テクノロジーの活用を掲げ、産学官連携を盛んに進める神戸市。その動きを、産官学の三者のハブとしてつなぎ、支えている公務員を紹介します!
産学官をつなぐ
“汗をかく”役割で、
地域課題の解決へ。
今回紹介させていただく公務員は、神戸市の産学連携課で働く、長井伸晃さん。今年の7月に、フェイスブックジャパンと全国の自治体で初となる事業連携の協定を締結し、SNSを活用した地域経済・地域コミュニティの活性化に取り組んできた仕掛け人です。行政と企業と大学が、その垣根を越えて融合するような実証実験を次々と打ち出してきた長井さん。最近は、神戸大学の非常勤講師という顔も。行政だけでは公の課題が解決できなくなっている時代において大切なことは何か、そして、兼業・副業のあり方が公務員の世界でも検討されている今、公務員の強みや、その意義について、お伝えできればと思います。
ICTを活用した
産学官連携へ奔走。
企業と地域をつなぐ
ハブとして活躍。
神戸市は、人口150万人を超える、全国の自治体の中でも有数の都市で、古くから港町として栄え、おしゃれなイメージで語られることも多い街です。そんな神戸市でも、抱えている課題は全国の自治体と同じ。縮小していく予算、公的サービスを担う職員の減少など、増え続ける課題。これらをどのように解決していくかが求められています。
その解決策として掲げられたのが、久元喜造市長が積極的に進めてきた、テクノロジーの活用。阪神・淡路大震災から20年が経過した2016年には予算の役割を大きく変え、震災以降歩んできたマイナスからゼロに戻す「復興」から、もっとプラスに変えていく「未来」への投資に変えました。その中で、ICTを活用した地域課題解決に取り組むべく、産学官民連携のコミュニティを形成するハブとして、公私・業界問わず奔走してきたのが、今回ご紹介する長井さんです。
これまでにも、フェイスブックに限らず、NTTドコモ、アシックス、ヤフーといったさまざまな企業と、最新の技術を活用した実証事業を次々と企画してきました。そうした実証事業を繰り返す中で、改めて見えてきた答えが、“人”。「結局最後は“人”なんです」と長井さんは話します。
どんな最新のテクノロジーであっても、課題解決に資さなければ意味がない。課題は地域によって多種多様であり、想像どおりとは限りません。だからこそ、それを実証するうえで大切なことは、実際に地域に溶け込み、市民としっかりと対話をすること。そのためには、テクノロジーを持つ企業と、実際に課題を抱える地域住民との間のハブとなり、その調整のために“泥臭く汗をかく”キーマンが必ず必要になります。その役割は、日頃から住民の方々に接して、つながりや信頼を得ている公務員こそが担えるはず。
そう確信した長井さんは、ITの知識や技術がない分、とにかくプロジェクトを進めるための調整役として“汗をかく”ことに注力してきました。そして、その効果をより大きく発揮するために、担い手をもっと増やそうと、市の全職員向けにITリテラシーをつけるための研修も企画しています。
ほかにも最近では、公務員に限らず地域のさまざまなキーマンがもっと出会える場をつくりたいと、神戸市の市外局番にちなんだ「078」という新たなイベントを民間の人たちと一緒になってつくり上げました。これまで音楽・映画・ITなど、それぞれの分野で別々に行われていたイベントを統合したことで、専門分野の違う感度の高い人たちが一堂に集まるイベントに。参加者の新たな刺激とイノベーションへと繋がり、地域のキーマンのつながりが広がっていく場となっています。
行政の外にも役割を持ち、
変わらない軸と強みを。
おもしろいと思ったら、
まずは一歩踏み出そう!
長井さんが持っているもう一つの顔は、神戸大学の非常勤講師。産学官連携は大事だと言われていますが、官の立場と学の立場を一緒に兼任している人は、そう多くはありません。行政はどうしても3年おきなど頻繁に異動があります。ジェネラリストの養成にはなるかもしれないけど、専門的な強みはつくりにくい。一方で、テクノロジーを使った街づくりは、すぐにはできないとても専門的な課題。テクノロジーの活用に最初に関わったため、継続して見ていきたいという思いがありました。そんな時、行政の外に役割をもらうことで、一つの軸を維持しながら、他のさまざまな分野も見ていくことができるのではないか、という思いもあったと言います。
公務員の兼業・副業の意義が議論されている中、定期的な異動を前提とした公務員の人材育成の実情からしても、行政とは違った変わらない軸を持ち続けることができるのは、大きな価値のあることではないかと改めて感じました。
「とりあえずやってみよう!」、これが長井さんのモットーです。自分の直接の担当ではない相談についても、一緒に考え、然るべき人につなげていると言います。「『行政は縦割りだ』と思われたくないし、『彼なら何とかしてくれるかも』と頼って相談に来てくれているはずなので、自分のところでできる限りのことを真摯に対応したい。それが信頼感につながり、逆に後々サポートしてもらうようなこともある。相談が増えることで、自身の担当外に関するさまざまな情報が自然と集まることもありがたい。こうした動きができるのも、ほかの部署の職員や同僚のサポートのおかげです。」と笑顔で語る長井さん。こうした日々の信頼の積み重ねが、大きな成果を発揮する秘訣なんだと思いました。
みなさんの周りにも、きっとオープンマインドを持って街に繰り出す公務員がいると思います。皆さん自身も一歩踏み出していただくことで、そうした地域課題を解決していくためのキーマンとの素敵な出会いが待っているかもしれません。
\首長は見た/
“人”との対話、つながりを活かし、
チャレンジし続ける職員に!
神戸市 久元喜造市長
神戸は、今年開港150周年を迎えた国際都市です。長井さんのように、グローバルな視点で考え、地域に溶け込み、市民としっかりと対話できる人材はとても貴重です。組織の壁にとらわれず様々な関係者と信頼関係を築きながら、スピード感を持ってアイデアの実現に取り組んでいただいており、大変心強く感じています。経験や人のつながりを活かして、これからもチャレンジし続けていただくことを期待しています。長井さんのような職員が増えていけば、神戸市役所はさらに明るく風通しの良い職場になっていくことでしょう。