未来予想図は描けない。導かれた先にあったパラレルキャリア サマンサタバサジャパンリミテッド|非常勤取締役・世永亜実さん

連載 | フェムコト | 18 未来予想図は描けない。導かれた先にあったパラレルキャリア サマンサタバサジャパンリミテッド|非常勤取締役・世永亜実さん

2023.01.11

地方で働く女性、都心で働く女性、子育てをしながら働く女性、さまざまなライフスタイルを送る女性たちを取り上げ、女性の健康課題や社会課題について考える対談コンテンツ『フェムコト』。 今回対談させていただいたのは、現在4つの会社で取締役などを務める世永亜実さん。一つの枠組みにとどまることなく働く“パラレルキャリア”を選択しています。働く女性として、1男1女の母親として、奮闘する日々の中で意識していることや学びをお聞きしました。

ー世永さんの3つのルールー

RULE1.その人が熱くなる瞬間を引き出す

RULE2.自分より年下世代の勇気になる生き方をする

RULE3.多様性を理解し“こうあるべき”に縛られない

〈Profile〉
世永亜実(よなが・あみ)さん
●大学卒業後、芸能プロダクションのアミューズ勤務を経て、2002年にサマンサタバサジャパンリミテッドに転職。同社のブランディングやマーケティングを統括し2008年に執行役員、2012年に上席執行役員に就任。2007年に長男、2011年に長女を出産。2019年新しい働き方へ転向し、パラレルキャリアを実現。
サマンサタバサジャパンリミテッド非常勤取締役
オイシックス・ラ・大地 ブランドディレクター/People’s Adviser
Samantha Global Branding & Research Institute 非常勤取締役
GOOD NEWS 非常勤取締役
Twitter:@ami_yonaga

親が授けてくれた最大のプレゼントは“自己肯定感の高さ”

世永さん:アイルランドで友人と牧場を営むような父親、当時にしては珍しい高学歴な母親、個性的かつ大人な両親の元に生まれました。怒られた記憶はなく、「こうしなさい」と否定されたり指示されたりすることなく育ったことは、私の一番の原体験だったと思います。かといって過保護ではなく、幼少期から一人の人間として、親に尊敬されているのを感じてきました。

父親は他界しましたが、母親はいまだに私のことを「本当にすごいね」と言ってくれるので、無意識に自己肯定感が非常に高いんです。だからこそ自己主張する必要もなく、人から評価されたいという感情がないまま大人しく生きてるなと思います。

フェムテックtv:確かに肩書きだけ見ると、いわゆるバリキャリの方をイメージしていましたが、良い意味で違いました。

世永さん:実際にお会いする方たちには、よく言われます(笑)。仕事をしていなかったら、お家でじっとしてるタイプですね。家事が好きなんですが、その理由が最近わかって。唯一自分の人生の中で、自分が主導権を握れるのが家事なんですよね。誰の損得もなく、誰に確認するわけでもなく、誰かを立てるわけでもなく、自分のためにできて、かつ家族に喜んでもらえる。新卒の時からこれまで22年間、社長が直の上司の元でやってきたのもあり、仕事となると、そうはいかないですからね。

フェムテックtv:新卒で芸能プロダクションのアミューズに就職を決めたのはなぜですか?

世永さん:私は日芸卒業生なんですが、舞台やテレビでおもしろいなと思う人や作品がどれもアミューズが関わってたんですよね。当時、アミューズ所属の三宅裕司さんが出演している『イカ天』という番組も大好きでした。

フェムテックtv:就職活動はスムーズに進みましたか?

世永さん:生まれて初めてこんなに「不合格」と否定されたり面接できついことを言われたり、ビックリしました。親からも怒られたことがなかったので(笑)。でも社会に出てからはすごく恵まれて、愛されて育ってきました。自分ができないことの悔しさや体力的な辛さで泣きながら仕事をしたことはあっても、理不尽なことで泣いた経験は運良くないですね。

社会に出たからには絶対に働かなきゃいけないという意思と、大人しい割にやるからには絶対成功したい、120点取りたいっていう意識がすごく強いんです。完璧にできないのに完璧主義。いまだに寝る前に、次の日に何をやるかシュミレーションしてから寝ないと気が済まない。いつも石橋を叩いて叩いて叩きすぎて、橋が落ちちゃって渡れない感じです(笑)。

「LAへ広告撮影で初出張。サマンサPR時代は年に何回も海外でセレブの広告撮影をしていました。「自分たちでダイレクトにコミュニケーションをする」という徹底した方針で、当初は言葉も通じず苦労しましたが、海外スタッフとの仕事は本当に刺激的で夢を見ているような日々でした」

フェムテックtv:そこから当時、知名度が低く数十人しか社員のいないサマンサタバサへの転職を決断した理由はなんだったのでしょうか?

世永さん:アミューズに入社して数カ月で、新しいプロジェクトのレコード会社で働くことになったんです。新しい会社なので前任者もいない環境で本当に必死だったのですが、しばらくして、組織変更されることになりました。「本社に戻っておいで」と言われましたが、2年間死ぬ気で頑張ってきた私は“大人ってひどい!”と悲しくなってしまって。今となったら理解ができるのですが、私が当時はまだ子供だったので、会社の事情等も分からず自分の感情しか考える事ができず、雨の中、まるでドラマのように泣きながら会社を飛び出しました。

その時に入ったコンビニに求人誌『とらばーゆ』があって。“履歴書もいらない宣伝の仕事”に惹かれて電話したのがサマンサだったんです。

フェムテックtv:サマンサタバサでは順調にキャリアアップされ、執行役員を10年以上も勤められました。リーダーとして働く上で、熱量の違いで思うようにコミュニケーション取れないなど意思疎通は難しくなかったでしょうか?

