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畑時間から“食べる”をたのしく。体験型農園「とるたべる」がつくる、人と農のいい関係

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“おいしいを、掘り起こそう。”をスローガンに、農業や野菜の魅力を発信している「とるたべる」。愛知県の知多半島を拠点に活動する、杉山直生さん・千尋さん夫婦による農園の屋号です。主に、少量多品種の野菜生産・販売、収穫体験、マルシェ出店などを行っています。

直生さんは同じ愛知県内の安城市、千尋さんは大阪出身。南知多町が地元だったわけではありません。なぜ、このまちで農業を始めたのでしょうか?「とるたべる」が、畑から伝えたい想いとは?

目次

野菜の“生い立ち”を知ると、人生は豊かになる

とるたべる
●「とるたべる」/杉山直生さん(写真右): 1988年愛知県安城市生まれ。千尋さん(写真左):1990年大阪府大阪市生まれ。

毎日の食事の中で当たり前に口にしている野菜。でも、こうした野菜がどうやって育てられているのか、背景を知る機会はなかなかありません。実際に土に触れ、畑で野菜を味わうことで、知らなかった「おいしい」に出会えます。

そんな体験ができる「とるたべる」の農園があるのは、知多半島の先っぽ、南知多町。海も山もあり、豊かな自然に恵まれたまちです。

南知多町
三河湾と伊勢湾に面した半島の南部と、沖合に浮かぶ離島から成る南知多町。

のどかな山あいに広がる、「とるたべる」の農園

「とるたべる」の農園

海水浴場から少し足を伸ばし、山道を通り抜け、高台へ。緑と空だけが広がるこの場所が、「とるたべる」の農園です。

「ここに植えてあるのがじゃがいも。3種類あるので、好きなものを掘ってみていいですよ」と直生さん。根元から慎重に引っ張ると、コロンと可愛い赤い実が顔を出しました。

じゃがいも
一括りにじゃがいもと言っても、種類によって少しずつ味が異なります。

普段は、綺麗に土を落とされたスーパーの野菜にしか触れない生活。土の感触やにおいも新鮮に感じられます。

緑の実を膨らませているのは、スナップエンドウ。皮をむき、実をひとくち。なにも付けなくても、豆の自然な甘さが口いっぱいに広がります。

スナップエンドウ
大きく成長している時期で皮ごと食べるには加熱調理が必要そうですが、中身の実は生でも食べられます。

定番から変わり種まで、多品種の野菜を無農薬で栽培

「いまは、年間で50品種くらいの野菜を生産しています。1シーズンで10品種以上ということになりますね。最初の頃は、100品種以上の栽培に挑戦していたこともありました。ちょっとやりすぎたなと思い、減らしたところです(笑)」

収穫された野菜たち

“多量少品種”の農家が多いなか、とるたべるでは“少量多品種”にこだわり、希少な野菜も育てています。

土日は収穫体験やマルシェ出店などの活動をしていますが、平日は基本的に畑仕事がメインとのこと。本格的に畑仕事をなりわいにし始めたのは、2018年頃からだといいます。どんな経緯があったのでしょうか。

農業を仕事にしたい!最初にたどり着いたのは美浜町

時をさかのぼり、2人の出会いは大学生の頃。愛知と大阪からそれぞれ北海道の大学の畜産学部へ進学し、農と食について学んでいました。直生さんが千尋さんより2つ歳上という、当時は先輩・後輩の関係です。

大学卒業後、直生さんは愛知に戻り、JAあいち経済連に就職。千尋さんは、静岡県富士宮市の農園レストランで働いていました。

直生さんと千尋さん

直生さん:「そのうち、サラリーマンではなく個人で仕事をしてみたくなって。自分に何ができるか考えたとき、やっぱり農業だと思いました。いろんな農家さんに会いに行っていると、小さな種から野菜が実るまで、一つひとつの過程で感動するんです。当たり前に食材が手に入る、恵まれた時代に育ったからこそ、人々が脈々と続けて来た作物との関わりに心を動かされたんですね」

