釜山、微住中に現地語を習得できるか。
韓国第2の都市・釜山。成田空港から2時間弱と、その近さを改めて実感する。
日本から韓国は、距離にすると普段よく行く台湾よりも近いが、空港に降りてあの記号のようなハングル語を目にすると、どうしても距離感を感じてしまうのは僕だけだろうか。台湾の繁体字(日本の旧字体)なら、中国語がわからなくても、文字を見たら多少なんとなく意味やニュアンスはわからなくもない。だがハングル語はわからなければ、一切解読不能だ。
しかし、聞こえてくる単語は日本語と発音が似ていたり、ほぼ同じのものも多い。そしてイントネーションがなぜか故郷・福井弁に近い。文化や人種的にも共通点が多いであろう韓国で、大きく壁のように立ちはだかるハングル語を習得した先には、今とは違う韓国が見えてくるだろう。
現地の語学教室に通う。
現地の語学教室に通うのも、微住ならではの体験の一つだ。僕はネットで見つけた釜山大学近くの語学教室に日々通った。
個別授業の1コマ1時間、怒濤の韓国語のシャワーを浴びせられ、授業後は“ハングル酔い”状態。旅行とは違い、微住中は強制的に自分を現地語の風呂に浸からせる。するとだんだんと酔いが、どことなく韓国人になった“気”にさせる。
今回の釜山微住は、知り合いからの紹介で、「温泉場」駅近くのMOTELに住むことになった。釜山の東莱区は朝鮮時代から続く歴史深い温泉郷で、このあたりには温泉やスパのほか、無料の足湯スペースなどがあり、下町感の雰囲気がある。
韓国語の自習ができるカフェを探していたところ、MOTEL近くの雑居ビルの2階の窓にレトロな電子看板で「COFFEE」と書かれた僕好みの喫茶店を発見した。階段を上り、中に入ってみると、想像どおり、素敵なムード漂う広めな店内。店員のおばちゃんが一人、客が来たのをびっくりしたかのように席に案内する。
覚えたての韓国語で「ホットのアメリカンを1つ」と注文。しばらくするとアメリカンと「マカロニ」と呼ばれる韓国ではメジャーなポン菓子が出てきた。
この時季、寒いと思っていた韓国だが意外にも釜山は暖冬で、この日もやさしい陽の光が窓から入る。しばし、韓国語のテキストを広げて勉強をしていると、店員のおばちゃんが「今日、お客さんが少ないから暇なのよ」と話しかけてきて、同じテーブル席に座ってきた。
僕も一生懸命覚えた言葉を並べ、おばちゃんも翻訳アプリを使って談笑をする。近くの足湯が休みで、いつ開いているのかも、親戚の人が詳しいからって、わざわざ電話で聞いてくれたり、釜山のおばちゃんはとっても情に厚い。
いつの間にか常連風になった僕に、その日はみかん、次の日はバナナをサービスしてくれた。
感謝の言葉を探しても、「コマスミダ!(ありがとうございます!)」としか言えない。あと一言が出ない……。冗談の1つや2つ言えるようになったら、もっとおばちゃんと仲良くなれるんだろうな……。この悔しさこそ言語習得の原動力。また必ずおばちゃんに会いに行く。こうして“一期三会”以上の出会いが釜山でも見つかった。
アジアリンガルになりたい。
僕がこのアジア微住をしていくにあたり、最終的な目標は「アジアリンガル」になることだ。アジアリンガルとは、アジアとバイリンガルを合わせた造語。アジアの各地に行っても、現地の言葉が話せ、現地に仲間をつくり、小商いができる身体づくりがこのアジア微住の目的だ。
この韓国でもガチガチに身を置くのではなく、外から軽やかに現地に入り、自分を街に機能させていく。そのためには、通訳機に頼っていては街に解け込めるはずがない。そんなアジアリンガルへの道はまだ半ばだ。