2019年9月、JR京都駅東エリアにある広大な駐車場区画に週末限定の商店街がオープンしました。そこは、かつて被差別部落として差別に苦しんだ人たちと在日コリアンが多く暮らし、近年では高齢化や人口流出などの問題を抱える下京区の崇仁地区──。
京都屈指の好立地に、新たな商店街がつくられた理由。
下京区河原町塩小路の交差点の北西角にある駐車場約2万600平方メートルがその舞台。通常は時間貸しの駐車場で、毎月第1土・日曜に商店街がオープンする。なぜ、そんな好立地に広大な土地があったのか。実はこの京都駅東側は京都市による再開発が進められており、駐車場として活用されている土地も住宅用地として買収したもの。同地区に隣接する土地には京都市立芸術大学の移転も予定されており、京都市の中でも注目が集まるエリアの一つだ。
他方、一帯は、長年にわたり部落差別に苦しんだ土地で、近年では高齢化や人口流出に直面している。多くの住民が暮らしているにもかかわらず、当地には大きな問題もあった。スーパーマーケットや商店などが近隣になく、わざわざ自転車やバスを使って買い物に行かねばならなかった。好立地だが、難しい課題を多く抱えた場所。地域に入り、プロジェクトを起こすにはなかなかにハードルが高かった。ただ、京都市としても、地域住民の暮らしを守り、コミュニティを再生していくことは必須。そこで出来上がったのが、今回の『るてん商店街』なのである。
崇仁地区でプロジェクトを遂行するために。
『るてん商店街』を立ち上げたのは『ピーエイ』。東京に本社を置く企業で、京都市から土地を賃借するカタチで運営する。この日、案内してくれたのは『るてん商店街』運営事務局長の佐藤秀喜さん。「弊社代表の加藤が、高齢化や若者の流出が著しかった崇仁地区に賑わいをつくりたいと、まず立ち上げたのが、近くにある『崇仁新町』。一定の評価をいただき、この『るてん商店街』のプロジェクトにつながりました」。
『崇仁新町』はいわゆる屋台村だ。さまざまな飲食店が、コンテナを改装した店舗に入る。連日若者を中心に賑わいを見せる。一方、『るてん商店街』は、より地域密着型。付近の住民の方々に、日々の暮らしに必要なものが買える場所をつくりつつ、賑わいを提供したいと始まった。
「ブースの出店は月に1度ですが、野菜や肉などは敷地内にある店舗で毎日販売しています。休憩スペースとしても利用でき、無料のコーヒーも用意。地域の方々に利用していただけるよう、今も工夫を重ねています」
一見、よく見かける普通のマルシェのように見えるが、やはり崇仁地区でできていることに、驚きを隠せない人は多い。「チームをつくって進めたのがよかったのだと感じています」。佐藤さんがそう話すチームのメンバーの一人が小久保寧さんだ。小久保さんは『崇仁新町』のブランディングや企画を担当した人物。「京都は自治組織が特に強いところ。『崇仁新町』でも地域の自治連合会の方々とコミュニケーションをとり、長年地域でビジネスをやってこられた方に、運営団体の代表に就いていただきました。僕らがよそからやって来て、僕たちが主でやるんじゃなくて、地域があって、地域でやる気のある人やキーマンがいて、あくまで僕らはそのパートナー。きちんと地域にお金が回りますし、地域主体で進めていくのが一番いいと思っています」。
『るてん商店街』でもチームが結成され、およそ1か月という短期間で仕上げることができた。地域のキーマンである篠部大五郎さんもメンバーの一人。長らく、京都市内各地でイベント運営などに関わってきた人物。「地元の人間が一人いると、つなぎ役や、クッションになっていいのかなって思いますね。感想ですか? 駐車場を使って、こういう催しをすることが非常におもしろい。毎日満車になるわけじゃないし、『空いているなら、違う使い方をすればいいんだ!』という新たな発見。ほかのところでもやりたいとこ、あるんちゃうかな」。
参加したくなる商店街を目指して。
参加したくなる商店街を目指して。
今後の課題について、佐藤さんは「認知度」だと話す。「メディアでの紹介は多くなりましたが、認知度はまだまだ。徐々にですけど、認知度を上げて、多くの人や店に出店してもらって、毎週末開催できるようになれば。2020年3月までは出店料も無料にしていますので、問い合わせを待っています!(笑)」と佐藤さん。
