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特集 | 新・地域の編集術

島の力をコスメで再生する『Retocos』。

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“コスメ”を軸に持続可能な経済活動を実現し、島民が自然と共生しながら豊かに暮らせる未来を目指す『Retocos』。代表の三田かおりさんに島との関わりや、これからの展望を伺いました。

 
三田さんが島への“通勤”でよく利用する、唐津市内の船着き場近くにて。

 2020年8月に設立された『Retocos』の取り組みがおもしろい。佐賀県唐津市の沖合に浮かぶ8つの島々で採れる、ヤブツバキをはじめとした植物や柑橘等を、化粧品の原料として加工し、化粧品メーカーなどに販売。「オーガニック」という付加価値で持続的に経済を回せる工夫を施しつつ、同時に少子高齢化による人口減などの地域課題にも積極的に取り組んでいる。この画期的な活動を先導するのが代表の三田かおりさんだ。

目次

わたしたちは、量ではなく質を目指す。

 大学卒業後、外資系のコスメティック・ブランドに就職した三田さん。出産を機に化粧品業界から一旦は離れたが、2017年に転機が訪れることになる。佐賀県唐津市にある、一般社団法人『ジャパン・コスメティックセンター(以下、JCC)』との出合いだ。地元の化粧品関連メーカーを軸に、大学と地方公共団体という“産官学”が参画する「唐津コスメティック構想」の核となる組織で、三田さんはその『JCC』にコーディネーターとして入社。そこから、現在につながる島との関わりがスタートする。

 三田さんの『JCC』での最初のミッションは「ツバキを核とした産地化・産業化の実現」であった。8つの離島の一つである加唐島に自生しているヤブツバキをどう活かすか。化粧品としてのツバキの活用を考えるとツバキ油が思い浮かぶ。三田さんはツバキ油の市場について調査し、そこからある考えに至った。「東京都と長崎県の島で全体の9割が生産されていることを知り、愕然としました。量を多くするのが産地化・産業化につながると言われていたので。でも、がんばったところで届かないなら、量を増やす方向ではなく、どこにも負けない品質のツバキ油を作ろう、と」。

 しかしそう簡単なことではない。ツバキの実を集める時点から課題があった。「もともと島ではツバキの実を集め、それを売ってお金にしたりしていましたが、労力の割に安くボランティアに近いものでした。そこでツバキの実をそれまでの倍の金額で買い取らせていただくことにしたんです」。同時に島で採れるツバキ、そしてツバキ油の付加価値、質の向上にも着手。「島の北側にある約20ヘクタールのツバキ園では有機JASの認証を取得し、ツバキ油の抽出・濾過も熱を一切加えないコールドプレス製法で行うようにして、オーガニックオイルとして価値を高めるよう工夫しました」。価値を高め、島の経済を回す。三田さんの活動の原点だ。

 
加唐島の特産品のひとつでもあり、平安時代からさまざまに珍重されてきたツバキ。実から良質な油が採れる。

島の未来のために『Retocos』を立ち上げる。

 宝くじが当たると言われる宝当神社のある高島でも、加唐島同様にツバキの実の買い取りを行ってきた。「売り上げの一部を区費に回し、島民の負担を軽くする取り組みを、区長さんと島のみなさんと一緒に始めました。背景には少子化や高齢化、また島には中学・高校がない、仕事がないことなどによる人口減があります。耕作放棄地に居ついたイノシシが土地を荒らし、温暖化によって魚が獲れないと島の漁師さんからも聞きます。離島が抱える問題を、その島それぞれの強みで解決していきたい。活動の中で、そう思う気持ちが強くなりました」。

 
いつもお世話になっている高島のみなさん。育成も収穫もみなさんとともに。

 少しずつ島に関わりはじめたかたわら、三田さんには島民から投げかけられた忘れられない一言があった。「今度は、この人が担当なんやね」。『JCC』の新しい担当として島に挨拶に出向いた折の何げないその言葉が、三田さんの人生を変えた。「いろいろな意味で、外から入ってくる事業やお願いにつき合いながらも担当者が何度も代わることに、島の人は諦めにも似た思いをしてこられたんだなあって。こちらが頼んだことに対して、本当にきちんと仕事をしてくださる。そのぶん、安請け合いもされない。島の人たちと、ずっと変わらない関係を築いていきたい、支援できる組織をつくりたいって、ずっと考えていたんです」。

 年度が変わっても、一度始めた事業は継続させる。持続可能な島を目指し、経済を回していくことを一義に。その思いが結実したのが、昨年に自らが代表となって立ち上げた『Retocos』だ。理事には関わりを持つ島の区長が名を連ねていることからも、島からの期待がうかがえる。

 
ユズ、ブッシュカン、ジャバラ、アマナツなどの島で集めた柑橘やハーブを使ったエッセンシャルオイル。

 加部島では、有機栽培されたアマナツの、それまで捨てられていた皮を化粧品へアップサイクルしたり、その加工段階では障害者福祉施設と協業したり。また松島ではスクリューに巻きついて漁師を悩ませるアカモクを筆頭とする玄界灘の栄養豊富な海藻を化粧品に活用してみたり。これらをはじめ、各島の地域課題、社会課題をビジネスの仕組みの中に組み込んでいくのも『Retocos』の特徴だ。そして島で採れた素材を化粧品の原料として加工するまでが業務。他方、販売においては、三田さんが『JCC』時代に開拓したネットワークを活かしつつ、大手メーカーへの供給などを担う。実は三田さんは、この3月に『JCC』を退職したばかり。「今までは、販路拡大や情報発信がメインの業務でしたが、今後は『JCC』とも連携しつつ、どこにも負けないオーガニックな島の原料の価値を世界に発信していきたいです」。

新たな取り組みを開拓。より人が集まる島へ。

 現在、『Retocos』の取り組みが活発化するのが前述の高島。耕作放棄地には2020年4月から新たにキヌアやローゼル、ホーリーバジルなど、軽量でお年寄りでも手軽に作業できる植物を選び、栽培を始めた。自然農法や日本ミツバチによる養蜂も採り入れ、さらには島の畑全体で有機JASの認証を取得し、将来的にはオーガニックの世界基準であるコスモス認証取得も見据え、原材料の付加価値の向上を目指している。さらに、三田さんと島民の夢は広がる。「栽培から収穫の体験、ファームシェア、野草料理や野草茶などの提供を担う体験施設がこの春にオープン予定です。コスメづくりの体験もここで。島に来てもらって島でしかできないことを感じてもらいたい」。

 
高島では、リップバームやルームフレグランスなどをつくる体験メニューを予定している。

 取材時、高島で三田さんをサポートする一人・漁師の野崎清美さんにお会いすることができた。野崎さんは、三田さんを「いい風を持ってきてくれる人」と評する。

「三田ちゃんは高島にいろいろなモノ・コト・人を呼び、つないでくれる。今なにかやらないと、人口がさらに減る。現在は200名ぐらいだけど、10年後には50人ぐらいの島になってしまう可能性もある。彼女とは方向性が一緒。協力しながら島の魅力を発信して、人が集まる島になればって思っています」

「コスメ」という新たな価値を生み出し、同時に「経済」も回し、社会課題の解決も目指す。島民とともに、持続可能な未来への取り組みは加速していく。

 
「島の方々とお話ししながら収穫をして、お茶を飲んで、コスメをつくるっていう体験を考えています」と楽しそうに話す三田さん。

▶ 『Retocos』・三田かおりさんが選ぶ「地域を編集する本5冊」はこちら

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