アフリカの農業生産性の向上を目指し、投資で支援をする『アフリカ緑の革命ファンド』。みさいづ設立者である美齊津敬二さんが、駐日ケニア共和国大使館のソロモンK・マイナ特命全権大使と対談をしました。8月に横浜市で開催される「TICAD7」への期待、アフリカ経済の未来などについて聞きました。
民間からの投資でアフリカの農業の発展を支援しようと、『アフリカ緑の革命ファンド』を設立した美齊津敬二さん。アフリカでは人口増加が加速するなか、農業分野の成長は必要不可欠な課題だ。そこで、日本からの投資とともに、農業に関する技術やノウハウの活用、転用が進めば、アフリカ経済全体を発展させることができ、持続可能な開発も可能になる。
美齊津さんが今、注目しているのは、今年8月28日~30日に横浜市で開催される「第7回アフリカ開発会議(TICAD7)」。アフリカの約50か国の首脳らが参加する国際会議だ。1993年以降、日本政府の主導のもと、国連、国連開発計画(UNDP)、世界銀行、アフリカ連合委員会(AUC)と共同で開催し、アフリカの開発や経済発展について話し合っている。冷戦終結後、アフリカ支援に対する先進国の関心が低下したが、その中で日本はアフリカを重要視し、その実行の証しとして立ち上げた。アフリカ諸国の「オーナーシップ」と国際社会による「パートナーシップ」を掲げ、アフリカ開発に関わる国際機関、パートナー諸国、民間企業、市民も参加するオープンでマルチな会議となっている。とくに2013年6月に横浜市で開かれた「第5回TICAD(TICADV)」では、これまでの政府間での援助にとどまらず、民間企業による投資を促進することも主要な議題となった。
ケニア共和国は2016年開催の前回、「第6回TICAD(TICADVI)」の開催地であり、今回も主要参加国となる。駐日ケニア共和国大使館のソロモンK・マイナ特命全権大使は、「TICAD7」を機に、農業をはじめ、アフリカのさまざまな開発に参加する魅力やメリットを日本の投資家に知ってもらいたいという。志を同じくする美齊津さんが、マイナ大使と対談をした。
アフリカにおける、現在の経済状況は?
美齊津敬二(以下、美齊津) 前回のTICADVIの開催国として、ケニア共和国は日本企業のTICADVIに対する姿勢をどのように受け止めたのでしょうか。
ソロモンK・マイナ大使(以下、大使) TICADVIは首都・ナイロビで開催しましたが、日本企業がアフリカに進出を始めるきっかけとなりました。まさに「ゲームチェンジ」が行われたのです。TICADVIには200名以上の日本の企業のCEOらが参加しましたが、彼らの多くがアフリカに来ることが初めてでした。彼らはナイロビに滞在したことで、アフリカのビジネスにどのように関わっていけばいいのかを理解し、さらに関心を強く持つようになりました。具体的な例を挙げますと、アフリカに進出する日本の企業は2016年を境に社増えました。そのうちケニアに進出したのは18社です。
美齊津 現在、アフリカに進出する多くの日本企業は総合商社などの大手企業で、進出の理由は主に豊富な資源を求めることです。しかし、将来的には、もっとさまざまな業種の中小企業がアフリカに進出すべきでしょうか?日本の中小企業が得られるメリットがあれば教えていただけますか。
大使 日本の中小企業の進出を、アフリカ諸国は心待ちにしています!もちろんメリットはあります。現在、アフリカには約12億の人口がおり、約2兆USドルの経済が動いています。つまり、アフリカ市場は非常に大きいのです。2050年には人口が約20億に増加する見込みで、都市化によるインフラ整備も進み、国内消費が増えていくだけではなく、多くの人が多種多様なスキルを持つようになっています。これは日本の中小企業にとっても有用なものでしょう。
もうひとつ覚えておいていただきたいのは、アフリカのビジネスを取り巻く状況が変化したことです。アフリカのほとんどの国では、投資家を保護する法律を整備しています。ケニアでは国による為替コントロールがなく、自由な市場でビジネスをすることができます。
さらに今年5月には、22か国が批准書を寄託した、「アフリカ大陸自由貿易圏(AfCFTA)設立協定」が発効され、それらの国々が自由貿易圏として設定されました。これは単一市場の創設や、資本と自然、人の移動への貢献などを目標としています。投資家にとってより魅力的な環境になったといえるでしょう。
中間所得層が牽引する市場が伸びていく。
美齊津 とくにどのような業種の企業が進出したらよいとお考えですか?
