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特集 | Back to a ソトコト

【再掲】災害時「正しい車中泊」のススメ|2019年9月号掲載より/

雑誌『ソトコト』編集部

雑誌『ソトコト』編集部

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記事は雑誌ソトコト2019年9月号の内容を本ウェブサイト用に調整・再掲したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

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目次

自然災害が多い国だからこそ。災害から見る「正しい車中泊」のススメ

地震、ゲリラ豪雨、大寒波、酷暑……さまざまな災害が現在の日本を襲い、そして日常を奪うことは珍しくなくなりました。では「その時」に備えて、私たちはどのような準備が必要なのか? ここではクルマを味方にして命を守る、車中泊での避難方法を紹介します。

被災時の車中泊避難が、すべて悪ではない。

2016年4月、熊本地方を襲った震度7の前震。それまでの平穏な暮らしは一変し、その後も続いた本震と余震に怯えながら、多くの被災者が避難生活を送ることとなる。

そんな中、あるキーワードが、テレビやウェブサイトのニュースで連呼される。「車中泊」。全壊や半壊となった自宅に帰れなかったり、大きな揺れに不安を抱き、避難所の建物にいられなかった方々が、自家用車で寝泊まりを行い、避難生活を送る様子が数多くのメディアで紹介されたのだ。同時に「エコノミークラス症候群」という病名が毎日のように報道される。そこには「車中泊が原因で」という言葉がついてまわる。

被災から約1か月後の『グランメッセ熊本』。車中泊での避難生活はまだ続いていた。

もちろん、エコノミークラス症候群でなくなった方もおり、多くの被災者が体調不良を訴えたのは確か。しかし車中泊ができなければ、いったいどれだけの被災者が、眠れぬ夜を過ごしたことだろうか。車中泊がすべて悪いわけではなく、「正しい寝方」を知らないだけなのでは? クルマをもっと活用すれば、避難生活は少しでも快適に過ごせるはず。

ここでは、実際に車中泊避難の最前線にいた2名のキーマンに、当時の様子をお聞きした。そしてさらに、被災時、エコノミークラス症候群にならないための「正しい車中泊」の仕方を紹介しよう。

被災者であり、ボランティアとして。

熊本地震を経て学んだこと
防災は地域とのつながり、地域再発見が第一歩

土黒功司さん|ひじくろ・こうじ●熊本地震の支援活動を行う『一般社団法人よか隊ネット熊本』代表理事。熊本地震の発生直後は車中泊避難を行う被災者のひとりだったが、約1か月後、ボランティアに参加。最初の仕事は、紙に書かれた被災者のアンケートをデジタル化することだった。時間とともにボランティアが減っていくなかで、熊本出身だったこともあり、代表理事に。益城町内のコミュニティスペース『mirai-baco』にて。

ある意味、「タイミングが合った」ということなのだろう。

「被災する半年前、個人事業主として独立していました。おもな仕事はITのシステム開発など。会社勤めではなかったので、フットワークは軽かったです」と、ハキハキと話し始めたのは土黒功司さん。熊本地震から3年を経て、現在でも支援活動を続けている『一般社団法人 よか隊ネット熊本』の代表理事を務める。以前は東京、さらには海外での勤務経験もあったが、被災時は熊本県に戻って10年目。当初は家族とともに車中泊避難をしていた被災者だった。

震度7を記録した前震が起こったのは午後9時26分。当時まだ1歳だった子どもと妻を連れて、最寄りの避難所へ。小学校の体育館だった。「その後、何度も余震が起きて。怖くて建物の中にいられないんです。ライトとか揺れて。あのあと車中泊で避難生活を行ったのは、最初の避難の時の心理状態が大きかったと思います。ほかの人もかなりの方が外で過ごしていました」

その後、いったん自宅に戻り、片づけの最中、またもや震度7の本震が熊本地方を襲った。前震からほぼ1日後のことだった。「それから車中泊を始めました。場所は実家近くの農道でした」という判断は、近くに倒壊する建物がなかったこと、津波の情報が入った時、すぐに逃げられる場所、ということを考えたから。「私がその後のボランティアで感じた印象と試算では、県で発表している人数より数倍は、車中泊で避難生活をしている人は多かったはず」

車中泊避難を経験した当事者として、そして被災者を支援する一員として、土黒さんが「防災の最重要事項」として語ってくれたことがある。「日頃からの地域との交流、そして住んでいる地域の再確認です。個人での物理的な準備には限界があります。でも、日頃から近所の人や親類と緊急時の話をしていれば、さまざまな連携ができます。自分がどれだけ完全防備でも、結局まわりのことも考えますよね。だったら一緒に対策を練ったほうがいい。さらに自宅付近にどういった公園があって、山や海、川からどれくらいの距離か?などの周辺状況を知っておくことも大切」と、土黒さんは力を込める。

地域の方々と連携をとり、そして地域のことをより把握する。「これこそ地域再発見=地域づくりじゃないですか?」とニッコリ笑う土黒さん。地域づくりは、やはり防災としっかりとつながっている。

災害に対して、普段から備えていること、心がけていることは?
土黒功司さん:『一般社団法人 よか隊ネット熊本』代表理事
一般的ではありますが、水やラジオ、非常食、ライトなどは準備しています。ただ、家に準備しておくだけでいいのか? という自問自答は今もあります。被災時に協力できるように、町内の方々とのコミュニケーションは、日頃からとるように意識しています。

車中泊避難の象徴となったグランメッセ熊本。

日本の防災の未来形へ
避難所ではない場所で、被災者に何ができるか?

