震災から10年。石巻市雄勝地区の人たちと同じ目線から感じ取る「おがつの匂い」。

震災から10年。石巻市雄勝地区の人たちと同じ目線から感じ取る「おがつの匂い」。

 2011年の震災で大きな被害を受けた石巻市雄勝町は町内に鉄道が通っていないので、宮城県の中でも特に交通の不便な地域とされています。いくつもの性格の違う浜を持つ入り組んだ湾岸の地形が続き、雄勝法印神楽などの郷土藝能で知られた地域。そんな雄勝町の『雄勝硯伝統産業会館』で、この夏1か月にわたる企画展「おがつの匂い」が開催されました。それぞれ写真、音楽、絵画、そして郷土藝能とジャンルを横断した小さな芸術祭のような企画展です。

 それぞれの展示や上演にはタイトルがついていて、「おがつのいろ」では“色が消えてしまった”2011年3月11日から写真家・鈴木省一氏が撮り続けた写真を展示。「おがつのこえ」では画家・宮本悠合さんが地元で信仰される龍神様などの神々や海産物となる生き物を描き、「十五浜写真展」では地元の人たちが地区ごとにリレーのように「写ルンです」を回して撮った思い思いの写真が展示されています。デジタルと違ってプリントするまで何が撮れているか分からない使い捨てカメラの写真展は撮った本人や写った人たちで随分盛り上がったそう。地元の郷土藝能の味噌作獅子舞や伊達の黒船太鼓の演奏も「雄勝の鼓動」として上演されました。

 作品は普通の展示方法ではなく天井から数珠つなぎに吊り下げられています。天井からぶら下がるおがつの日常が収められた作品たちは、ホタテやホヤの養殖棚を水中から見た姿そのもの。初めてこの地を訪れる人が見れば不思議な物体が、地域の人が見ればそれが何かすぐわかるようになっています。

水中で生きているホヤも、店頭で見るのとは全く違う姿をしている。

 そして音楽家・四倉由公彦氏の「おがつのね」は地元の人たちと共に行動して収めた映像に音を添えた作品。彼の作品からは雄勝の人々が毎日見ている生活の視点とこの地域の隠れた特徴が見えてきます。水面の下の色鮮やかな世界に揺れる海藻やホヤに音を添えた作品、雄勝の名産である硯石を切り出す作業と石の音を収めた作品。山に降る雨が染み込んで湧き出し、また海に向かって流れとなっていくまでをモチーフとした作品。そして灯籠流しが祈りを込めて執り行われる模様などが、地元の人にしか見えない視点でていねいに描き出されています。どれも何でもない、いつもの地域の風景に伴奏するようにシンプルな演奏が載せられています。

『おがつの匂い』の展示風景。地元の人にはひと目で養殖棚がモチーフだとわかるようだ。

 海の音と暮らしてきた雄勝の音の風景は、その後の復興政策で、波の音が遠くなるほどの大防波堤ができて一変してしまいました。

 最初は地域のためのデザインやものづくりのお手伝いをしていた表現者たちが、震災をきっかけに地域と深く関わるようになり、地元の人たちと同じ目線で一緒につくっていく今回の企画に自然とつながっていた形になっていったのだそう。

 地元の人が作品を観た時に「やっぱり10年通ってるだけあるな」と言われたのがうれしかったと四倉さん。不思議なことに彼らの作品からは微かに浜にいきづく風や波の匂いを感じることができるのです。ここでようやくこの企画がなぜ「おがつの匂い」なのかが理解できた気がしました。

text by Kenichiro Hoshi

記事は雑誌ソトコト2021年11月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

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