ソトコトでは、日本各地の自治体からご依頼を受けて、関係人口育成講座の企画・運営を行っています。このたびソトコトと組んで講座を実施してみたい自治体の方に向けて、編集長の指出がさまざまな質問に答える相談会を2023年10月19日に開催しました。当日のQ&Aをぜひご覧ください!(ご質問者の所属・個人名は伏せております)
Q&A
質問:関係人口育成講座の概要を教えてください。
指出:最初は島根の「しまコトアカデミー」から始まりました。島根では1993年頃から人口減少が大きなテーマになっており、人口の奪い合いだけでなく、自分の地域をどう守っていくかという視点で企画が動き出しました。人口の多い東京在住の若い人たちに島根の仲間になってもらおうと、島根に関わることを面白がる人を東京で育てていく「しまコトアカデミー」は、2012年から12年以上続いていて、400名以上の修了生がいます。参加動機は島根が好き、島根に地縁血縁関係がある、自分に合うローカルを探している、知らなかった地域に関わりたいなどさまざまで、例えば島根出身で東京で10年ほど働いた後に「最近の島根はどうなっているのだろう」と気になって受講し、そこで今の島根に出会い、結果的にそこから新たな仕事を作り出した受講生もいました。
講座はおよそ半年間で、最近は東京だけでなく近隣地域や地域内での関係人口を増やそうと、東京、関西(大阪)、広島、島根の4地域で展開しています。座学と2泊3日のフィールドワークの組み合わせで、特にフィールドワークでは実際に島根に訪れて地元の人たちに出会ってもらい、それにより地域に対する感情や愛情が芽生えていくことを大事にしています。参加した2-30代の若者が地域との関わりを増やしていき、一緒にプロジェクトに取り組み、結果的に新たなビジネスやコミュニティを生むことにつながっています。
結果的にこの「しまコトアカデミー」を起点として関係人口に注目が集まりました。他地域でも姉妹講座が広がっていて、それぞれその土地のキャラクターに合わせた形で講座を設計し、その地域の仲間を増やしています。
質問:人口減少や少子高齢化に伴い、地域の人手不足を懸念しています。関係人口は地域外の人が関わるということで注目していますが、まず地域内でつながりを作れる人が大事だとも思っています。そのような人を増やすためにできることはありますか。
指出:受講生は東京育ちなどで“ふるさと”という概念が薄い人が多いです。そこで大事なのは、受講生を迎え入れてくれる地域の面白い人たちとどう出会うかという点。彼らをメンターと呼んでおり、このメンターをどう選定するかが鍵になってきます。地域の中で、その地域を非常に優しい視点で見つめていて、東京から来る“ふるさと”を味わったことがない人たちに地元の優しさを伝えてくれる人、そして「この人面白いな」と直感的に感じてもらえる人であることがとても重要です。
そんな人をまちに増やすための講座も行っています。例えば「こおりやま街の学校」という講座は、福島県郡山市を舞台に「まちを面白がるセンスを養う」「まちを好きという気持ちをアクションにつなげて仲間を増やしていく」場となっていて、関係人口が現れる上で大事な要素である「関係案内人」を育てることにつながっています。
メンターの方と一緒にまちを盛り上げていくプログラムと、まちの人が自分のやりたいことを見つめ育てていく講座の2種類があり、どちらもまちに関わることで人々が成長していくことを大事にしています。参加者や関係者からは「自分のまちをより好きになった」「そのまちに行くと安心できる」というポジティブな反応があり、それが講座が好評いただいている大きな理由だろうと思っています。地域政策としてだけでなく、福祉や生涯学習の効果もあります。
移住定住施策をよりソフトな関係人口でうまく補完していくという形が「しまコトアカデミー」で実証されました。一方で、KPIを考え多くの人に来て欲しいという依頼を受けたこともあります。ただし、関係人口は数ではなく粒として考えるもの。訪れる人々を最高の仲間として迎え入れる形のほうが、そのまちにゆっくり“効いてくる”と感じています。
受講生を見ていると、最初からその地域やまちに関わりたいという人は圧倒的に少数です。受講をきっかけに復習型で学び、どんどん愛情を感じるようになり、その地域やまちを「自分で見つけた」と思って運命を感じるようになる。水を吸い上げるように吸収して愛を深めていくことが多いです。