二子石隆一さん|ふたごいし・りゅういち●行政からの委託でグランメッセ熊本を管理・運営する『熊本産業文化振興株式会社』の代表取締役社長。被災時は、前職のテレビ局から出向し、顧問として4月1日からグランメッセ熊本に赴任したばかり。6月から代表取締役に就任することが決まっていたというが、その準備期間として働き始めた矢先の震災だったという。熊本県出身。3年を経て復興したグランメッセ熊本前にて。

「前震の際、帰宅して車のドアを閉めた時にドーン! と大きな揺れがきました」。熊本県・益城町の産業展示場、グランメッセ熊本の管理会社社長を務める二子石隆一さんが、当時を振り返る。グランメッセ熊本は、被災当時、2000台ともいわれた車中泊避難の”象徴“にもなった場所。そんな場所の責任者に着任するのは、本来6月からだった。「準備期間ということで4月1日から顧問で赴任しました。まさか2週間後、こんなことになるとは」。

まさかの事態ではあったが、二子石さんは仕事に向かう。前震の後、グランメッセ熊本へと車を走らせた。「到着した時は、まだ駐車場には20~30台くらい。館内の被害も少なく、避難所として使用することになりました」。前震で大きな被害を受けた益城町への救助などで、警察、消防、自衛隊、国交省などの関係者が、グランメッセ熊本に集まってきた。

「午前0時ごろには、すでに九州各地から応援が来始めていました。高速道路もまだ走れましたので」と、二子石さん。しかしその後、追い打ちのような震度7の本震。「館内に避難していた方々は無事に館外へ誘導できたので、けが人はいませんでしたが、ガラスやライトが大きく破損し、館内はこれで使用できなくなりました」

車中泊の避難場所として、どんどん集まってくる車と被災者たち。しかし実は、この場所は本来「避難場所」の指定を受けていたわけではない。さらに、二子石さんが所属する『熊本産業文化振興株式会社』は、行政からの委託で施設を管理しているとはいえ、あくまで民間企業。彼らの判断でできることは限られていた。

「熊本県、熊本市、益城町など、物資の問題や罹災証明の発行などは、行政の方にお願いし、医療はNPOや医療ボランティア団体に、施設の問題は我々が担当しました」。二子石さんは関係者たちと協議し、各部署の役割分担を明確にした。「現在では熊本地震を教訓に、災害時に役立つアイテムを購入しました。カセットガスで使える発電機、段ボールの組み立て式の更衣室など。被災者をサポートするために、当社の職員が3日間動ける備蓄もしています」。

本来この施設は、大規模災害時には物資を仕分けし被災地へ送る、集積拠点の役割を持つ。しかし熊本地震では、避難所としての役割も必要とされた。「もう大きな震災が熊本を襲わない」という確証はない。その時、グランメッセ熊本がどのような役割を果たすのか。日本の防災の未来形がそこにある。

災害に対して、普段から備えていること、心がけていることは?
二子石隆一さん:『熊本産業文化振興株式会社』代表取締役
就寝時、必ず枕元に懐中電灯を置くようにしています。本当はスリッパや靴なども近くにあったほうがいいですね。熊本地震のように夜に被災した場合、タンスや本棚が倒れていたり、食器やガラスが割れた暗闇の中で外に避難しなければいけませんので。

被災から 72 時間を凌ぐ、車中泊マニュアル

「もし、いま自分や家族が大きな地震にあったら……」。そんな状況を想定したシミュレーションを日々しておくことが大切だ。その「万が一」を考えるうえで知っておきたいことは、ひと口に「車中泊避難」といっても、被災直後・中期・長期避難の3段階で大きく状況は異なるということ。もっとも重要なのは、救援物資がまだ少ない被災直後の3日間(72時間)をどう凌ぐか?その後の約1か月間(中期)、さらに1か月以上(長期)の避難生活では、不安や不便はまだ解消されていないものの、現在の日本なら、ある程度の物資は供給される。つまり、まずは被災後72時間を想定した車中泊避難の方法やアイテムの準備が重要なのだ。

専門家に聞いてみた!

車中泊雑誌編集長・大橋保之(おおはし・やすゆき)
車中泊やクルマ旅の情報を発信する『カーネル』編集長。レジャーとしての車中泊の魅力を紹介しながら、地震や水害などで被災した際に車中泊をいかに活用するか?をイベントや誌面で提案している。

災害前:日常からチェック!

