自分に何が足りないのか、突きつけられているか?
中川:一方で、最近教育や学びにすごく興味があって、人の根源的な欲求として成長することの喜びってあるじゃないですか。サッカーチームの社長になったのでサッカーを横で見ながら、社員の動きを見ながら、子どもが今中学生なので勉強しているのを見ながら……感じたのは、サッカーが上手くなるのも、仕事ができるようになるのも、勉強ができるようになるのも、全部一緒だなと、今更ながらに思ったんですね。
何か新しいことをできるようになる、学ぶというところには、そのお作法というか、型がある。それを最近「学びの型」だと僕は言っているんです。例えば、「足りないを知る」という型があるんです。レベルの高い世界のサッカーの試合を見ると、突きつけられるじゃないですか。自信を壊されかねないからそういう試合を見ないという選手がいるんです。悔しいから。
でもそれって、伸びるパターンではない。悔しかろうが自信を打ち砕かれようが、自分に何が足りないのか突きつけられてから初めて伸びていくと思うので。学校はちゃんとそれをセットしてくれているじゃないですか。全国模試とか強制的にやらされるから。でも学校では、模試の意味なんて教えてくれないわけです。「これは足りないところ、弱いところを知るためのものなんだ」って誰も教えてくれない。社会に出ると「テストがなくなって解放された!」と思うけど、でもそれは伸びるための術を失っていることでもあって。
こうやって僕も前に出てお話しすることが増えましたけど、それでもやっぱり学びは絶対必要です。知らないことは知らないって言うことがめっちゃ大切だなと強く思いますね。
指出:大事ですね。僕も、取材などで伺う地域のまちづくりの場が大きな学びですよ。僕は「今ものすごく人気がある」とか「ものすごい成功例だ」っていうところよりも、意識的に自分とはジャンルが違うところへ取材に伺う場合が多いですよね。自分の中では知らなくても、おもしろいことが起きているんだったら行ってみて、聞かせてもらっています。
地方在住デザイナーの時代が近々やってくる
坂本:地方在住のデザイナーについてもお聞きしたいです。自分は13年前に大阪から奈良・東吉野村に移り住んで、デザイン業をずっと行ってきました。そういう人たちが今どんどん増えていますよね。
指出:『ソトコト』が手がけている、まちづくりとまちしごとを通じて人と人とが地域で出会うための求人サイト『イタ』のデザインは、新潟のチャーミングな男の子二人にお願いしたんです。もう四年ぐらいのお付き合いで、新潟に行って一緒に考えて、夜は飲みに行ったりして楽しいわけですよ。こうして首都圏からじゃなくローカルから新しい価値観をどんどん発信して、最終的に大都市にその価値観が広がっていくといいなと思っています。
また、奈良県と『ソトコト』が一緒に奥大和の地域資源を活かしたソーシャル・グッドなプランを考え、地域と関わるきっかけづくりをする『奥大和アカデミー』も行っています。坂本さんをはじめとして、ローカルなクリエイターの仲間たちとご一緒して、新しいプロジェクトをやることを意識的にやっていますよね。
坂本:場やコミュニティなど、まだ形になってないものをどのようにデザインしていくのか、どのように伝えていくのか、編集という言葉も含めて指出さんから学んでいます。受講した人たちがそれぞれアクションをしていくんですよ。
指出:地域の課題に答える距離がどのくらい近いかで、デザインの違いっていうのが結構あるんですよね。目の前に大きな誰も使っていない沼があるとか、そういうところからプロジェクトが生まれたりします。地方在住デザイナーは、すぐ近くにそうしたサインがあることが武器になるんじゃないかと思います。
中川:デザインって注目されている一方で、その本質は世の中的に理解されてない、創成期だと思うんです。地方で事業をやる上で、まず足りていないのは、経営だと思っています。予算表がある会社は、なんと1%強という印象です。予算表がないとは、何も意図せずに日々が流れていくっていうこと。つまり経営してないわけなんですよね。その後に、デザインが足りないっていう話になっていくんです。
僕は地域に住んでいるデザイナーはめちゃくちゃ貴重だと思っています。奈良でずっとそういうのを探しているなかで坂本さんらと出会えて、嬉しいんですよね。今も奈良クラブのことを手弁当でやってもらっているんですけど、めちゃ楽しいんですよ。
デザイナーはみんなもっと地方に行ったら、いいデザインの活用のされ方があるんですけどね。経営側がちゃんとデザインを理解しなくちゃいけないけど、そういう地方在住デザイナーの時代が近々やってくるんじゃないかなと思いますね。
坂本:それはすごく嬉しい話。
指出:やってきていますよ。
中川:でも、デザインだけで解決できるわけではないじゃないですか。デザイナーからの目線と、経営者側からの目線とがちゃんと噛み合って初めていい仕事になっていく。僕は経営者のクリエイティブリテラシー、クリエイターの経営リテラシー、その双方が伸びていくと、もっと幸せな関係がたくさん生まれるのにと強く思いますね。
photographs by Hiroshi Takaoka
text by Yoshino Kokubo
2019年2月8日 奈良県×ソトコト連携トークイベント「日本を元気にする方法〜奈良・奥大和を活性化させるヒントを学ぶ〜」@奈良県・高取町リベルテホール