2011年3月11日に東日本大震災があった東北の“いま”を伝えるコーナーです。東北で生まれているソーシャルグッドなプロジェクトや地域で活動する人々を紹介します。
『イシノマキ・ファーム』の設立は2016年。代表の高橋由佳さんはもともとソーシャルワーカーで、2011年に障害者の就労支援を行うNPO法人『Switch』を立ち上げ、石巻と仙台で活動を行っていた。そんななか、石巻の農家から農地を貸してもらうことになり、ひきこもりの若者や仮設住宅の高齢者らと農作業を行ったところ、みんなが笑顔を見せ元気になったという。農業の力を実感した高橋さんは、「農を通して自分らしい暮らしをつくる人を増やす」ことを目指して『イシノマキ・ファーム』を立ち上げ、2017年から本格的に活動を始めた。
「農業経験はゼロでしたが、いろいろな人に助けてもらいながらやってきました。農作業をしていると地域の人たちが声をかけてくれるので、コミュニティに入りやすいんですよね。また、ガチガチに農業をやるというのではなく、ゆるく楽しみながらというスタンスなので、より多くの人が関わりやすいと思います」と高橋さんは話す。実際、『イシノマキ・ファーム』で働きたいと、県外から移住してくる若者が何人もいる。
『イシノマキ・ファーム』では、ビールの主原料となるホップを2017年から栽培している。「せっかくホップを育てるならビールをつくりたい」と、その年の夏にクラフトビール「巻風エール」の試験醸造を開始。地元をはじめ県内外の多くの人々に飲んでもらい、好評を博した。その後、周りから委託醸造ではなく自前で醸造してみてはという声が上がり、石巻初の醸造所をつくることを検討するようになった。
醸造所の開設場所を探していたところ、2017年に閉館した映画館『石巻日活パール劇場』が売りに出ていることを知った。「映画館だったので広くて天井も高く、醸造所にぴったり。買い手が付かなかったら解体されると聞き、地域の文化をつくってきた場所をなくしたくないという思いもあり、買い取ることに決めました」と高橋さん。2021年春、醸造所づくりの計画がスタートした。
それから1年。醸造タンクが入るなど、醸造所のオープン準備が進められている。「町の人たちも醸造所のオープンを楽しみにしてくれています。付近でも、近年若い人たちが劇場やアトリエをつくるなど、新しい動きがあります。シャッター通りになってしまったこの商店街に、かつてのように賑わいが戻ってくるよう、みなさんとも連携して盛り上げていきたいですね。そのなかで、新しい醸造所がコミュニティの場になったらいいなと思っています」と高橋さんは話す。
記事は雑誌ソトコト2022年7月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。