大都市・名古屋で

大都市・名古屋で 村づくり? 『On-Co』がつくる、 懐かしくて新しいコミュニティ。

地域のつながりや支え合いは、都会にも求められているはずだ。 大都市・名古屋で多世代が関わるコミュニティをつくる『On-Co』に、 場づくりの秘訣や、これからの地域のあり方について伺った。

古民家を改装して感じた新しい文化。


東海道線・名鉄名古屋本線の線路沿いに位置する「LongRoof」。
東海道線・名鉄名古屋本線の線路沿いに位置する「LongRoof」。奥には名古屋中心部の高層ビルが立ち並ぶ。

愛知県名古屋市を舞台に、1キロ圏内で7軒の物件を運営するクリエイティブ集団『On-Co』。発起人の吉原旭人さんは、学生だった2011年、バンドの練習場所を探す中で、名古屋駅から徒歩15分に位置する築70年の空き家を発見。大家さんと相談してセルフリノベーションを行い、活用を始めた。


これが、後に「LongRoof」と名づけられるシェアハウスのはじまりで、『On-Co』の活動のきっかけだ。バンド活動を終了した2012年にはFacebookで住民を募り、友人で、現在は『On-Co』の代表を務める水谷岳史さんと共同生活を始めた。祭りごとが好きな二人の元には、日々多くの友人が遊びに来て、リノベーションを手伝ってくれたという。「改装した空き家に人が集まる様子を見ていて、みんなでつくってみんなで暮らす、新しい文化を感じていました」と振り返る水谷さん。楽しい雰囲気に惹かれ、会社員や学生、アーティスト、旅人、留学生など、多様な人たちが集まり、やがて住民も増えていった。「『LongRoof』は、実家のような心地よさと、住民同士が与え合う刺激が混ざった、不思議な場所です。それぞれの道に進んだ後も、相談し合う関係は続いています」と吉原さんは笑顔で語る。


これからの家族や地域の形を描き続けていく。


『On-Co』が手がけるシェアハウス・シェアスペース。

 

年齢、性別、職業など、ライフスタイルが違う人同士が共に暮らすことは困難も伴うはずだが、驚くべきことに、『On-Co』が運営するシェアハウスには個室やルールがない。「今のベストをみんなで話し合うことが唯一のルールです」と吉原さん。だからこそ、住民同士のコミュニケーションが活発に行われ、食事や外出をともにしたり、お互いを思いやる空気が自然に生まれている。その関係性を水谷さんは「友達以上、家族未満。いや、家族以上かも」と表現。『On-Co』の共同代表を務める藤田恭平さんも、学生時代に「LongRoof」と出合った際、「いつかこれが家族の形になるはずだ」と確信し、『On-Co』2軒目のシェアハウス「Fyume」を2015年に立ち上げた。


その後も多くの来訪者を迎え入れている『On-Co』。2017年には吉原さんが北海道札幌市での就職のために名古屋を離れたが、「文化はいろいろなものが積み重なってつくられるもの。今までのやり方だけにこだわらず挑戦を続けてほしい」と、水谷さん・藤田さんに思いを託した。そして現在、名古屋でシェアハウス3軒、シェアスペース3軒、飲食店1軒を運営するまでに活動は拡大。加えて、愛知県・東栄町での拠点づくりにも挑戦している。


どうして名古屋の中にここまで多くの場所をつくるのだろう。その理由を水谷さんは「コミュニティは狭く深くあるべき」だと説明する。


「フリーランスで働く人やクリエイターが同じ地域に安い家賃で住めて、ご飯も食べられれば、クリエイティブなことがもっとできるはず。僕らは名古屋を、何回でも挑戦できるまち、そして失敗できるまちにしたいんです」


『On-Co』の活動を見守る、名古屋・西区栄生の前自治会長・古橋義兼さん
『On-Co』の活動を見守る、名古屋・西区栄生の前自治会長・古橋義兼さん(中央)と近隣にお住まいの寺西さんご夫妻(左)。

