セレンディピティ消滅

連載 | テクノロジーは、人間をどこへつれていくのか | 60 セレンディピティ消滅

 2つのデータ同士に相関性はあるのか。あるとすればどのような関係なのか。データ分析においては、空気を吸うような営みだ。多数のデータ同士になれば、それは複雑になり、分析に骨が折れる場合も多い。
 因子分析という、統計学のデータ解析手法がある。特定の結果を引き起こす原因としての因子を分析することで、結果をもたらす要因を明らかにする。「結果オーライ、結果がすべて、などと流さずに、そこに至った理由をちゃんと探ろうではないか」ということだ。理由がわかれば、好ましい結果を能動的に導くことができるかもしれない。曖昧なものを曖昧なままにしたくない、潜在を顕在にしたい。科学的に生きるうえでごく自然な観点である。
 因子分析のルーツは教育心理学にあるといわれ、生徒の能力を測るために用いられた。さまざまな教科に対する各生徒のテスト成績の要因を分析し、たとえば読解力や勉強熱心度などの少数の共通因子と、共通因子の組み合わせでは表現しきれない、個別要因である独自(特殊)因子によって説明できると考えられた。因子分析は、医学や経済学などの学問分野でも応用されるようになり、マーケティングでも頻繁に使われる。自身も、数理モデルをつくり、人工知能で大量のデータから何らかの結果を予測する研究を行っているため、因果関係をあれこれ分析することはもはや癖のようなものだ。
 状況を確定するためのデータが整っていて、環境や条件が大きく変動しない場合は因子によって結果を予測しやすいが、その逆の場合は予測しにくい。もっともらしいデータがたくさん揃っているようでいて、株価予測が難しいのは、株価の決定要因が想像以上に複雑であることを表している。株価予測に関する手法は多数あれども、そのとおりに株価が動くなら、全員が株で長者になっている。人間の思考や行動を完璧にデータに置き換えることは困難であり、データ化できるものを増やして分析精度を上げる試行錯誤が重ねられている。世界を苦しめているCOVID-19においても、発生を予測できたら打てる先手もあったはずだが、生きるということは突然の不測の事態で覆われていることを再認識させた。
 その不測のCOVID-19により、対面せずにオンライン、リモートで打ち合わせや会話をすることが増えた。移動時間を省略でき、雑談を減らして議論に集中もできる。結果論として、感染症対策により仕事の効率化が一気に進んだ。ただし、オンラインで完結できる仕事ばかりではないし、どれほどのセレンディピティが日の目を見なかったのだろう。予測していなかった偶然によってもたらされる幸福、幸福な偶然を手に入れる力を意味するセレンディピティは、科学の世界でも大きな発見をもたらす。予測できなかった偶然の幸運が時に歴史を変え、無数の予測に収まらなかった因子と結果によってこの世界がある。そんなセレンディピティを、効率化、合理化が阻むことがないような社会のデザインを描きたい。


おがわ・かずや●アントレプレナー/フューチャリスト。アントレプレナーとしてイノベーションを起こし続ける一方、フューチャリストとしてテクノロジーに多角的な考察を重ねて未来のあり方を提言している。2017年、世界最高峰のマーケティングアワードである「DMA国際エコー賞」(現・ANA国際エコー賞)を受賞。北海道大学客員教授として人工知能の研究、沢井製薬テレビ・ラジオCM「ミライラボ」篇に出演し、薬の未来を提唱するなど、多方面でフューチャリストとして活動。人間とテクノロジーの未来を説いた著書『デジタルは人間を奪うのか』(講談社現代新書)は高等学校「現代文」の教科書をはじめとした多くの教材や入試問題にも採用され、テクノロジー教育を担う代表的論著に。近著『未来のためのあたたかい思考法』(木楽舎)では寓話的に未来の思考法を説く。
文●小川和也

記事は雑誌ソトコト2021年9月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

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