山口県美祢(みね)市の『公設塾mineto』で働く安重春奈さんは、不定期で「スナックはるな」を開催。地域事業に関わりながら、スナックのママとしても、人と人がつながる「場所づくり」を続けています。スナックの魅力を感じることができる本、ママを務める心構えを教えてくれる本がこちらです。
選者 category:スナック
『生き心地の良い町』は、卒論を書く時に読んだ本ですが、スナックという場所の存在意義を感じていただける内容だと思います。関係人口について考えるとき、「このまちで暮らし続けたい」「このまちに関わりたい」と思えるかってすごく重要です。「このまち」を何をもって「いいまち」と呼ぶのか。本書では「自殺率の低いまち=いいまち」と定義して、全国でも極めて自殺率の低い徳島県・海部町を4年にわたって現地調査し、その特徴をまとめていて、スナックと通じる点がありました。
いちばん印象的なのが「日常のたわいもない会話が多い」ということ。海属性である海部町は、家が密集していて人との距離が物理的に近く、住人同士が話す機会がおのずと生まれることで社会的つながりが強い。スナックって、お客さん同士の距離が近くて、お酒の力も相まっていろんな会話が自然と生まれますよね。さらに、ママという存在がその場の雰囲気をさりげなく調整して、居心地がいいように整えてくれる。まちにおいて、人と人とのつながりを育むスナックという場所の必要性を、改めて感じさせてくれた本でした。
岡本太郎の『自分の中に毒を持て』は、衝撃の一冊でした……というのも、「スナックはるな」を始めた頃、卒業後の進路に悩んでいたんです。いつか地元で地域の事業に関わりたいけれど、今すぐ地元に戻るべきか。それとも東京で経験を積むべきか。東京の会社に入社した後もモヤモヤしていたのですが、著者の「自分を大事にしようとするから、逆に生きがいを失ってしまうのだ。己を殺す決意と情熱を持って危険に対面し、生き抜かなければならない」という言葉にハッとしました。
本書では、意外な発想や個性、情熱のことを“毒”と言っているのですが、毒を持ってこそ人生を切り開いていけるのだと。自問した結果、地元に戻って現在の仕事に進もうと決めることができました。なので、人生の岐路に立っている人がいたらおすすめです! そして、この毒はスナックのママを続けるうえでも必要な要素。毒を持っているママだからこそ会いに来てくれるし、信頼関係も築くことができる。毒づいたママでいたいと思います(笑)。
田中元子著、晶文社刊
原田マハ著、徳間書店刊
神谷和代著、岩崎美術社刊
芸術家・岡本太郎の名著。生きるということ自体が、新鮮な驚きであり喜びであると。読後は、「一瞬一瞬を真剣に生きているか」が生きるうえでの指標になりました。読めば、必ず勇気をもらえる一冊です。
生き心地の良いまち ─ この自殺率の低さには理由がある/岡 檀著、講談社刊
著者が示した「人間関係が固定していない」「年功序列がない」などの特徴もスナックと通じる要素でした。まちのことを知りたい時、誰かとつながりたい時は、そのまちにあるスナックを訪れてみてはいかがでしょうか。