直生さんが会社を辞めたタイミングで、全国各地を2人で旅したことも。さまざまな農業の取り組みを見て回りましたが、縁あってたどり着いたのは、南知多町の隣町である美浜町でした。
直生さん:「美浜町に、有機栽培で多品目の野菜を生産している農園があるんです。その農園の代表も、脱サラ就農の経験者。研修生の受け入れも行っていて、農業の裾野を広げることに積極的な人です。そこで野菜づくりを学ぼうと、思い切って飛び込みました」

イベント屋から、“なりわい”としての農家へ

その後、地元農園での研修やアルバイトを続けながら、まず立ち上げたのは農と食のイベント。

みかん狩り
過去に開催したみかん狩りイベントでの集合写真

直生さん:「いまでは農園の名前として使っている“とるたべる”ですが、当時はイベントの名前だったんです。たくさんの人に農業を身近に感じてもらいたいという想いから、イベント屋さんみたいなことを始めて…。2年くらいはイベントの企画・運営を続ける日々でしたが、イベントだけで食べていくのは難しいと実感。そんなときに、彼女が自分の畑を持つことになったんです」
千尋さん:「バイト先の農家さんが、それだけやる気があるなら自分でやってみなよ!と南知多町の農地を紹介してくれて。アルバイトを辞めて、農家として生活していくことを決めました」
直生さん:「一方の僕は、農園での研修期間が2年と決まっていたので、その後どうしようかと悩んでいた時期。彼女の畑を手伝い出したことをきっかけに、自分もここで農業をやろうという決意が固まりました」

畑での収穫作業

これが、「とるたべる」の農園としてのはじまり。現在は南知多町に住まいを移し、畑で日がな一日過ごしています。活動の軸は変わりましたが、「人と畑をつなぎたい」という気持ちは変わりません。

採れたての野菜を調理
体験で収穫した野菜は、その場で調理して味わえます。太陽の下で食べる、採れたての野菜は絶品。 

押し付けるのではなく、たのしく伝えたい、農業の魅力

体験の様子

直生さん:「畑で土を触り、体を動かすからこそ気づく、農業の素晴らしさを伝えたい。でも、啓発的になるのは嫌で…。たのしく、おもしろく、誰でも気軽に参加してもらいたいと思っています。スーパーやコンビニに並んだ野菜を見るだけでは、生産背景をイメージするのは難しいですよね。種はどんな形をしていて、どんな芽が育ち・花が咲き・実ができて…。野菜づくりについて知ってもらえれば、“食べる”という行為はもっと豊かになります」

その活動は広がりを見せているようです。名古屋市中村区のイタリアンカフェ「tori cafe」とともに、「はたけ会議」というシェア農園運営ユニットを結成。名古屋駅西から約11kmの場所にある“都市型”の畑で、野菜づくりを楽しむサポートをしています。

はたけ会議
「はたけ会議」のシェア農園は、メンバーならいつでも出入り自由。第2・第4土曜は全体作業日として、みんなで作業します。noteにて情報発信中:https://note.com/hatake_kaigi

直生さん:「シェア農園では、収穫体験よりさらにじっくりと野菜の価値に向き合うことができます。農業で稼ぐためには効率が求められますが、“無駄”や“不便”と思えるようなところに、人間と自然の関わりの本質があると思うんです」

自然と人が集う、公園のように身近な畑を

最後に、「とるたべる」として描く、これからについて尋ねました。

直生さんと千尋さん

直生さん:「僕がいなくても、畑に人がいるような状態が理想ですね。収穫体験の参加者やシェア農園のメンバーが友達を連れて来て、自由に畑を楽しんでいってくれたら。畑が、公園のように人の集う場所になると嬉しいです。“畑パーク”とでも言いましょうか」
千尋さん:「ちょうど今日も、ご近所さんが梅の収穫をして、畑でお弁当を食べていたところです。子どもたちはふかふかの土の上で走り回って、親子で休日の畑時間を過ごしていました」

畑は、農家にとって大切な仕事の場所。それと同時に、人と農・人と食をつなぐ場所でもあります。誰にでも等しく“関わりしろ”を提供する、新しい畑のカタチが、ここ南知多町で生まれようとしているようです。

おむすび祭り
「春の、おむすび祭り!」でのウクレレ教室の様子

▼とるたべる公式サイト
https://torutaberu.com/

▼とるたべるオンラインショップ
https://torutaberu.stores.jp/

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