東北のことを知るきっかけをつくり、東北ファンを増やす取り組み「Fw:東北 Fan Meeting」(フォワード東北ファンミーティング)では、東北への移住をテーマにした「東北暮らし発見塾」を行っています。2023年2月7・8日に、特別編として「移住支援者のための関係人口ワークショップ」が開催され、およそ30名の参加者が集まりました。イベントの様子を紹介します。
「パタンランゲージ」を用いて「関係人口の法則」をつくる。
「移住支援者のための関係人口ワークショップ」ということで、今年度の「東北暮らし発見塾」開催地の移住コーディネーターや自治体担当者、岩手県・宮城県・福島県の移住コーディネーターや自治体担当者が参加しました。登壇者は次の4名。「関係人口」の提唱者のひとりである『ソトコト』編集長の指出一正、首都圏と地域をつなぐマッチメーカー、『JOIN(一般社団法人 移住・交流推進機構)』事務局次長・総括参事の渡邊明督(あきまさ)さん、観光起点でのファンづくり名人、『eResort』代表の釼持勝(けんもつまさる)さん、会津のDX実践者、総務省 地域情報化アドバイザー/西会津町CDO(最高デジタル責任者)の藤井靖史さん。ファシリテーターは『エイチタス』代表の原亮さんが務めました。
復興庁の立岩里生太(りうた)・参事官による開会挨拶の後、まずイントロセッションとして、「パタンランゲージで関係人口の法則を作ろう」が行われました。「パタンランゲージ」とは、当該テーマに必要な多数の要素をキーワード(=パタン)として言語化し、各キーワードを関連付けて文脈化(=ランゲ―ジ)することで、アクションの手引きを描く手法です。
ワークショップの趣旨・目的やプロセスについて、ファシリテーターの原さんから、「移住のプロセスとして重要な『関係人口』を拡大するための法則について、ゲスト講師のインプットを通じてキーワードを抽出し、『パタンランゲージ』の手法を用いて、移住促進に取り組む参加者のみなさんと一緒に『関係人口の法則』を編み上げていきます」と説明がありました。
まず、7グループに分かれた参加者がグループごとに自己紹介を行ってから、最初のセッションへ。各セッションでは、①講師の話を聞きながら、キーワードだと感じた言葉を1語ずつ付箋に書き出していく、②講師の話の後に、キーワードを書いた付箋を使いながら、グループ間で気づきや感想などを共有する、③セッション最後に、各自が書き出したキーワードのうち、もっとも心に留めておきたいものをグループで1つ抽出する、というプロセスでワークが行われます。各セッションで、どのようなキーワードが抽出されるのでしょうか。
“ごきげんな感じ”のある地域に人は集まる。
セッション1は「教えて指出さん!多様な関わりの作り方」というお題で、指出が話をしました。ワークショップ前日に発売された『ソトコト』最新号(2023年3月号)の特集は、「関係人口入門2023」。自らが担当した記事にも触れながら、指出は「関係人口」について「定義を狭めず、すそ野を広げることが大事」だと語りました。また、多様な関わりをつくるには、ときめき、わくわく、「なんかいい」といった“ごきげんな感じ”が重要だとのこと。「人の顔が表れている地域には、この“ごきげんな感じ”が生まれやすく、人が来やすいんですよね。“ごきげん”は『ウェルビーイング』の超意訳で、『ハッピー』という瞬間的なものではなく、持続的なんです」と指出は話しました。
指出の話を受けて、各グループで気づきや感想をシェアし、さらに全体で質問やコメントを共有しました。岩手県久慈市から参加した藤織さんは、「『なんかいい』という“まちのフィーリング”を感じてもらうにはどうすればよいでしょうか?」と質問。それに対し指出は、「『なんとなくいい』を言葉にしてパターンにしてみましょう。“関係案内所”のような、偶然の出会いを必然的につくる人がいることも大事です」と答えました。