質問:まちの魅力を打ち出そうとすると、他のエリアに埋没してしまう可能性が高いと感じています。仮に講座を行うとしても「こういう人に来てほしい」というものを十分持ち合わせていない中で、オリジナリティが出るのかというのが悩ましいです。
指出:これまでたくさんの講座を設計・監修させてもらって気づいたのは、それぞれの講座に集まる受講生のタイプが全然違うということ。それを我々は「県性」と呼んでいます。例えば島根の講座に来る方はふわっと優しいタイプが多い一方で、広島の講座に来る方は「地域をなんとかしないといけない」という熱い心を持っているタイプが多い。新たな地域で講座を開催すると、不思議とその地域らしい人が必ず現れます。自治体など依頼者から「いい人が集まってくれた」と言われますが、意識して集めたわけでもないし、タイプが被ることもない。その土地に合う人たちが自然と現れてきます。
質問:ぜひ我がまちに来て欲しいという思いはあるけれど、どう伝えたらいいか悩んでいます。
質問:例えば“名前を読めない地域”ほど関係人口創出に向いています。かつて広島県の「神石高原町」を読めなかった大学生が、グイグイのめり込んでものすごい関係性を作ったことがありました。観光で有名なところだと、事前情報が伸び代を阻害してしまいます。名前の読めない地域と出会うことは、ものすごい伸び代があるんです。
質問:背伸びをして伝えようとするよりも、無理せず正直に伝えたほうがいいのかもしれないですね。
指出:無理にアピールするよりも、いっそ弱みを見せたほうがいいです。それを我々は「関わりしろ」と呼んでいます。関係人口に適した地域と観光に強い地域は必ずしも一致せず、どちらかというと弱さを内包している地域のほうが関係人口創出に向いています。弱さを出せる正直さがあるほど、人は集まりやすい。なんでも強めがいいかというとそうではなくて、むしろ弱さを出していく、優しさが出ているほうがいいのではないか。まちの注目度がそこまで高くないのなら、そこを逆手に取っていけばいいと考えます。
質問:県単位だけでなく、現場に近い市町村でも関係人口の取り組みを進めてほしいと考えています。ソトコトからレクチャーしてもらうことは可能でしょうか。
指出:もちろん可能です。市町村単位と県単位にはそれぞれ効用があり、双方で行うことで相乗効果が生まれます。
質問:講座はWEBが中心なのでしょうか。
指出:基本は対面で行っています。コロナ禍でハイブリッド開催も増えましたが、最近は顔が見える関係性を構築するため、座学も会場で行うようになりました。フィールドワークはその土地のことを知ってもらうことが大前提で、足を運ぶことを大事にしています。また受講時期を超えて、修了生同士が交流を深められるのも対面の醍醐味です。オンライン関係人口も盛り上がってはいますが、今の時期は対面で地域のことを知ってもらうほうが需要はあると思っています。
質問:受講生が集まるかが不安です。
指出:「こういう人に来てもらいたい」という要望に合わせて、各チャネルで情報を発信する仕組みを構築しました。最近は定員以上集まってしまうことも多いです。
質問:関係人口を増やすにあたって、迎える側のまちの人が抵抗することもあるのではないかと感じています。
指出:そこは心配いただかなくても、関係人口は移住定住のような強い意志のもとに現れるわけではなく、地域に関わってみたい、地域の人にいろいろ教えてもらえたら嬉しいというフレンドリーな姿勢で訪れる人ばかりです。一言で言うと転校生のようなイメージで、まちの人は最初は興味津々で見ていますが、しばらくすると独自の交流が生まれ、自然に仲良くなっていきます。
そもそも関係人口という言葉を知っているかどうか、地域を面白く感じたいタイプかどうかなどで自然と受講生にフィルターがかけられています。そのため、まちの人と仲良くなりやすいタイプの人が関係人口の講座に集まってくれています。
最後に
いかがでしたでしょうか。ソトコトの関係人口育成講座について、少しでも理解を深めていただけていたら嬉しく思います。関係人口は今後の日本に重要な施策のひとつ。「まちの外に、自分たちのまちを好きな人が増える」だけでなく、「住んでいる人が自分のまちを好きになる」というシビックプライド醸成の効果もあります。地域の未来を考える上で、ぜひ検討に入れてみてはいかがでしょうか。
質問や個別のご相談を希望される方は、以下のフォームよりご連絡ください。追って担当よりご連絡させていただきます。
ソトコトでは、さまざまな関係人口育成講座を開催しています。ぜひFacebookやInstagram、X(旧Twitter)をフォローいただき、最新情報をご覧ください。
