財務省東北財務局で地域の金融機関と深く関わる菅野さん。金融機関と自治体・企業・大学などを有機的につなぎ、地方創生を進めていく取り組みを紹介します!
自分自身が
地域に飛び出すことで、
地域の金融機関と
自治体・企業をつなぐ。
「財務省』、『金融庁』、その名前だけ聞くと、“THE官僚”のイメージがあり、まさに霞が関、国家の中枢という感覚を持つ人が多いかと思いますが、その省庁で、「今こそ地方を」と、全国にある地方財務局を先頭に、地方創生に力を入れる動きが広がっています。その中で、ひときわ行動し、実績を生み出している一人が、今回紹介させていただく公務員、財務省東北財務局職員の菅野大志さんです。
菅野さんが日々感じているのは、地域の金融機関の持つ価値です。金融機関といえば、まずはお金を貸すという役割がありますが、それだけではありません。地域づくりに重要な、企業のニーズや地域課題、人の情報をきめ細かく持っている、実は欠かせない存在です。財務局の大きな役割の一つには、地域の金融機関の監督業務があります。しかし、ただ監督するだけでなく、金融機関の価値を認識し、活かしていく役割も担うべきではないか。菅野さんの取り組みを通じて、地域の金融機関が持つ価値や、個人と個人の信頼関係から組織間の連携につながる地方創生の仕掛け方などについて、お伝えできればと思います。
東日本大震災の
被災者支援から学んだ、
金融機関の価値と
地域に飛び出す大切さ。
菅野さんは、大学を卒業後、地元・山形県を含む東北を盛り上げたいと、宮城県仙台市にある東北財務局に就職しました。当初は、「金融機関の価値は、お金を貸すことだけ」だと思っていた菅野さんの考え方を大きく変えた出来事が、東日本大震災でした。まさに東北が一丸となってこの苦難を乗り切らなければという中で、通常は金融機関を監督している財務局と監督される金融機関が、一緒に「被災者支援」という同じ方向を向いたのです。一緒になって検討したのは、津波で家を流された被災者に対する行政の支援策をどうやって伝えていけるか。例えば、住宅を求めて住宅展示場に行く時に、支援策を一覧で知ることができるようにしてはどうか。行政の支援内容については財務局が精通していますが、住宅展示場やマスコミに対しては、普段からの取引先として人間関係が構築されている金融機関から声かけをしました。そこで菅野さんは、金融機関の持つ地元企業とのつながりという価値を実感しました。
その後、平成27年度に地方創生に向けた取り組みが本格化し、財務局としても地方創生に向けた支援を組織として取り組んでいくことに。その東北担当になったのが、菅野さんでした。どう支援を進めていくか、悩んだ時に思い浮かんだのが、震災での経験でした。地元の金融機関が持つ地域に関わる情報や人とのつながりという価値。そんな金融機関と新たな取引先のマッチングは、財務局こそ担えるのではないか。地域の金融機関にネットワークを持つ財務局が“つなぐ役割”を果たし、さまざまな業界を巻き込むことで、地域が本来持つ価値を引き出すことができるのではないか。
そのためには、自分自身が動かなければ、と考えた菅野さん。「国は地域の課題を聞いても、結局他人事だよね」。ある自治体職員から発せられた言葉が心に刺さっていました。会議をやっているだけでは、何も生み出せない。大事なことは、自治体や関係機関の本音を引き出し、解決に向けて一歩踏み出すことだ、と動き始めます。
地域の多様なつながりで、
地方電鉄を元気に。
金融機関と自治体や企業を
つなぐ役割を担うこと。
そうした思いで実現していったという、数あるプロジェクトの中から、ひとつ紹介させていただきたい。宮城と福島の両県を結ぶ重要な生活電車の阿武隈急行は、10億円の累積赤字を抱えていました。そこで、東北財務局が、東邦銀行・七十七銀行・仙南信用金庫・福島信用金庫に声をかけ、経営改善のノウハウを共有。沿線にキャンパスがある福島学院大学にも呼びかけ、地元学生たちの自由な発想と活力、利用者の視点を取り入れたグループ「地域活性化フォーラム」を結成。その中で生まれた「阿武急ビールプロジェクト」は、会社設立から30周年を迎えるため、その記念事業費をクラウドファンディングで集められないかというものでした。返礼品としては、はちみつが特産品で、沿線にビール工場があること、そして、酒税法がちょうど改正され、はちみつがビールの副原材料として使用可能になる法改正の動きを財務局として把握していたことから、全国初の「はちみつビール」の提供を目指すことに。デザインは、福島学院大学のデザイン学科の学生が担当。地元の人も巻き込んで広報も行った結果、全国的に知名度が高いとは言えない阿武隈急行のために、全国から300万円以上、1000人近くの支援者から資金が集まりました。今では財務局の手を離れ、地元のビール工場が独自で生産・販売し、沿線自治体でもふるさと納税の返礼品となる予定です。地方創生というと難しいことに感じるかもしれませんが、情報がちゃんと行き交い、交流が生まれるだけでも、まだまだやれることがあるんだなという確信を得ました。
菅野さんは、「自分は国家公務員でいうと、一般職。いわゆるキャリアではありません」と話します。でも、役職に関係なく、地道に地域の声を聞いて対応していたら、いろんな人が一緒に行動してくれるようになったと言います。個人同士の信頼関係と熱意があれば、肩書にとらわれないチームが生まれ、組織間の連携につながるうえに、会社や金融機関、自治体トップから新人や学生などの幅広い方や関係者から本音を引き出し、気軽に相談できるようになる。それが地方創生の鍵ではないかと思います。現在、金融庁に出向している菅野さんには、さらに新たな契機も。地域課題の解決に向けて、菅野さんの挑戦は続きます。
\長官は見た/
自治体や金融機関などとの連携で、
地域経済エコシステム形成に貢献を!
金融庁 遠藤俊英長官
金融庁では、昨年10月より、若手職員を中心とした人材育成・活用、組織の活性化に取り組み、職員の新たなアイデアを積極的に取り入れるため、政策オープンラボという自主的な政策提案の枠組みを設けました。この枠組みで組成されたチームの一つが、菅野さんをはじめとする庁内14名の有志で構成された「地域課題解決支援チーム」です。このチームが財務局などの国の機関や地方公共団体の公務員、さらには、金融機関や地域で活躍する志の高い方たちと連携することで、多くの機関・人が地域課題の解決に向けて協働し、地域経済エコシステムの形成に貢献することを期待します。