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吉祥寺のランドスケープに迫る ―ハビタ・ランドスケープ 特別編(最終回)

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井の頭公園や善福寺公園の緑に囲まれ、若者から家族連れ、お年寄りまで世代を交えにぎわう吉祥寺。住みたい街として常に人気を維持する理由をランドスケープから見つめる。

林の中に棲む・井の頭地区

昨年11月の朝、自宅の庭でパチンパチンと鳴る音で目が覚めた。窓を開けると植木屋さんが柿の木を剪定している。初夏と晩秋に年2回、いつも切っていただいている庭師さんなのだが、話をしてみると、私が住む井の頭地区の町内会長さんだそうだ。あそこのおじいさん足が動かなくなったみたいだねとか、庭から住民の息遣いを伺っておられることを知り、昔ながらの町人の繋がりが残るエリアに住んでいることを実感する。祭りの日には近所の子どもたちが神輿をかつぎ、夏には盆踊り大会もある。自宅付近に遊びにきた友人の中に、この地域をとても気に入り、引っ越してきて子育てをしている夫婦が2組いる。

高台にある井の頭地区は松の木が多い。1947年の航空写真を見ると、あたり一帯が松林だったことが分かる。今は林は失われたが、住宅地の庭に大きな松が残り、松の木の下に家の屋根が並ぶという風景は、林の中に住んでいるという感覚を惹き起こす。

自宅近所の井の頭公園西部側には玉川上水が流下している。羽村から四谷まで約43キロメートルを500分の1というとてもゆるい勾配で導いた江戸時代の水道は、武蔵野台地の尾根線を狙って通している。今では清流復活事業により高度二次処理された下水再生水が、河床を舐めるように流れる程度だが、かつては人喰い川と呼ばれるほど水は轟々と流れていたという。

水生生物

鬱蒼と木々が覆う上水沿いに土の遊歩道があり、高井戸までずっと歩くことができる。牟礼のあたりでは、玉川上水は小高い丘に沿って流れる。丘陵面には果樹園が広がっている。丘の上の木の隙間からは、吉祥寺駅前のパルコとマルイのビルを眺望することができる。ふと、目の前に広がる風景は、すべて人が構築したランドスケープであることに気付く。ただし、一気に建設された都市デザインではなく、約350年かけて原野を開発した土地に、ゆるやかに自然が熟成し、人間にとって棲み心地がよいハビタットとなっていった。吉祥寺とはそんな街だ。先人たちが培ってきた果実をいま享受できるという幸せ。そして次の世代にもこの環境を残したいという住民たちの想い。吉祥寺が住みたい街として常に人気を維持する理由はそんなところにある。

★『ハビタ・ランドスケープ』の刊行を記念し、著者によるトークイベントの開催が決定!

ハビタ・ランドスケープイベント案内

日本37箇所の地域を歩き、自然と人為の相互作用の中で生まれてきた風景のなかで、人々はどのようにその地域を棲みこなしてきたかを紡ぎ出した書籍『ハビタ ・ランドスケープ』。

日常にある風景の断片に潜む、思いもよらぬ物語と出会う瞬間を描いたこの出版を記念して、数々のエリアリノベーションや公共空間をデザインし、都市の理想的な風景を考察・実現化してきた建築家の馬場正尊さんをお招きして建築、都市計画とハビタ ・ランドスケープの関係を探ってみたいと思います。都市課題解決のプラットフォームとして支援を行う京橋のシティラボ東京で、皆さまのご参加をお待ちしております。
詳細・お申し込みはこちら:http://www.kirakusha.com/news/n30588.html

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