美馬市 山口明大

連載 | NEXTスーパー公務員 | 3 美馬市 山口明大

2021.07.19

白血病を乗り越え、公務員兼麻雀プロとして骨髄バンクを支援中!


 白血病を乗り越えた経験から、特技の麻雀を通した骨髄バンクの普及啓発活動を立ち上げる一方、税などのプロとして困っている人の生活再建をサポートする。そんな異色の公務員を紹介します!


 紹介させていただくのは、徳島県美馬市の職員、山口明大さん。地元も美馬市で、大の麻雀好き。岡山理科大学進学中に大学公認の麻雀愛好会を設立し、日本学生麻雀連盟第一期副会長に就任。日本プロ麻雀協会のプロテストに合格するほどの腕前です。そんな山口さん、地元の公務員になってすぐ、大きな転機を迎えたのが、慢性骨髄性白血病の発症。骨髄移植による治療を経て完治したのち、もっとこの骨髄バンクについて知ってもらいたいという思いから、自分が大好きな「麻雀」を通したチャリティイベントを主催しています。


骨髄バンクチャリティ麻雀大会で仲間たちと。
骨髄バンクチャリティ麻雀大会で仲間たちと。

 一方で、公務員として税や介護保険料の徴収業務に長年携わってきた山口さん。希望して取り組み続けていると言います。そこには、大きな病気を経験し、それを乗り越えた山口さんだからこその信念がありました。「公務員」、「白血病」、そして大好きな「麻雀」。山口さんの人生を通じて、公務員の仕事の価値と、自分の好きなことで世の中の役に立つ生き方に触れてみたいと思います。


地元FM局でも、骨髄バンク普及の活動を不定期で伝える。
地元FM局でも、骨髄バンク普及の活動を不定期で伝える。

入職1年目で白血病を発症し、生還。骨髄バンク普及の麻雀大会で恩返し。


 2001年6月、旧・脇町(現・美馬市)に入職し、公務員として歩き始めて2か月が経った頃。たまたま受けた整形外科での血液検査がきっかけで判明した、慢性骨髄性白血病。「2、3日の命」。医師からそう告げられ、本当に目の前が真っ暗になったと言います。そこからは、抗がん剤による治療に専念したものの、完治は保証できず、急性転化したら確実に死ぬという状況の中、悩み抜いた末に選択したのが、骨髄移植でした。骨髄バンクに登録後、半年後にドナーが見つかり、骨髄液の移植を実施。その翌年には職場復帰を果たしました。「いくつもの奇跡の連続だった」。振り返ってみて、山口さんはそう語ります。復帰後も不安は払拭できませんでした。再発のリスクが捨てきれなかったからです。そんな状況の中、心の支えとなってくれたのが、奥さん、母親、主治医の先生、そして麻雀を通じて知り合った仲間でした。ドナーが見つかって生き延びた、そんな自分にできることは何か。思い立ったのは、自分の大好きな麻雀。これで恩返しできないかということでした。


 2005年9月、東京の蒲田で、日本で初めての骨髄バンクチャリティ麻雀大会を実施。これなら、今まで骨髄移植にまったく興味がなかった人にも、骨髄バンクという存在を知ってもらうことができるのではないかと実現させました。たくさんのファンがいる人気プロを巻き込んで、募金が集まるだけでなく、実際にドナー登録してくれた人も。集まったお金は、骨髄バンクを支援をしているNPOに募金していると言います。その輪は少しずつ、けれども着実に広がり、同じように白血病を患う患者さんも参加してくれるように。その人たちからいただく「勇気が湧いた」、「ありがとう」という言葉が、今の山口さんのやりがいです。今年は8月26日(日)に、東京・新橋で開催されるということです。


毎回100人近くのプレーヤーが集まる。
毎回100人近くのプレーヤーが集まる。

税の徴収義務から、生活再建のサポートまで。二度目の人生を、人のために全力で。


 麻雀を活用した骨髄バンクの普及啓発活動の一方で、山口さんが美馬市で長年取り組むのは、税金などの徴収業務。現在は後期高齢者医療保険料の徴収業務に携わっています。白血病という大きな病気を経験したことで、弱い立場の人の気持ちに寄り添うことができるようになったからこそ、通常では必ずしも好まれない徴収業務に、自ら志願して関わっていると言います。住民と直に話ができ、一緒に考え、自分の持っている知識や経験で助言することで、生活が改善され、感謝の言葉を聞くこともできる。相談を受ける中で、滞納者に共通しているのは、税金だけではなく、他の公的な負担金も滞納しており、多重債務に苦しんでいる人が多いということ。ファイナンシャルプランナーの資格も取ったことで、滞納税を徴収するだけではなく、住民が納税相談に来た際に生活再建のサポートもできるようになりました。この分野のスペシャリストとして、徳島県内はもとより、中国、四国、九州まで、徴収業務の情報共有を行うネットワークを育んでいます。


美馬市では、後期高齢者医療保険料の徴収業務を担当する。
美馬市では、後期高齢者医療保険料の徴収業務を担当する。

 また、山口さんの中には、自分は骨髄バンクという制度に助けてもらったという思いがあります。だからこそ、いろいろな制度を作り、運用している公務員である自分が、今度はその制度によって人を救いたい。困った人が役所に相談に来られた時に、いろんな制度の活用について、トータルで相談に乗ってあげられるような窓口を作りたい。そんな思いが通じて、上司や周りの理解を得て、この4月から、担当が異なる国保・後期・介護保険のどの窓口に住民が来ても、他の制度の情報についても可能な限り、お伝えする仕組みを、担当者間で取り入れることになったと言います。「困っている人のために」。山口さんの思いが、実現に向けて大きく一歩進んだ瞬間でした。


部署を超えて情報共有する職場の仲間たち。
部署を超えて情報共有する職場の仲間たち。

 バイタリティあふれる公務員として活躍する山口さんのささやかな夢は、いつか、自分に新たな人生を与えてくれたドナーさんに会って、直接お礼を言うこと。「20 02年5月17日に骨髄移植を受けたというのは、僕とドナーさんしか知らない日なので」。日本では、ドナーは誰か分からない制度になっているため、「いつか見つけてもらいたい」と期待を持っているそうです。


徳島大学小児がん病棟へベビーチェアを寄贈。
徳島大学小児がん病棟へベビーチェアを寄贈。

 山口さんのように、自分の辛い経験を力に変えている人、自分の好きなことを活用して世の中の役に立とうとしている人って、公務員にかかわらず、きっと皆さんの周りにもたくさんいるのではないでしょうか。そうした人をそっと後押しするだけでも、世の中もっとよくなるんじゃないかな。そう思う取材でした。


\首長は見た/
多様化する行政ニーズの中で、優しさあふれる公務員に。


美馬市 藤田元治市長


 急激な少子高齢化や人口減少など、地方自治体を取り巻く環境は大きく変化し、市民の行政ニーズは多様化しています。その中で、職員一人ひとりが、自らの責任においてそれぞれの地域に応じた柔軟な行政サービスを提供することが必要であると考えています。また、それに伴って、職員にはコミュニケーションの能力はもちろん、課題を発見する力、そしてその課題を解決する力など、公務員として求められる能力もより高度化・複雑化しています。


 山口さんには、これからも自らの経験を生かし、市民のためにできることを精いっぱいに取り組む、優しさあふれる公務員としてさらなる成長を期待しています。