また、名古屋の中でも『On-Co』の物件が集まる栄生駅周辺は人口減少が著しいエリアだ。空き家の数も多く、彼らの活動は地域課題の解決にもつながっている。この地区の前自治会長・古橋義兼さんは、騒音の苦情を伝えたところから『On-Co』との関係が始まり、今では応援者の一人だ。「道路の清掃など、地域の活動に積極的に協力してくれています。今では地域の人気者です」と、彼らに好感を寄せている。
 



新しくも、どこか懐かしい“村”のようなコミュニティ

新しくも、どこか懐かしい“村”のようなコミュニティ。


近隣住民でにぎわう『ぶち』。
近隣住民でにぎわう『ぶち』。コミュニケーションを欠かさない店主の黒野さんは人から相談を受けることも多く、企画につながることも。

『On-Co』が地域の人とより関わるようになった大きなきっかけは、2017年に古民家飲食店『ぶち』をオープンしたことだ。活用の依頼を受けた空き家を、当初は各シェアハウスの住民が集まれる場所にする予定だったが、「住民の挑戦を応援できるよう、自分たちも挑戦しよう」と飲食店を選択。シェアハウスの住民は賄いを無料で食べられるようにした。


店主を務めるのは、以前から「LongRoof」を訪れていた黒野英二さん。移動販売飲食店の経験を生かし、新しい発想の中に懐かしい味を残す「ぶち飯」の開発や看板デザインを担当。また、お店の道路側にキッチンをつくり、テイクアウトも行う。「近所の人にあいさつができるお店にしたくて」と黒野さん。その言葉どおり、地域の人とのコミュニケーションが増え、子どもからご高齢の方まで、これまで関わりが少なかった人たちも多く集まるようになっていった。ここも「誰もが挑戦できる場所」を目指し、住民のアイデアから生まれたイベント「音BUCHI」や、地元の高校生が持ってきた企画書から始まった『高校生食堂 いりゃあせ』など、多くのコトが起きている。


懐かしい味がする「ぶち飯」
上段左/北海道産牛肉コロッケ 三重県桑名市の米油で揚げる看板メニュー。胃もたれしないと評判。上段右/陶板ナポリうどん 7種類の雑穀が入った「七穀うどん」でつくる、陶板焼きナポリタン。 下段左/清流クレソンのぶっかけ冷やしうどん 「うどんが食べたい」という声から生まれた一品。栄養満点の野菜「クレソン」を使用。 下段右/濃厚ソフトクリーム 募金や企業の協力によりマシーンの設置が実現。募金分でふるまいソフトクリームを実施。

「僕らがつくる場所は不完全だからこそ、挑戦の垣根が低くなり、人が主体的に関われる余白が生まれています」と藤田さん。庭師の仕事もしている水谷さんは「僕らは空間を“庭”として捉えて、植えた木が自然に育つように、場の成長も関わる人に任せているんです」と、場づくりの秘訣を語る。


多世代の人が関わっている『On-Co』。そのコミュニティの形には新しさを感じるが、以前『ぶち』を訪れた70代の男性はその様子を見て、「昔に戻っている」と言っていたそうだ。水谷さんも「僕らがやっていることは全然新しいことではありません。昔からある暮らしや祭りを、少し形を変えてやっているだけ。昔の生き方にヒントを得ています」と話す。『On-Co』という団体名が「温故知新」から名づけられたのは、そのためだ。彼らが古民家をリノベーションするとき、新しい材を使わず、元からあるものを使うのも『On-Co』流。だからこそ、新しさの中に、どこか懐かしさを感じるコミュニティが出来上がっているのだろう


『On-Co』は名古屋の中に、つながりと支え合いが息づく“村”をつくろうとしているのだ。「僕らのようなコミュニティが名古屋という都会で生まれているのがおもしろいし、求められているのだと思います。地域で育つ子どもがいて、おじいちゃんおばあちゃんの居場所があって、挑戦もできる。そんな地域づくりが広がっていったら」と黒野さん。彼らの挑戦は続く。

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