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連載 | 「自分らしく生きる」を選ぶローカルプレイヤーの働き方とは

人に愛される地域を残していきたい。 伝統工芸品サブスクに懸ける想い。

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徳島の小さな町に生まれ、幼い頃から地域に関わり、大学ではまちづくりの活動に取り組んできた田中さん。人の思いや愛着のある地域を残していきたいとの思いから、伝統工芸品のサブスクリプションのサービス化に取り組んでいます。田中さんの原動力は何なのか、お話を伺いました。

田中 美有
たなか みゆ|株式会社LIFULL。1996年、徳島県牟岐町生まれ。大学1年生のとき、地元の学生NPOに所属し、島のまちづくり事業に取り組む。ほかの地域にも興味をもち、夏休みにインターンシップで岩手県釜石市を訪れる。翌年10月より約1年間大学を休学し釜石に滞在し、鐵珈琲のブランディングに携わる。大学卒業後、株式会社LIFULLに入社。社内の新規事業提案制度にて、伝統工芸品サブスクリプションサービス「hibino」を提案・入賞し、事業化を目指している。
目次

地域での活動に興味をもつ

徳島県牟岐町で生まれました。友達と田んぼや山で走り回って遊び、自然に囲まれてのびのびと育ちました。よく笑い、おっとりした性格でしたね。

父方、母方どちらの祖父も大工でした。父方の祖父は林業と農業を兼業していて、スーパーマンみたいな人でしたね。一緒に山に行って木を植えたり、田んぼを手伝ったりしていました。母方の祖父は、専門的な大工職人でした。家が建つ過程を見せてもらったり、完成したあとのお披露目会に呼んでもらったりしていました。家ができあがる過程を見るのはおもしろかったですし、自分の祖父が建てたと思うと、誇らしい気持ちでした。

小学校に入ると、両親の影響で地域の活動に興味をもつようになりました。父は町の役場職員だったので、地域の人から「田中さんの娘さん」と声をかけてもらえることが多かったんです。人と話すのは好きでしたし、地域の高齢の方が行っている文化活動に一人で参加してみたり、地域の人の取り組みを紹介する活動をしたりと、積極的に地域と関わるようになりました。母とは、地元の新聞に載っている地域活動の記事を一緒にスクラップして残していましたね。

大学選択の際、祖父の影響で興味のあった建築系の道に進むことも考えましたが、地域での活動にも興味がありました。進路を狭めたくないと思い、文系、理系問わず、多様な分野を学ぶことのできる総合科学部に進学しました。

ものがもつストーリーを話すのが好き

大学生になって、カフェでアルバイトをはじめました。そのカフェの心地良い空間が好きだったんですよね。しかし私は、コーヒーよりも日本茶や紅茶が好きで。アルバイトがはじまり、店のコーヒーを飲むようになっても、苦くてなかなか好きにはなれませんでした。

あるとき、カフェで提供している、グアテマラ産のコーヒー豆のパッケージに、きれいな青い鳥が描かれているのを目にしました。その豆が好きな社員の方が、青い鳥がどこの国の鳥なのか、そのコーヒー豆はどういった思いで作られているのか、教えてくれたんです。

話を聞いてから飲んだコーヒーは、心からおいしいと感じました。ストーリーを知ると、いろいろなコーヒーが飲めるようになったんです。コーヒーが大好きになりましたね。それからは、お客様にもおいしく飲んでほしいと思い、接客の際にコーヒー豆のストーリーを話すようになりました。お客様が喜んでくれているのを見ると嬉しかったです。

ものがもつストーリーを知ることで、もの自体を好きになれる。そして、誰かとストーリーを共有して喜んでもらうことで、私自身も喜びを感じることができました。

愛されている地域を残したい

カフェでアルバイトをする傍ら、大学1年生から、地元の牟岐町でまちの課題解決に取り組む学生団体の活動に参加しはじめました。新聞のスクラップで団体の存在を知り、父からも行政が出資していることを聞いていて、やってみたいと思ったんです。1年生のとき、離島、出羽島での活動に取り組むことになりました。

私は、まちづくりの一環で、図書館をつくるプロジェクトをはじめることにしました。サポートしてくれる大人と一緒に、町の経費を使って事業をつくりました。

島で活動をはじめる前に飲み会が開かれ、島民の方と話す機会があったんです。そこで、島の現状や、島民の皆さんが感じている課題を改めて聞きました。島の人口は70人ほどで、高齢の方ばかり。小学校は閉校してしまい、若い人は島から出て行ってしまった。子どもの声が聞こえなくなってしまい、寂しい。この島の未来が見えない。

しかし、島民の皆さんは、島が好きで住み続けたい、と思っていて。では、どうすれば島を残すことができるのだろうか、と考えるようになりました。それでプロジェクトでは、島で一般的に使われている荷台「ねこぐるま」に本を乗せ、移動図書館をつくりました。「ねこぐるま」を使ったのは、それが、島の生活には欠かせない存在であり、残したい島の風景の一部となっていたからです。そして、いろんなところに移動して子どもを呼び、絵本の読み聞かせをしました。

本に見入っている子どもたちに、おばあちゃんが差し入れを持ってきてくれる。そんな風景が生まれ、人と人が繋がる場所を作れました。

ただ、島でまちづくりの活動を続ける一方で、漠然とした不安がありました。島を残すためにはどうすればいいのか、ずっと暮らしていきたいという思いを実現するためにはどうすればいいのか。その答えが見つかりませんでした。

他の地域を見てみたい、違う地域で挑戦してヒントを得たい、と思うようになりました。それで夏休みの1カ月半、ある人材会社が開催していた、岩手県釜石市での地方創生インターンシップへの参加を決めたんです。

