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特集 | ローカルヒーロー、ローカルヒロインU30

哲学者/山口大学国際総合科学部教授・小川仁志さんが選ぶ「自分を見つける本5冊」

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自宅に引きこもり鬱々としていた20代後半に哲学と出合って人生が変わり、哲学の道を歩んできた小川仁志さん。「人生を楽しく生きるためにこそ哲学はある」と言う小川さんが、若い世代に読んでほしい哲学書を選びました。

*30代の先輩からU30の皆さんへ。今回は先輩たちの選書を通して、U30の皆さんに、自分たちにもこれからやってくる30代をより豊かに、気持ちいい生き方をしてもらえたらと思い、11名の方に本を選んでいただいています。
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ラッセル 幸福論/バートランド・ラッセル著、安藤貞雄訳、岩波書店刊
幸せを得るために悩んだラッセルの姿が自分と重なり、悩みから抜け出す方法も納得がいくものでした。現実を変えることは難しいけれど、哲学を学んで視点が変われば、人生もまた変えられることを学びました。

エリック・ホッファー自伝 ─構想された真実/エリック・ホッファー著、中本義彦訳、作品社刊
ホッファーという哲学者の生き方そのものがとてもおもしろい。一日2回の食事と煙草が楽しみで、あとは働き、本を読み、書いた。そんな彼の人生を“追体験”することで、人生に必要なことがわかってきます。

古代ギリシャの哲学者・ソクラテスは「ただ生きるのではなく、善く生きる」ことを説きました。そのためのツールが哲学です。「善く生きる」とは、「日々楽しく生きること」であり、そのための示唆を哲学は与えてくれます。

数ある哲学書の中で、まず読んでほしいと思うのが、バートランド・ラッセルが著した『ラッセル 幸福論』です。若い頃は、私と同じように内向的だったラッセルは、幸福になるための方法として「外に関心を向け、好奇心を持つ」こと、つまり「趣味を持ちなさい」と説いています。「趣味」とは、言い換えれば熱中できる何かであり、それがあると人生がわくわくするもののことです。私も人生がどん底だった30歳の頃、哲学の入門書を夢中になって読み漁り、人生が好転していきました。私の関心を外に向けてくれた趣味にあたるのが哲学なのです。また「趣味」があることで、苦しんだり、悩んだり、悲しんだりしていても、そこから抜け出し、客観的に自分を見つめ直すことができる、ともラッセルは言っています。私がこの本を読んだのは哲学を学び始めた後だったのですが、もっと若い頃に出合いたかった、と思う本です。

『エリック・ホッファー自伝』は書名のとおり、ドイツの哲学者・ホッファーの自伝です。生涯、港湾労働者として働きながら独学で学び、数々の哲学書を著した彼の人生は、まさに「数奇」と呼べるもので、人間的な魅力にあふれています。苦難に満ちた人生でしたが、彼は「自分を愛すること」を貫きました。「自分を愛すること」は、すなわち周囲の人を愛し、幸せにすることであり、自分が背負いきれる以上のものを求めない、つまり欲望をコントロールして生きることだ、と彼の人生から伝わってきます。

人には欲望があり、特に若い頃は必要以上に、刺激や物、評価などを求めてしまいます。私もそうでした。そういうとき、実は人は無理をしていて、「自分を愛していない」、ということに気づかされます。ホッファーのように生きられたらと思い、無理をしすぎず、自分をいたわるライフスタイルに変えられました。

哲学というと難しい、理屈っぽい、とっつきにくい、と思われがちですが、けっしてそんなことはありません。今まで自分がとらわれていた世の中の見方、考え方に、違う視点を与えてくれるものだと思っています。哲学に触れることで、新しい世界が開けると思います。

これからの「正義」の話をしよう ─いまを生き延びるための哲学
マイケル・サンデル著、鬼澤 忍訳、早川書房刊
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「正しいこととは何か」について、多面的に考える対話型の講義を収録したもので、ベストセラーになりました。論破するのではなく、議論の中から新たな正しさを見つけようとする姿勢が、今こそ必要なのではと思います。
〈想像〉のレッスン
鷲田清一著、NTT出版刊
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わかった気になっているもの、わかりやすいものの背後に、実は存在している見えないものを想像することの大切さと、想像するための方法が書かれています。アートをテーマに、多面的な見方をわかりやすく伝えています。
すばらしい新世界
オルダス・ハクスリー著、大森望訳、早川書房刊
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人が薬によって幸せを得るという未来世界を描いた小説。そんな世界秩序に疑問を投げかける、天と地の間に思ってもみないことがあるのが哲学だという一節が好きです。哲学が持つ力を示している言葉です。
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おがわ・ひとし●1970年京都府生まれ。哲学者(専門は公共哲学)。山口大学国際総合科学部教授。京都大学卒業。名古屋市立大学大学院博士後期課程修了。商社・地方自治体勤務、フリーターを経て哲学の道へ。「哲学カフェ」を主宰。
photographs by Yuichi Maruya text by Reiko Hisashima
記事は雑誌ソトコト2023年1月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

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