また、宮城県気仙沼市から参加した加藤さんの「関係人口が地域に入る先に、どのような未来・社会があるのでしょうか?」という問いかけに対しては、「関係人口は地域に“新しい言葉”を持ってきてくれます。それは、目の前の未来である“明日”を求めすぎない、ちょっと違った視点が入った“明後日の社会”につながります。そこからイノベーションが生まれるのです。ただ、“明後日”を夢見るだけでは地域の課題は解決しないので、自治体の施策などでは、どんな関係人口を求めているかを明確にしておいたほうがいいですね」とコメントしました。
最後に、各自が書き出した中からグループで1つキーワードを選び、セッション1は無事に終了しました。
さまざまなセクターから、移住・交流について考える。
セッション2は、『JOIN』事務局次長・総括参事の渡邊さんによる「JOINと考える首都圏での移住アピール作戦」。クイズ形式のアイスブレイクに始まり、『JOIN』の活動概要や移住のトレンドについて紹介がありました。そして渡邊さんは、「ジョハリの窓」(自己分析・自己理解のための心理学モデル)を使って、「地域側も移住交流希望者も知らない“閉ざされた窓”を一緒に掘り起こしていくことで、“開かれた窓”が大きくなり、関係人口につながる」と強調しました。
全体での質疑応答や感想シェアでは、現場の人間ならではの切実な声や質問が上がりました。「地域と地域おこし協力隊のマッチングをうまく図るにはどうしたらよいでしょうか」という質問に対し、渡邊さんは「地域おこし協力隊にやってもらいたいことを明確に提示することが重要。将来地域に残ってもらうには、たとえスキルが十分でなくても、育てていくつもりで採用しては」と回答。「地域おこし協力隊の募集でも、ぼんやり伝えるよりポイントを絞ることが大事。見せ方を変えることで価値が伝わります」と述べました。また、「移住イベント後に移住希望者とつながりを持つのが難しい……」という悩みには、「イベントではあくまで情報提供を行い、その次のアプローチで相手の話をきっちり聞くことが大事です」とアドバイスしました。
最後にまたグループでキーワードを1つ抽出し、終了。移住・交流を推進するうえでのヒントが詰まったセッションでした。
続くセッション3のタイトルは「観光から導く地域と来訪者の持続的なご縁づくり(を、飛び越えて!)」。講師は『eResort』代表の釼持さんです。「地方地域にはイノベーションが必要」という大前提に立ち、そのためには外的要因の把握(=各種統計の確認)から始めることを提唱。「実は東京の人がいちばん使えるお金がない。関係人口・交流人口でも狙うべきは首都圏以外」という衝撃的な事実や、「その地域を訪れるリピート者数は、単純に“会話量”に比例する」という有益な情報など、さまざまな分析にもとづいたデータを紹介してくれました。
グループディスカッション後の全体共有では、活発な質疑応答が行われました。「リピート者数は会話量に比例するということですが、東北の人はシャイなのでネガティブな発言が多い。それでも大丈夫でしょうか?」という質問に、釼持さんは「会話はネガティブな内容でも問題ありません。とにかくコミュニケーションがあればOKです」と回答。コミュニケーション関連で、オンライン・リアルの使い分けについては、「メールなどで事前にコミュニケーションを取り、その後にリアルで会うと愛着を持ってもらえます」とアドバイスしました。
釼持さんはまた、「お金があるところに人が集まるので、人を呼び込むには地域の平均所得(=使えるお金)を上げることが大事。それが可能な地域産業があるかどうか、また、所得を上げるために生産性を上げていけるかどうかがカギです」と強調しました。目から鱗が落ちるような情報や、釼持さんの的を射た助言に、参加者は大いに刺激を受けたようでした。
1日目最後のセッション4は、「デジタル活用で関係人口を増幅させるには?」というテーマで、総務省 地域情報化アドバイザー/西会津町CDOの藤井さんが話をしました。自身も交流人口だったという藤井さんは、きっかけとなった西会津国際芸術村をはじめ、まちに人を呼び込む仕掛け「コ・コクリ!会津」や、保育園留学(短期移住)など、西会津町でのさまざまな実践例を紹介。「西会津は交流人口が多く、豪雨災害時にも多数の支援をいただきました。有名な自治体ではありませんが、自分たちがつながりたい人と、SNSなどで何となく・よい感じでつながっています」と藤井さんは話しました。
