二拠点それぞれの地で実現した相反する二人の「私」。

連載 | 田舎と田舎の二拠点生活 | 15 二拠点それぞれの地で実現した相反する二人の「私」。

 田舎のコミュニティは濃い。この濃さは、時に強い結束力や、親しみ・安心感を呼び、時に煩わしさも招く。まさに紙一重。田舎に住んでいる多くの人が、この濃さと向き合いながら暮らしているに違いない。


仕事が充実すればするほど遠ざかる「理想の妻像」。


 島で生まれ育った私も、子どもの頃は、息苦しくて早く出たいと願い続けていた。しかし、大人になってから島でいろいろなおもしろい仕事やプロジェクトをし、島の宝物に次々と出合っていくことで、島暮らしを気に入るようになった。


 しかし、生涯島に住みたいと思っているのに、時々ふと、私を知らない場所で新スタートを切りたくなる。「働く私像」が定着すればするほど、胸のうちにある「理想の妻像」から離れていくからだ。


 実は私は、仕事やプロジェクトを通じて、多くのメディアに取り上げられている。面識がない島の人からも、「テレビに出てたなあ。頑張ってな」と期待の声をかかることが多い。私自身もこれまで支えてくれたみんなに恩返しをしたいし、期待に応えたくて、もっと頑張ろうとする。


 そんな私が抱く、家庭の私像は「夫の成功を陰で支える妻」。その理想像を想い描く背景には、生まれ育った環境が影響している。私が生まれ育った地区は、醤油蔵が15軒連なる伝統色が強いまち。代々旦那衆がまちを動かしてきた。そんな男性たちの後ろには、夫の成功を陰で支える妻がいた。慎ましく芯のある女性たちに対し、「かっこいいなあ」「立派だなあ」と尊敬の念を抱いてきたので、「女は控え目に」「女は男を支える」「女は男を立てる」というこの地に根付く考えを、好意的に捉えてきた。


 そんな話を島で話すと、「無理無理。結婚したって、あんたの存在感は薄まらんやろ」と、笑い話にされる。


幡豆で実現したもう一つの生活。


 そんななか、偶然ながら私は島からはるか離れた幡豆の男性と結婚した。そして、知らない土地で、知らない人たちに囲まれる新田舎生活が始まった。


 すると理想の生活は自然と実現した。夫は自宅で麹屋を営んでいるため、幡豆にいる間は、主に家事と仕事の手伝いをしている。さらに、おもしろいと思ったことを新たに始める時も、表に出るのは主に夫。私は書類やデザイン作成、データ管理など裏方をする。幸い私が担っている分野は夫の不得意分野で、私は比較的得意。うまく役割分担ができ、理想とする形になっていた。


 島にいる時は前に出て行く「黒島慶子」。そして、幡豆では夫の後ろを三歩下がって歩く「宮本さんの奥さん」。離れた2つの場所に住むことで、「仕事」と「家庭」それぞれにおける、「理想の私」が実現したのだ。


ある日の新米夫婦


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 原稿を書いている今、夫は『ジェイアール名古屋タカシマヤ』に出店中。私は生まれたての赤ちゃんがいるので、家でお留守番。しかし、その出店で初めて出す「黒麹」のラベルやポップを作製し、黒麹を使った料理をいろいろ作ったりしたので、出店に参戦している気持ちになる。幸い黒麹は大好評! 日常の9割が育児の毎日だけれど、夫のおかげで世界が広がってうれしい。

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