「テクノロジーは、人間をどこへつれていくのか」が始まったのは、2015年5月号。今年で4年目に突入する。当時の『ソトコト』を開いてみると、特集が「トーキョーつながる観光案内」。東京オリンピックを見据えた未来の東京の話も、もう目の前に迫っている。思いを馳せた未来は、あっという間に目の前の現実へと変わる。
このたび、『未来のためのあたたかい思考法』(木楽舎)という本を上梓させていただいた。これまでの連載をベースに、未来へ向かって心地よく生きるための鍵を探究する旅を続け、ようやくひとつの地点にたどり着き、本という形になった。
本書の中に、こんな一文がある。
「テクノロジーは、人間をどこへつれていくのか」というタイトルは、「人間は、テクノロジーをどこへつれていくのか」であるべきだと考えるようになった。テクノロジーが人間をどこかへつれていくのではなく、人間がテクノロジーをどこへつれていくのかを問われているのだと。人間はどのようなテクノロジーを形づくり、テクノロジーをどのように活用するのか。正解などないなりに、希望の持てる未来といまをつくるため、高度テクノロジー社会を心地よいものにするための、思考のあり方。
そこに通底するのは、人間ならではの「あたたかさ」であるという結論に至った。どこか青くさいし、最初からあたたかさを持ち込む意図もなかったが、「人間は、テクノロジーをどこへつれていくか」の地図を描いているうちに、結果的にあたたかさが必要になった。肉体を持つ生物である人間は、テクノロジーと違って、あたたかさが生きる力になる。
つめたいコーヒーよりもあたたかいコーヒーを手に持った人の方が他者に対して優しくなれる。あたたかいお茶を出すことで好印象を持ってもらいやすくなり、商談がうまくいく。抱きしめ合うなど、あたたかい身体的な接触が結びつきを強くする。幸せホルモンとも呼ばれる「オキシトシン」の分泌量が増えるため、幸せに感じたり、人間同士のつながりが良好になるのだ。これらの実験結果が示すところはあたたかさの持つ力であり、あたたかさがもたらす効用はなんとなくではなく脳科学である。
テクノロジーによってあらゆるものを極めようとする人間の試みが途絶えることはない。これまでの歴史もそうであったし、これからも変わらない。だからこそ、人間にフィットするテクノロジーを産んで育て、テクノロジー社会を快適なものにするしかない。そこで役に立つのは、ぬくもり、あたたかさのある思考法だというのが本書に込めたメッセージだ。未来の人間のためであり、あなたのためである。未来はいまと切り離されていないから、いまのためでもある。
本書が提案する思考法の最大の特徴は「あたたかさ」を伴うことだ。それは、あなた自身をあたためるための思考法であり、ほかの誰かをあたためられる。あたたかさは人間特有の感覚であり、人工知能にはあたたかい思考法は持てない。擬人化や比喩を基調にしたわけではないのに、いざ書き終わってみると、さながら寓話集のようになっていた。未来といまをつなぐためには、寓話のような物語の力が必要だった。
32編の寓話的思考から、「あたたかい思考法」につながるヒントを見つけてもらえたらうれしい。「あたたかい思考法」が、あなたを望ましい未来へと導くことを願う。