中川政七さんと編集長・指出が語る、日本のまちで「元気と幸せな関係」を生み出す方法
2019.04.05 UP

中川政七さんと編集長・指出が語る、日本のまちで「元気と幸せな関係」を生み出す方法

SASHIDE’S EYE

自分に何が足りないのか、突きつけられているか?

中川:一方で、最近教育や学びにすごく興味があって、人の根源的な欲求として成長することの喜びってあるじゃないですか。サッカーチームの社長になったのでサッカーを横で見ながら、社員の動きを見ながら、子どもが今中学生なので勉強しているのを見ながら……感じたのは、サッカーが上手くなるのも、仕事ができるようになるのも、勉強ができるようになるのも、全部一緒だなと、今更ながらに思ったんですね。

何か新しいことをできるようになる、学ぶというところには、そのお作法というか、型がある。それを最近「学びの型」だと僕は言っているんです。例えば、「足りないを知る」という型があるんです。レベルの高い世界のサッカーの試合を見ると、突きつけられるじゃないですか。自信を壊されかねないからそういう試合を見ないという選手がいるんです。悔しいから。

でもそれって、伸びるパターンではない。悔しかろうが自信を打ち砕かれようが、自分に何が足りないのか突きつけられてから初めて伸びていくと思うので。学校はちゃんとそれをセットしてくれているじゃないですか。全国模試とか強制的にやらされるから。でも学校では、模試の意味なんて教えてくれないわけです。「これは足りないところ、弱いところを知るためのものなんだ」って誰も教えてくれない。社会に出ると「テストがなくなって解放された!」と思うけど、でもそれは伸びるための術を失っていることでもあって。

こうやって僕も前に出てお話しすることが増えましたけど、それでもやっぱり学びは絶対必要です。知らないことは知らないって言うことがめっちゃ大切だなと強く思いますね。

指出:大事ですね。僕も、取材などで伺う地域のまちづくりの場が大きな学びですよ。僕は「今ものすごく人気がある」とか「ものすごい成功例だ」っていうところよりも、意識的に自分とはジャンルが違うところへ取材に伺う場合が多いですよね。自分の中では知らなくても、おもしろいことが起きているんだったら行ってみて、聞かせてもらっています。

地方在住デザイナーの時代が近々やってくる

坂本:地方在住のデザイナーについてもお聞きしたいです。自分は13年前に大阪から奈良・東吉野村に移り住んで、デザイン業をずっと行ってきました。そういう人たちが今どんどん増えていますよね。

SASHIDE'S EYE ローカルデザイナー デザインと経営
話すのは2回目、対談は初めてだという二人。それぞれの立場で長年関わってきたローカルへの想いを語った。

指出:『ソトコト』が手がけている、まちづくりとまちしごとを通じて人と人とが地域で出会うための求人サイト『イタ』のデザインは、新潟のチャーミングな男の子二人にお願いしたんです。もう四年ぐらいのお付き合いで、新潟に行って一緒に考えて、夜は飲みに行ったりして楽しいわけですよ。こうして首都圏からじゃなくローカルから新しい価値観をどんどん発信して、最終的に大都市にその価値観が広がっていくといいなと思っています。

また、奈良県と『ソトコト』が一緒に奥大和の地域資源を活かしたソーシャル・グッドなプランを考え、地域と関わるきっかけづくりをする『奥大和アカデミー』も行っています。坂本さんをはじめとして、ローカルなクリエイターの仲間たちとご一緒して、新しいプロジェクトをやることを意識的にやっていますよね。

坂本:場やコミュニティなど、まだ形になってないものをどのようにデザインしていくのか、どのように伝えていくのか、編集という言葉も含めて指出さんから学んでいます。受講した人たちがそれぞれアクションをしていくんですよ。

指出:地域の課題に答える距離がどのくらい近いかで、デザインの違いっていうのが結構あるんですよね。目の前に大きな誰も使っていない沼があるとか、そういうところからプロジェクトが生まれたりします。地方在住デザイナーは、すぐ近くにそうしたサインがあることが武器になるんじゃないかと思います。