小久保さんは、「小さくていい店であればあるほど、出店が難しくなる。土・日に店を閉じてこちらに出店せざるをえないから。それだけの魅力をいかにつくるか」と前置きしつつ、あるアイデアをすでに具現化していた。それが今回のために特注したブースだ。デザイン性が高く、コンパクトに折りたため、また設営も簡単。コンセントも付帯し、電源確保も容易だ。「ハード面での出店ハードルを限りなくゼロにしたかった。高級感のある仕様なら、品質が高く、高価格の商品を販売しても違和感もないし。若い作り手、いいものを扱うお店に参加してほしい」。
来るたびに店が代わる、売り物が替わる、出来事が変わる。それが「るてん(流転)」に込められた意味なのかもしれない。
ふくしま復興塾
「ふくしまチャレンジはじめっぺ」が『ふくしま復興塾』としてこの日に初出店。「ここを運営する『ピーエイ』代表の加藤さんは福島県出身で当団体の発起人で。そのつながりで出店させていただきました。本当は視察だけの予定だったんですけどね(笑)。今日は地元で人気のかまぼこの販売や、応援している福島の蔵元の日本酒などを販売しています」と話すのは事務局長・山﨑和子さん。このほか、塾生らは占いやヨガ体験なども提供していた。
Mr.Samosa
カレー激戦区の大阪市中央区北浜にある人気店も、この日が初出店! 運営事務局のメンバーから誘われ、普段一緒にイベントなどに参加している播州織や雑貨などを扱う仲間らとともに出店した。サモサとチャイのセットで500円。
まかない処 錦屋
京都市中京区寺町通りにある居酒屋も出店。「店では昼から飲んでいただけます!」とは、この日店頭に立っていた浮田博太さん(写真)と国本紗恵子さん。出店は、店のオーナーと『るてん商店街』チームメンバーのつながりから。この日は店の看板メニューである豚バラ軟骨塩煮込み一本で勝負。食欲をそそる香りを商店街に漂わせていた。
北尾商店
近隣で店舗を構える青果店で、『るてん商店街』の1回目から出店する。取締役の北尾公保さんは、「こちらがオープンする際に、篠部さんから『地元の食材を地元の商店から出してほしい』と打診をいただきました。地域密着を掲げる運営方針に賛同し、出店させていただきました。地域の方々に新鮮な野菜や果物を提供できるのは幸せなこと。最初はブース出店だけでしたが、現在は敷地内にある店舗スペースで毎日販売しています」と話す。ブースや敷地内の店舗では、実店舗と同様の商品内容で販売を行う。イベント時には目玉商品も置いているが、「地元の商店街を目指すという『るてん商店街』のコンセプトに合わせ、特段目立つものではなく、普段食べるものを、心がけています」とのこと。
TRAVELING COFFEE
京都市中京区にあるスペシャリティコーヒー専門店。コーヒー文化が根付く京都を代表する超有名店も出店していた。この日は近年推しているという、ボリビアの浅煎りとコロンビアの中煎りの2種をご用意。実は『るてん商店街』の1回目では、京都にある人気のコーヒー専門店や古着屋など、およそ30店が集結。その折、同店の牧野広志さんが、出店する店選びのコーディネイトを行ったそう。牧野さんは京都府庁や市内の区庁舎に出向き、京都のコーヒー文化を語るイベントを行うなど、カフェ以外での活動を積極的に行っている人物。『るてん商店街』の印象について牧野さんは、「高齢化した町なのにスーパーがなく買い物もできないところで、こうやって販売するのは非常にいいこと。定期的に行われ、地域の人も馴染んでいけば、町を再生できる。僕は自称『ローカル京都ビッグファン』。京都の地域が好き。地域の人たちと一緒になって、新しいモデルケースをつくっていきたい」。
京都府 るてん商店街
事務局の佐藤秀喜さんに聞きました!
Q.どんなスタッフ・メンバーを募集していますか?
すでに企画があれば、応募してもらうことで事務局メンバーと一緒に実現に向けて練り上げます。運営や実行を担うスタッフやイベント当日のボランティアスタッフも募集しています。
❶活動団体名
るてん商店
❷プロジェクト・スタート年
2019年
❸ウェブサイトなど
www.ruten-market.com
❹スタッフ・メンバーの中心年齢層は?
30歳代〜40歳代
❺スタッフ・メンバーの募集
有