案内人
指出 一正
『ソトコト』編集長
上智大学法学部国際関係法学科卒業。雑誌『Outdoor』編集部、『Rod and Reel』編集長を経て、現職。島根県「しまコトアカデミー」メイン講師、和歌山県田辺市「たなコトアカデミー」メイン講師、山形県・小国町「白い森サスティナブルデザインスクール」メイン講師、山形県・金山町「カネヤマノジカンデザインスクール」メイン講師、公益社団法人 福島相双復興推進機構「ふくしま未来創造アカデミー」メイン講師、奈良県「奥大和アカデミー」メイン講師、奈良県下北山村「奈良・下北山 むらコトアカデミー」メイン講師、秋田県湯沢市「ゆざわローカルアカデミー」メイン講師、高知県高知市「エディットKAGAMIGAWA」メイン講師、高知県高知市「高知・鏡川 RYOMA流域学校」メイン講師、群馬県庁31階「ソーシャルマルシェ&キッチン『GINGHAM(ギンガム)』」プロデューサー、富山県「くらしたい国、富山」推進本部本部員、静岡県「『地域のお店』デザイン表彰」審査委員長をはじめ、地域のプロジェクトに多く携わる。内閣官房まち・ひと・しごと創生本部「わくわく地方生活実現会議」委員。内閣官房「水循環の推進に関する有識者会議」委員。環境省「SDGs人材育成研修事業検討委員会」委員。内閣官房まち・ひと・しごと創生本部「人材組織の育成・関係人口に関する検討会」委員。国土交通省「ライフスタイルの多様化と関係人口に関する懇談会」委員。総務省「過疎地域自立活性化優良事例表彰委員会」委員。農林水産省「新しい農村政策の在り方検討会」委員。UR都市機構URまちづくり支援専門家。BS朝日「バトンタッチ SDGsはじめてます」監修。著書に『ぼくらは地方で幸せを見つける』(ポプラ新書)。趣味はフライフィッシング。
【参考】ソトコトがこれまで手がけてきた関係人口講座
(現在受講生募集はいずれも終了しています)
山形県小国町 白い森サスティナブルデザインスクール
受講生募集時の講座案内 https://sotokoto-online.jp/local/18612
過去の講座の様子 https://sotokoto-online.jp/sustainability/17355
山形県金山町 カネヤマノジカンデザインスクール
受講生募集時の講座案内 https://sotokoto-online.jp/local/18676
公益社団法人 福島相双復興推進機構 ふくしま未来創造アカデミー
受講生募集時の講座案内 https://sotokoto-online.jp/local/18866
過去の講座の様子 https://sotokoto-online.jp/local/17950
和歌山県田辺市 たなコトアカデミー
受講生募集時の講座案内 https://sotokoto-online.jp/local/19015
過去の講座の様子 https://sotokoto-online.jp/local/15141
島根県 しまコトアカデミー
受講生募集時の講座案内 https://sotokoto-online.jp/local/19872
過去の講座の様子 https://sotokoto-online.jp/local/17247
高知県高知市 エディットKAGAMIGAWA
受講生募集時の講座案内 https://sotokoto-online.jp/local/16202
過去の講座の様子 https://sotokoto-online.jp/local/17949
高知県高知市 高知・鏡川 RYOMA流域学校
受講生募集時の講座案内 https://sotokoto-online.jp/local/16201
過去の講座の様子 https://sotokoto-online.jp/local/13027
秋田県湯沢市 ゆざわローカルアカデミー
受講生募集時の講座案内 https://sotokoto-online.jp/local/2958
奈良県 奥大和サスティナブルデザインスクール
受講生募集時の講座案内 https://sotokoto-online.jp/local/12242
過去の講座の様子 https://sotokoto-online.jp/social/13305
奈良県下北山村 奈良・下北山 むらコトアカデミー
過去の講座の様子 https://sotokoto-online.jp/local/507