クルマのタイプと大きさ

まずは基本中の基本。マイカーの大きさやタイプを確認したい。「乗車人数=寝られる人数ですよね?」とホンマ編集部員。それはよくある勘違い。同じ1500ccでもセダンとステーションワゴンでは車内空間は異なる。また、コンパクトなシエンタと本格派のアルファードのように、同じメーカーのミニバンであっても、車格(大きさ)によって車中泊は大きく変わる。

シート・アレンジの確認。

マイカーのシート・アレンジと、その手順を把握しているオーナーは、それほど多くない。自分(と家族)が寝るなら「シートを倒すか? ラゲッジスペースか?」で迷ったホンマ編集部員。一般的には、シートならクッション性が高く、ラゲッジならフラットな寝床になる。できれば一度、車中泊を試して、自分と家族にあったシートアレンジと広さを確認しておくといい。

デッドスペースの活用

下記で紹介しているようなアイテムはしっかり準備しておきたいところ。そこで把握・活用したいのがクルマのデッドスペース。「通常の収納スペースだと、釣り道具を積む時に降ろしてしまうかも」というホンマ編集部員。そこで日常ではあまり使用しないスペースを見つけて、アイテムを備蓄しておく。ラゲッジの下側など、意外に忘れているスペースは結構多い!

汎用性の高い「積んでおきたいもの」

災害後:被災から 72 時間

とにかくフラット化

被災時の車中泊の大きな注意点は、とにかくリラックスして寝られるかどうか。その有効な方法のひとつが、寝床のフラット化だろう。特にシート就寝の場合、いくら背もたれを倒しても凹凸が気になることが多い。ホンマ編集部員も「衣服やタオルなどを置くとかなり楽」との感想。さらに足をできるだけ水平にすることによる、エコノミークラス症候群の予防も忘れずに。

目隠しすれば安心できる

体のリラックスは「フラット化」だが、心のリラックスは「目隠し」から。プライベート空間をつくって、パニックになった気持ちを少しでも落ち着かせたい。「洗濯ひもで簡易カーテンになりますね」とホンマ編集部員。全面が無理なら人通りの多い片面だけでも効果あり。乳児の授乳や女性の携帯トイレの使用時にも役立つ。携帯トイレの使用が、躊躇のない水分補給となり、エコノミークラス症候群の予防につながる。

エコノミークラス症候群にならないために
まず予防策で紹介したいのが、寝る体勢の改善。狭い車内で長時間、同じ体勢で寝ると、体内の血流が悪くなる。可能なら足は心臓と同じ高さまで上げて寝ること、同じ体勢で寝ないこと。また、血液の循環をよくするための適度な運動やマッサージも効果的。さらに血液の水分不足を防ぐためにも、意識的に水分補給に努めることも重要な対策だ。

中期避難

被災後72時間を凌げば、現在の日本の救助体制ならば何かしらの救援物資が供給されるはず。「あるもの」での対応から、すべてではないが「車中泊避難のため」のアイテムを準備できる可能性がある。より寝心地のいい布団や寝袋、クルマ用カーテン、アウトドア用のバーナーなど。注意すべきは、先の見えない避難生活からくる心労と体の疲れだろう。

長期避難

被災1か月を超えて車中泊生活となった場合、体も慣れて自分なりの「快適な車中泊生活」にはもはや不便はないかも。ただし、社会的にはすでに復興に向けた動きが進んでいるなかで、自分自身の生活の再構築はあまり進んでおらず、車中泊をせざるえない状況であることが予測される。避難生活をいつまで続けなければいけないのか? 社会復帰に向けた準備期間をクルマで行うことになる。

あると心強いアイテム

季節で変わる車中泊

寒波や暴風雨、猛暑などのように命にかかわる状況以外では、アイドリングストップでの車中泊生活が基本。その場合、温度と湿度、天候にどう対処すればいいのか? 万全の準備ができていない被災後72時間では、ガソリンも貴重。エアコンなしで過ごす夏の熱帯夜、梅雨の湿度、冬の積雪などの対応策を知っておきたい。

春・秋
もっとも車中泊に最適な季節が春と秋。熊本地震も春だったため、夏や冬に比べて避難生活中の健康被害が少なかった可能性は高い。唯一は春の花粉症対策が必要だが、これは被災時ではない日常でも対策しているはず。車中泊だから、というものではない。

夏・梅雨
日本の夏は暑い! 窓を開ければ虫が車内に入ることも。対策はひとつ。就寝場所の標高を上げること。これができるのもクルマだからこそ。中・長期避難では網戸や防虫グッズも必要。こまめな水分補給で熱中症対策も忘れずに!

冬・積雪時
寒いだけなら、防寒アイテムや毛布などで凌げる。問題は雪。防寒具を持たず、やむを得ずアイドリングで駐車する場合、マフラーが雪に埋もれて排気ガスが車内に逆流し、一酸化炭素中毒の危険も。身動きができなくなる前に、安全な建物へ。

photographs by Yuki Inui & Yasuyuki Ohashi text by Yasuyuki Ohashi

記事は雑誌ソトコト2019年9月号の内容を本ウェブサイト用に調整・再掲したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

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