文字の種類や大きさ、配置などの体裁を整えるタイポグラフィ。今回は「游明朝体」ほか100書体以上の書体開発に携わってきた書体設計士・鳥海修さんに、文字で何かを伝えるとき、どの文字を使えばいいのか、そのヒントになる本を紹介してもらいました。
鳥海 修さんが選ぶ、タイポグラフィ×ローカルデザインのアイデア本5冊
人が読む書体は、「水のような、空気のような」ものでありたいと思って私は書体制作に向き合ってきました。人は目で文字を見て、文章を読みます。例えば小説を読むときに、文字に引っ掛かりを感じなければ、すんなり文章を読み進められるのです。だから何かを伝えたい場合、この多種多様な書体のなかから、自分たちが伝えたい内容に則した書体を選んでほしいと思いますが、簡単なことではありません。ここで取り上げた本は、堅苦しい本ではなく、「文字は自由だ」という観点から、書体の見え方・考え方について示唆を与えてくれそうな本です。
文字はどれも、誰かの手によって生み出されています。ブックデザイナー・平野甲賀さんは、文字は誰にでも読みやすく、つくり手の個性を全面的に出さないというのが通例であるのに対して、独自の強い個性の描き文字を生み出しました。そんな平野さんはどのように個性の強い文字をつくるのか。その過程を、これまで手がけてきた描き文字や装幀のデザインにも触れながら、平野さんの日常を交えて語られているのが、『平野甲賀〈装丁〉・好きな本のかたち』です。
『石川九楊源氏物語書巻五十五帖』では、書家・石川九楊さんが紫式部の『源氏物語』の文章を、筆で書いています。書かれてあるものは一見するとただの線のようにも見え、文字だと理解するにはとても難しいのですが、文字は自由でおもしろく、いろいろな形があると気づかせてくれます。
何かを伝えたいとき、自分の書いた文字や、好きな書体を選んでみるといいと思います。そして文字などを配置してみる。そこで自分が腑に落ちなかったり、他人から読みにくいと指摘を受けたならば、違う文字に替える必要もあるでしょう。実際に使い、その経験を重ねることで、書体の特徴を知り、自分自身の好きな書体も見つかるかもしれません。長く付き合う中で文字を知り、自分たちの最適を見つけていくのがいいと、私は考えています。