また、デジタル活用に関して、藤井さんは次のように述べました。「『何のために?』という目的が大事。DX(デジタルトランスフォーメーション)=ICT活用ではなく、『ユーザー視点に立って、働き方改革をすること』だと考えています。これを地域の文脈に置き換えると、『移住者の立場に立って、自治体が変わること』なんです。何のために定住・移住を進めるのか? それがほんとうにゴールなのか? 目的をきちんと考える必要があります」。
全体での質疑応答では、福島県葛尾村から参加した山口さんから、「若者が動きやすい地域にすることが大事だというお話がありましたが、若者を大切にする一方で、地域の高齢者のことも考えないといけないので、どうアプローチすればよいでしょうか?」という質問が出ました。それに対し藤井さんは、「移住者や地域おこし協力隊の若者と、地域の人々との軋轢はよくある話です。地域の方々全員の理解を得るのは難しいので、ピンポイントで大事なところだけ押さえること。また、軋轢がなければよいというわけでもありません。向かい風があるからこそ一致団結できるということもありますから」と答えました。
活発なやり取りの後は、1日目最後のグループワーク。キーワードを1つ抽出し、セッション4は終了です。その後、同じ会場で懇親会が行われました。
4つのキーワードから「関係人口の法則」を編む。
ワークショップ2日目は、1日目のセッションを踏まえて、関係人口のパタンランゲージをつくり上げていきます。まず、1日目の振り返りも含め、セッション1~4で抽出した各キーワードを整理・確認するグループワークを行いました。その後、各グループが4つのキーワードを発表。指出のセッション1では「関係人口を定義しない」「復習型の人(が関係人口になりやすい)」、渡邊さんのセッション2では「見せ方(を変える)」「両極の融合」、釼持さんのセッション3では「リピート数は会話量に比例する」、藤井さんのセッション4では「Web2.0」「小さな声を拾う」などが、複数のグループでキーワードとして挙がりました。
各グループのキーワードに対し、藤井さん(写真右)、釼持さん(写真左)、渡邊さんがコメント。「本人が楽しむ」というキーワードについて、「自分が楽しんでいることを出すと、“ごきげんさ”伝わるのでは」と話す藤井さん。
そしていよいよ、関係人口の法則を編み上げるグループワークです。各グループに配られたワークシートに、グループメンバーで話し合いながら、以下の内容を記入していきました。約1時間後、7グループ分・7つの「関係人口の法則」が完成。これらの法則を東北で広く共有していくために、イベント事務局と有志で編集を続ける予定です。
クロージングセッションでは、2日間の振り返りとアクション宣言が行われました。「関係人口の法則について、自分たちで考えてみた感想」「今後実践していきたいアクションや地域間で起こしたい連携」「パタンランゲージの作成活動への関心・コミット」などについてグループごとに話し合い、何人かが発表しました。岩手県陸前高田市から参加した多勢さんは、「定量で現状を把握するところから動いていきたい。また、今回の参加者で情報共有するグループを作り、東北全体として発信していきたいです」とコメント。また、岩手県庁の村上さんは、「市町村のみなさんと連携しながら、県として広域だからできることをやっていきます。移住してもらうかどうかだけでなく、移住者のその後の幸せも考えていきたい」と話しました。
最後に復興庁政策調査官の早川勝重さんから閉会の挨拶があり、集合写真を撮って、終了。濃密で充実した2日間でした。
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text by Makiko Kojima