マッチが果たした役割。
今回紹介するリトルプレスは、『マッチと街』。昭和から平成初期にかけての高知のマッチと、昭和51年(1976年)当時の街の風景を収めた一冊。
収録されたマッチのデザインは、手描きのイラストや文字、独特のロゴが使われ、印刷技術の制約の中、限られた色数で工夫を凝らしている。色ズレを利用したデザインや、店のセンスを表す色や形の組み合わせ。当時の店の雰囲気や、賑やかさが伝わってくる。
店内でタバコを吸えることが当たり前ではなくなり、マッチ自体も使われなくなった現在、店の宣伝やロゴの入ったマッチを見かけることは、ほとんどなくなった。
代わりに登場したショップカードやフライヤーは、マッチという物としての役割がなくなり、デザインも洗練されたがゆえに、人の手の介在や、店の個性が見えなくなってきつつある。
『マッチと街』に掲載されているマッチは高知で集められたものだが、日本各地で、同じような手法で作られたマッチが、それぞれの店の個性、店主の趣向を表現し、当たり前のように作られ、配られていた。
昭和38年(1963年)、高知市帯屋町に創業し、現在も営業を続けるジャズ喫茶『木馬』。
ミュージシャンでもあったマスターの後を実妹、そして現在のママが引き継ぎ、創業当時の雰囲気を残す店として、現在の写真とインタビューが掲載されている。常連客に愛される『木馬』の魅力は、同店のマッチに描かれた手描きのベース奏者やロゴにも通じている。
高知市のそれぞれの町の成り立ちや歴史が語られ、マッチが紹介される。京町、新京橋、中央公園、追手筋、廿代町、柳町、はりまや町……。
町には、それぞれの歴史や個性を持った店があり、帯屋町にあったキャバレー『ツバキ』や『クラウンチェーン』、現在も営業する、追手筋の『BARフランソワ』や、堺町の料理店『葉牡丹』。
店の成り立ちや歴史、創業者の思いも紹介される。
共に掲載された、当時のマッチと街の風景に懐かしさを感じると同時に、失われつつある、それぞれの町、それぞれの店、そこに集うさまざまな人々が醸し出す、文化があったことを感じさせてくれる。
『マッチと街』は、その文化を次の世代、時代へとつないでいくと信じている。
今月のおすすめリトルプレス
『マッチと街』
昭和30年〜50年代、高知のマッチと街の風景を紹介。
発行:「マッチと街」出版委員会
企画:信田英司
文・編集・デザイン:竹村直也
2018年12月発行、
128×189ミリ(192ページ)、1944円
『マッチと街』著者から一言
50年前の高知の街で、とあるご夫婦が集めたマッチ・コレクションをベースに作り上げた一冊です。おしゃれであったり、風流であったり、力強かったり、ひとつひとつのマッチそれぞれに工夫があります。帯にも書きましたが、高知の街も今よりずっと楽しそうで、ちょっと羨ましい。https://matchkochi.thebase.in