自宅に引きこもり鬱々としていた20代後半に哲学と出合って人生が変わり、哲学の道を歩んできた小川仁志さん。「人生を楽しく生きるためにこそ哲学はある」と言う小川さんが、若い世代に読んでほしい哲学書を選びました。
数ある哲学書の中で、まず読んでほしいと思うのが、バートランド・ラッセルが著した『ラッセル 幸福論』です。若い頃は、私と同じように内向的だったラッセルは、幸福になるための方法として「外に関心を向け、好奇心を持つ」こと、つまり「趣味を持ちなさい」と説いています。「趣味」とは、言い換えれば熱中できる何かであり、それがあると人生がわくわくするもののことです。私も人生がどん底だった30歳の頃、哲学の入門書を夢中になって読み漁り、人生が好転していきました。私の関心を外に向けてくれた趣味にあたるのが哲学なのです。また「趣味」があることで、苦しんだり、悩んだり、悲しんだりしていても、そこから抜け出し、客観的に自分を見つめ直すことができる、ともラッセルは言っています。私がこの本を読んだのは哲学を学び始めた後だったのですが、もっと若い頃に出合いたかった、と思う本です。
『エリック・ホッファー自伝』は書名のとおり、ドイツの哲学者・ホッファーの自伝です。生涯、港湾労働者として働きながら独学で学び、数々の哲学書を著した彼の人生は、まさに「数奇」と呼べるもので、人間的な魅力にあふれています。苦難に満ちた人生でしたが、彼は「自分を愛すること」を貫きました。「自分を愛すること」は、すなわち周囲の人を愛し、幸せにすることであり、自分が背負いきれる以上のものを求めない、つまり欲望をコントロールして生きることだ、と彼の人生から伝わってきます。
人には欲望があり、特に若い頃は必要以上に、刺激や物、評価などを求めてしまいます。私もそうでした。そういうとき、実は人は無理をしていて、「自分を愛していない」、ということに気づかされます。ホッファーのように生きられたらと思い、無理をしすぎず、自分をいたわるライフスタイルに変えられました。
哲学というと難しい、理屈っぽい、とっつきにくい、と思われがちですが、けっしてそんなことはありません。今まで自分がとらわれていた世の中の見方、考え方に、違う視点を与えてくれるものだと思っています。哲学に触れることで、新しい世界が開けると思います。
マイケル・サンデル著、鬼澤 忍訳、早川書房刊
鷲田清一著、NTT出版刊
オルダス・ハクスリー著、大森望訳、早川書房刊
幸せを得るために悩んだラッセルの姿が自分と重なり、悩みから抜け出す方法も納得がいくものでした。現実を変えることは難しいけれど、哲学を学んで視点が変われば、人生もまた変えられることを学びました。
エリック・ホッファー自伝 ─構想された真実/エリック・ホッファー著、中本義彦訳、作品社刊
ホッファーという哲学者の生き方そのものがとてもおもしろい。一日2回の食事と煙草が楽しみで、あとは働き、本を読み、書いた。そんな彼の人生を“追体験”することで、人生に必要なことがわかってきます。