栃木県南部に位置する小山市では、30年先の市のあるべき姿を描く「田園環境都市おやまビジョン」を2025年3月に策定する。そのために2年前から行政と市民、事業者が共に学び合い、対話を重ねている。
みんなで思い描くのは2054年。その時の小山市の姿は?
2022年、都市と田園、その両方のよさを享受でき、暮らしやすく、ウェルビーイングが実現できる「田園環境都市」というビジョンを掲げた小山市。市制100年を迎える2054年のあるべき姿を「田園環境都市おやまビジョン」として策定する取り組みが進行中だ。「行政と市民、事業者が一体となって動いています」と小山市総合政策部次長の篠原正さんは説明する。
栃木県小山市 人口/16万6069人 面積/171.75平方キロメートル(2024年2月1日現在)
まず着手したのが、小山市の11地区の風土性調査。各地区の歴史や自然環境、暮らしなどの現地調査と住民の聞き取りを行い、守りたい大切なことと、解決したい困りごとを浮かび上がらせている。調査に当たっているのは、ビジョン策定で小山市に伴走している『風景社』。同社の簑田理香さんによれば、22年度は調査と報告会、勉強会を実施。23年度はビジョン素案や策定の進め方を検討する場として、市民・職員・コンサル混成の「おやま市民ビジョン会議」を立ち上げた。調査も継続しながら、ローカルSDGsや生態系サービスと持続可能性、ウェルビーイングなどのテーマでセミナーやワークショップを6回開催してきた。
市内の各地区について知り、未来の姿を創造する。
24年2月に行われた7回目の「おやま市民ビジョン会議」では、大谷北部中部・大谷南部・桑・絹の4つの地区について考える合同ワークショップを実施した。『風景社』の廣瀬俊介さんと簑田さんより風土性調査の共有が行われ、次に白鷗大学地域メディア実践ゼミの代表から、各地区で行った取材での気づきを報告。その後グループに分かれて、各地区に何があり、何が足りないのかを話し合った。「同じ小山市内でもほかの地区については、意外に知らないものです。各地区の特徴が見えると小山市全体での連携が考えやすくなります」と簑田さんは4地区合同で開催した意図を語る。
その後は、「利便性」と「自然環境」という2軸からなるマップ上に、各地区の現在の位置と、未来にあってほしい位置をマッピング。グループによって各地区の位置が違っていて、現状の捉え方や未来の描き方がそれぞれであることが見えてきた。小山市をサッカーチーム、11の地区を選手に例えて「各地区がそれぞれによさを生かして、全体で小山市を盛り上げていければいいのでは」という示唆は多くの共感を得ていた。ほかにも、「子どもたちが輝ける地区にしたい」「時代は変わっていくもの。その時々の„ちょうどいい"を決めていく柔軟性が必要」などの意見も出た。最後に浅野正富市長が「小山市は都市部と農村部に二極化していますが、それぞれに役割があり、バランスが大切。どの地域もなくてはならないと改めて実感しました」と締め括った。
24年度はいよいよ「田園環境都市おやまビジョン」の策定に入る。「市民の意見をまちづくりに生かす取り組みがいろいろな場所で始まっていて、市民が力強い味方になっています。市民との対話を重視し、その声に耳を傾けることを真剣に行ってきました。これまでに出てきた多くの声と声を繋げた先に小山市の未来を描くビジョンが出てくると思います」と語る篠原さん。どんなビジョンが生まれるのか、期待が膨らむ。
参加者の声
「おやま市民ビジョン会議」はガチンコで市民がまちへの思いを語れる場です。意見は言い合いますが批判が少なく、議論を深めることができる稀有な場だと思います。
参加する度に新しい気づきが得られて、毎回とても勉強になります。正解がない中で、みんなで意見を出し合い、より自分ゴトとして感じられるビジョンを策定していきたいです!
「田園環境都市おやまビジョン」
策定の取り組みを随時、発信中!
記事は雑誌ソトコト2024年5月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。
photographs by Hiroshi Takaoka text by Reiko Hisashima