中川:デザインって注目されている一方で、その本質は世の中的に理解されてない、創成期だと思うんです。地方で事業をやる上で、まず足りていないのは、経営だと思っています。予算表がある会社は、なんと1%強という印象です。予算表がないとは、何も意図せずに日々が流れていくっていうこと。つまり経営してないわけなんですよね。その後に、デザインが足りないっていう話になっていくんです。

僕は地域に住んでいるデザイナーはめちゃくちゃ貴重だと思っています。奈良でずっとそういうのを探しているなかで坂本さんらと出会えて、嬉しいんですよね。今も奈良クラブのことを手弁当でやってもらっているんですけど、めちゃ楽しいんですよ。

デザイナーはみんなもっと地方に行ったら、いいデザインの活用のされ方があるんですけどね。経営側がちゃんとデザインを理解しなくちゃいけないけど、そういう地方在住デザイナーの時代が近々やってくるんじゃないかなと思いますね。

坂本:それはすごく嬉しい話。

指出:やってきていますよ。

中川:でも、デザインだけで解決できるわけではないじゃないですか。デザイナーからの目線と、経営者側からの目線とがちゃんと噛み合って初めていい仕事になっていく。僕は経営者のクリエイティブリテラシー、クリエイターの経営リテラシー、その双方が伸びていくと、もっと幸せな関係がたくさん生まれるのにと強く思いますね。

photographs by Hiroshi Takaoka
text by Yoshino Kokubo

2019年2月8日 奈良県×ソトコト連携トークイベント「日本を元気にする方法〜奈良・奥大和を活性化させるヒントを学ぶ〜」@奈良県・高取町リベルテホール

キーワード

中川政七

なかがわ・まさしち
株式会社中川政七商店 代表取締役会長、株式会社奈良クラブ代表取締役社長。1974年奈良県生まれ。京都大学法学部卒業後、2000年富士通株式会社入社。2002年に株式会社中川政七商店に入社し、2008年に13代社長に就任、2018年より会長を務める。「遊 中川」「中川政七商店」「日本市」など、工芸品をベースにした雑貨の自社ブランドを確立し、全国に約50店舗を展開している。「日本の工芸を元気にする!」をビジョンに掲げ、製造から小売まで、業界初のSPAモデルを構築。また、自社ブランドで培ったブランドマネジメント力と生活雑貨業界に特化した販路を最大限に活かした業界特化型のコンサルティングで「産地の一番星」を数多く生み出し、日本の工芸を元気にするべく奮闘している。

坂本大祐

さかもと・だいすけ
合同会社オフィスキャンプ 代表。1975年大阪府生まれ。和歌山県でデザイナーとして活動をスタート。体を壊したのを機に、2006年、山村留学で中学生の頃に暮らした奈良県・東吉野村へと拠点を移す。移住後は県外の仕事を受けながら、今までの働き方や生活を見直し、自分にとって居心地のいい新たなライフスタイルを模索。ある出会いをきっかけに、奈良県内の仕事が増え、商品やプロジェクトなどの企画立案からディレクションまで手がける商業デザイナーとしてさまざまな案件に携わる。現在は、自らも企画からデザインまで関わった、2015年3月にオープンした「オフィスキャンプ東吉野」を運営している。

指出一正

さしで・かずまさ
月刊『ソトコト』編集長。1969年群馬県生まれ。島根県「しまコトアカデミー」、静岡県「『地域のお店』デザイン表彰」、奈良県「奥大和アカデミー」、奈良県下北山村「奈良・下北山 むらコトアカデミー」、福井県大野市「越前おおの みずコトアカデミー」、和歌山県田辺市「たなコトアカデミー」、高知県津野町「地域の編集学校 四万十川源流点校」など、地域のプロジェクトに多く携わる。内閣官房まち・ひと・しごと創生本部「わくわく地方生活実現会議」、「人材組織の育成・関係人口に関する検討会」委員。内閣官房「水循環の推進に関する有識者会議」委員。環境省「SDGs人材育成研修事業検討委員会」委員。著書に『ぼくらは地方で幸せを見つける』(ポプラ新書)。趣味はフライフィッシング。

  • 2/2