大使 多岐にわたるニーズがあります。例えばIT系です。今回開催されるTICAD7では、「アフリカに躍進を!ひと、技術、イノベーションで」がテーマになっています。アフリカのITインフラは日々進化しています。中でもケニアのインターネット通信スピードは毎秒13、7と世界の平均スピードの2倍の速さであり、ITインフラはほかの産業と比べて進化しているため、日本企業にとっては進出しやすい分野だと思います。
概してアフリカは農業への依存度が非常に大きく、各国の成長は主にインフォーマルセクターなどサービス産業によって生み出されています。製造業をはじめとする日本の中小企業により、アフリカの豊富な農産物や、鉱物資源に付加価値をつけるビジネスを発展させ、雇用を促進することが重要な課題だと考えます。
美齊津 進出する日本企業に希望することは何でしょうか?
大使 2050年には20億人を抱えるアフリカにとって、安定した食料供給は必須の課題であり、アフリカ農業の潜在力を引き出すには大きな投資が必要です。農業面での生産性向上につながる事業を拡大してほしいです。農業の振興については、各国が国家予算の10パーセントを割り当てるよう宣言があったのですが、対応できない国もあり、やはり外国からの投資も必要です。こういった問題の解決につながる『アフリカ緑の革命ファンド』のような投資に期待しています。
美齊津 ありがとうございます。日本の企業や投資家が投資をさらに具体的に検討できそうな、アフリカの明るい経済的な見通しについてもう少し詳しく教えていただけますか。
大使 非常に明るい見通しがあります。統計ベースで述べると、2018年のアフリカ全体のGDP成長率は3、5パーセントでした。これが2019年には4パーセント、2020年には4、1パーセントになると予測されています。地域別に見ると、東アフリカが5、7パーセント、北アフリカ4、3パーセント、西アフリカ3、3パーセント、中央アフリカ2、2パーセント、南部アフリカ1、2パーセントです。特に東アフリカは成長が著しく、2020年には6、1パーセントと予測されています。それだけ投資対象としての魅力があるのです。
アフリカのインフレ率も下がっています。2017年に12、6パーセントだったのが、2018年には10、9パーセントになりました。2020年には8、1パーセントになる見込みです。近い将来には、ほとんどの国が1桁台になるでしょう。
GDPに対する債務残高比率は、52か国によって大きく違うものの、アフリカか国の平均で53パーセントであり、アフリカ全体でいえば、債務危機の兆候は見られません。負債は効率よく使えば一概に悪いものとはいえませんが、1桁台になるのが理想ではあります。
持続可能で、平和な経済発展を目指す
美齊津 アフリカに進出する日本企業が増えたとはいえ、まだ多くはありません。その理由をどのようにお考えですか?
大使 アフリカは日本の技術を高く評価しており、待ち望んでいます。しかし日本の企業は事前の調査を綿密に行い、意思決定を非常に慎重に行います。アフリカのニーズは喫緊であるため、長い時間待つことができないのが現状です。文化的な背景や教育の違いも関係しているでしょう。日本の初等教育の中でも、アフリカに関する学習機会が少ないと考えられます。アグレッシブに競争に打ち勝とうとする国々が多いなかで、日本企業の進出が少ない理由を挙げるならそういうことになるでしょうか。
美齊津 ケニアに特にフォーカスした場合、投資するべき分野は何でしょうか?
大使 1年ほど前、我が国のウフル・ケニヤッタ大統領は4つの重要分野を掲げました。製造業、食料自給、住宅供給、そしてヘルスケアです。この4分野はすべて関連し、その成長も大きなものになっていくでしょう。ケニアでは日本企業に対し、この分野に投資をしてほしいと伝えています。TICAD7のビジネスフォーラムでも言及する予定です。
美齊津 最後に、今回開催されるTICAD7に期待することを教えてください。
大使 今回のTICAD7のテーマは、テクノロジーやITイノベーションに関わることです。今回は多くのアフリカ企業のCEOが参加するでしょうし、多数の、そして多様なビジネスフォーラムも開催されます。「アフリカ大陸自由貿易圏協定(AfCFTA)」も運用が始まっていくなか、日本とアフリカが戦略的なパートナーシップを結ぶことによって、市場はさらに活性化されるでしょう。約12億の人口で築く、約2兆USドルが行き交う市場のメリットを、日本企業にも享受してほしいと願っています。
もちろん、ただ経済成長を加速させるのではなく、持続可能な社会をつくりながら実現させていかなければなりません。そのためにも先に述べたような、食料自給率の改善やヘルスケア分野の発展、教育機会の拡大、貧困削減に取り組んでいくことが必要です。その意識も伝えていきたいです。
そしてなによりも大切なことが、平和を促進していくことです。世界各国でテロなどによる深刻な事件が起きていますが、こういった問題の解決策を共に探していきたいと考えています。