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連載 | SUSTAINABLE DESIGN

Architecture 風花山本

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目次

世代を超えて継承されていく住宅地のつくり方。

統計によれば、日本の住宅の寿命はおよそ30年と言われている。日本は、世界一の住宅短命国なのである。地震や台風などの自然災害の影響かと思いきや、実際には住宅のつくられ方や扱われ方、社会の習慣や制度のほうに問題がある。今回は、そんな現状に一石を投じるプロジェクトを紹介したい。広島市の設計施工で家をつくる工務店『沖田』による「風花山本」という分譲住宅地である。

写真で見てわかるように、新しく分譲した住宅地には見えない。家と家の間にフェンスはなく、シェアされている魅力的な庭が在る。それぞれの住宅のデザインも差異がありながら統一感もあり、まるで何世代も続く集落のような自然な表情をしている。いったいどうしたらこんな魅力的な住宅地を新しくつくることができるのだろうか。秘密は「定期借地権付分譲注文住宅」という、アイデアにある。定期借地権というのは、土地を売るのではなく、まとまった年限利用する権利である。今回は60年という期間設定がされている。60年経ったら元の所有者に戻るから、地主としては土地を切り売りせずに世代を超えて継承することができる。買う側からしたら、60年住めれば自分たちの世代の人生の拠点としては十分である。土地の取得費を抑えた分を建築費に回すことができるし、生活のゆとりとして残しておくこともできる。定期借地権に伴う建築協定を利用し、フェンスのない一体感のある町並みが実現可能となっている。

沖田さんたちがすごいのは、この実験的なプロジェクトを遂行するために、自分たちの会社自体もこの住宅地に引っ越してしまったことだ。住宅地を設計し、施工し、運営する。住宅ではなく、暮らしをつくるという言葉にものすごく説得力があるし、自分たちが設計した家で設計することは、何よりも学びになるはずである。60年後に、この町からどのような価値観が育ち、次の世代に継承されていくのか、本当に楽しみである。

 (110096)

『風花山本』
住所:広島県広島市安佐南区山本4
施工年: 2015年
©Kyoko Kataoka

記事は雑誌ソトコト2022年7月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

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