『くらしのアナキズム』は、文化人類学者の松村圭一郎が、エチオピアでの経験を契機に、庶民と社会の適正な在り方について模索した一冊だ。エチオピアでは、この100年の間に、植民地、帝制、独裁政権、連邦共和制へと、国の姿が変わり続けてきた。その間、森を伐り開き畑を耕す暮らしを続けてきた人々は、村の外からやってくる新しい支配者に翻弄されてきた。そんな国家が国民を守ってくれない社会の中でも、力強く生きてきた人々の営みを、松村は「自律共生的」と評している。
読了後、僕は、真っ先に自分の暮らしている集落の人々の顔を思い浮かべた。集落では、生活に関するほとんどの問題を顔が見える範囲で解決することができる。僕の本業は器屋だが、火事があれば消火に駆けつけるし、祭りの時は笛を吹く。異なる背景を持ちながら相互補助で成りたつ小さな営みは、「みんなちがって、みんないい」の実現だと言える。世界が混乱している今こそ、僕らは足元の営みの中から、大きなシステムに頼りきらない在り方を考えなくてはいけないのではないだろうか。
「みんなちがって、みんないい」は、童謡作家・金子みすゞの言葉だ。個人の自由が認められない時代に早逝した作家の言葉だと知って読み返すと、胸の奥がグッと苦しくなる。
松村圭一郎著、ミシマ社刊
text by Keiichi Asakura
朝倉圭一(あさくら・けいいち)●1984年生まれ、岐阜県高山市出身。民藝の器と私設図書館『やわい屋』店主。移築した古民家で器を売りながら本を読んで暮らしている。「Podcast」にて「ちぐはぐ学入門」を配信。
記事は雑誌ソトコト2022年3月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。