるんだったら、人類のためにやったほうが楽しいし、元気が出ます。僕も、もうちょっと遅れて生まれて、みなさんともっと一緒に取り組みたかったなあって思ってますよ!」。西岡先生、ありがとうございました!

photographs & text by Yuki Inui  illustrations by Takumi Sugiyama
記事は雑誌ソトコト2021年9月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

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