プロダクトで地域を表現する

釜石の方たちは、よそ者である私たち大学生を快く受け入れてくれました。受け入れ力が高く、魅力的なまち。釜石のことが大好きになりました。

あるとき、インターンシップ先の社員の方に誘われ、釜石のとあるカフェの自家焙煎コーヒーを飲みました。そのコーヒーは体にすっと馴染んできて、とてもおいしくて感動したんです。

カフェのオーナーは、コーヒーで地域を表現し、地域のブランドとしてより多くの人に飲んでもらえるようにしたい、と話してくれました。そのあと、「ブランディングを一緒にやらないか」と誘っていただいて。「やりたい」と即答しました。どうせやるなら、釜石に住んで挑戦してみようと思い、休学を決め、一年後、再び釜石を訪れました。

地域のコーヒー。それは、地域の特色を詰め込み、地域の人たちに消費されるコーヒーだと思いました。

カフェで焙煎しているコーヒー豆で、どうやって釜石の味を表現するか。どんな名前や見せ方で届けるか。ちょうどラグビーのワールドカップの開催時期が重なっていて、世界中の人たちに釜石の味を届けたい、とも考えていました。

歴史を調べると、釜石は鉄の生産で栄えてきたまちだと知りました。そこで鉄瓶を使ってコーヒーを淹れてみると、お湯がまろやかになりとてもおいしくて。また、釜石では黒豆の生産が盛んなことから、黒豆を焙煎してブレンドしたコーヒーも作ることにしました。ブランドは、「鉄」を表す「鐡」という文字を入れた「鐡(くろがね)珈琲」という名前に。鉄の歴史を表す名前にすることで地域を表現したい、というオーナーの気持ちが詰まった名前です。

商品開発の他にも、イベントを開催したり、普段はお休みしている日にも店を開いたりして、地域の方に飲んでもらう活動も行いました。新聞の取材も受け、徐々に地域の方に認知されていきましたね。

地域とは、その場所にしかないもののことだと思っています。地形や環境、そこに住む人、その人たちの習慣や文化。それを、コーヒーというプロダクトを通して表現できるんだとわかったことは、とても大きな発見でした。

ストーリーをもつ伝統工芸品を残す

コーヒーのブランディングのプロジェクトでは、なかなか認知が広げられず、力不足を感じていました。また、コーヒー以外にも、地域を残していく手段をもちたいと考えていたんですよね。そこで、大学卒業後は、株式会社LIFULLに入社しました。釜石にいた頃に出会った会社で、キャリアアップが早く、若いうちから力を付けられると感じたからです。

入社後は、住まい選びや家づくりをしたい方から相談を受ける部署に配属になりました。住み替えを検討される方と一対一でお話しできる仕事で、とても楽しかったのです。しかし、「地域を残したい」という想いを形にする方法を見つけるために、ほかにも何かやりたいと思い、社内の新規事業立案制度への応募を考えはじめました。

それで、思いついたのが釜石で出会った鉄瓶でした。お湯を沸かすときに鉄瓶を使うと、鉄分が溶け出して水のミネラル成分にくっつき、お湯が軟水状態に近づきます。すると、まろやかな口当たりのお湯ができるんです。

こんなに良いものがあることに驚きましたし、自分自身がそれを知らなかったこと、一般的にも知られていないことにも驚いたんですよね。鉄瓶との出会いをきっかけに、地域にはいろいろな伝統工芸品があると知りましたし、生活の中に取り入れることで生活が豊かになると気づきました。そんな伝統工芸品やその職人さんのことを広めていきたい、これを事業にしよう、と思ったのです。

鉄瓶のように、人の思いがのった、ストーリーのあるものを伝統工芸品だと、私は捉えています。地域の歴史や文化、技術などの要素が詰まった伝統工芸品を残していきたい。伝統工芸品のもつ良さやストーリーを、多くの人に知ってほしいと考え、新規事業の構想を練っていきました。

地域を残す努力をし続けたい

現在は、伝統工芸品サブスクリプションサービス「hibino」のサービス化に取り組んでいます。さまざまな窯元・作家のうつわ・道具を、毎月定額で借りて試すことができるサービスです。

職人が手間ひまかけて作った伝統工芸品は、高額なものが多く、購入するにはハードルが高くなりがち。しかし使えば使うほど良さがわかり、愛着がわくようになるはずです。もっと気軽に使えて、身近に感じてもらえるようにしたいと考え、このサービスの発想に至りました。

日々の生活で使うことで、伝統工芸品や職人の技術を未来に繋いでいきたい。日常の中で伝統工芸に触れる人を増やし、その良さや、ストーリーのあるものに囲まれた豊かな暮らしを伝えたい。そんな思いを、サービス名「hibino」に込めました。伝統工芸品を使うことが当たり前になる世の中を目指したいです。

今は伝統工芸や文化の分野で取り組んでいますが、今後は地域を残す取り組みにも着手していきたいと思っています。その地域に愛着を持っている人、住み続けたいと思っている人がいるにも関わらず、地域が消えていってしまうのを見ているだけなのは嫌なんです。必ずしも今の状態のまま残らなくても、何らかの方法で、人の想いや愛着を次世代に繋いでいきたい。地域を残す努力をし続けたいです。

インタビュー:粟村 千愛 ライティング:宮武 由佳
この連載記事は、自分らしく生きたい人へ向けた人生経験のシェアリングサービス「another life.」からのコンテンツ提供でお届けしています。※このインタビューはanother life.にて、2021年9月27日に公開されたものです。

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