世永さん:みんなが同じ方向を向いて同じ熱量でやれることは、奇跡だと思うんです。子育てしていても仕事していても思うんですが、心が踊る瞬間や夢中になるものって人それぞれ違うんですよね。例えば、チームの中にみんなから見たら冷めてる人がいる。ただそのスタッフにとっては、きっとその瞬間が同意できないだけで、熱くなる瞬間は絶対にある。そこを丁寧にコミュニケーションして引き出して、活躍してもらう。それこそがリーダーの役目だと思っています。

「最近は20歳くらい年下のスタッフと仕事をすることが多いのですが、とても学びがあり、本当に楽しいです。仕事を長く続ける醍醐味は、こうして普段生活していたらあまり関わることが出来ない世代のスタッフと一緒に戦えることです」

フェムテックtv:その役目に気づけたきっかけはなんだったのでしょう?

世永さん:私自身が基本的にみんなで大騒ぎするのが苦手だし、人を誘いたいけど誘えない。みんながみんな、肩を組んで“おー!”という人じゃないっていうのが、自分のベースにあるんですよね。コンプレックスや弱みが多い人は、管理職やマネージャーに向いてると思います。人の痛みを知っているのは、大きな武器ですね。

女性の可能性を閉さない“パラレルキャリア”で働く

フェムテックtv:パラレルキャリアを志したきっかけを教えてください。

世永さん:42歳でパラレルキャリアになったんですが、それまで本当に忙しかったんです。気づいたら息子が小学6年生になっていて、夏休みも一緒に過ごせてないなって。サマンサも17年働いたから、辞めるなら今だなと。

そしたら家族に一番反対されたんですよね。「働いてるママが好きだから」と。サマンサからも「非常勤でもいいから残って欲しい」と言ってもらい、退職の噂を知ったオイシックス・ラ・大地からも声をかけてもらい、今に至ります。いろんな場所で自分の経験したことを活かす生き方があってもいいのかなと思って。今もそうですが、なりたい自分像みたいなのがないので、導かれた道を行く。たまたまのタイミングで、パラレルキャリアという道が目の前にあったから歩み始めました。

「Oisixでの初仕事は、ヴィーガンミールキット『PURPLE CARROT』のブランドローンチイベント。アパレル業界から食の世界へ。新しい挑戦はワクワクと戸惑いの大渋滞で、40歳過ぎてもこんなにも成長のチャンスがあるのか!? と必死かつ充実の日々です」

フェムテックtv:1日のタイムスケジュールはどのような感じですか?

世永さん:5時半に起きて家事をして、子供達を送り出した9時くらいからリモートで仕事を始めて、出勤した方がいい会議があれば会社に行って17時くらいまで働いて、帰宅して夕食を作って、合間に仕事の連絡などがあればリモートで対応といった感じです。23時半くらいには体力が持たず、気絶しています。自分時間はないですが、特に欲しいタイプではなくて。TikTokやインスタをちょっと見られる時間があれば十分です。

フェムテックtv:仕事をする上で、女性特有の健康課題がもたらす問題や難しさを感じたことはありますか?

世永さん:若いうちは正直なかったですが、今45歳で更年期障害の症状に直面しています。起きられないし、無理できないし、疲れを引きずるし。パラレルになったのは、すごく正しい選択だったなと思います。

女の人って無理が効かなくなるし、子育ては時と共に楽になるように見えて、子供に対して神経を使う時間が増えると思うんですよね。思春期や人生の大事な選択をするようになるので。自分の時間を自分でコントロールして仕事や家族に時間を使えるパラレルキャリアは、女性の更年期にも合う働き方だと思います。

「リモートが多いので、大好きな植物を沢山育てて、家の中を快適に綺麗に、を心がけています」

フェムテックtv:実際にどんな症状があらわれてますか?

世永さん:遅くても5時半には起きて7時くらいには子供を送り出すんですが、そこで一度30分くらい寝ないと体がもたない。パラレルキャリアになってからなので、もしかしたら9時に出社しないといけない! という縛りがなくなり緊張が溶けたからかもしれないんですけど。

フェムテックtv:体調のことは周囲に共有はされていますか?

世永さん:全部言うようにしています。無理に元気に振る舞おうとしない。誰にも求められてないですが、自分の中のミッションとして“自分より年下の人たちの、ちょっとでも勇気になる生き方をしたい”っていうのがあって。「結婚しても仕事したかったらしてもいいし、仕事しなくても素敵だよ」 「女性でも取締役になれるよ」と伝えるのと同じように「更年期ってこんな感じだよ」と言うのも自分の役目かなと思っています。

「2022年7月にオープンした那須のGOOD NEWSオープニングイベント時の写真。パラレルワークを始めてから、新しい扉がどんどん開き、全ての経験や出会いがそれぞれの仕事に生きています」

フェムテックtv:ご家族にも体のことは伝えていますか?

世永さん:うちの子たちとは何でもお互い話すので、包み隠さず話してます。4月から高校生の息子にも「ママ、時期的にマジでイライラしてる」とか言ってます。旦那はパートナーの体調の変化がリマインドされるアプリを登録してて、「体調悪くなるよ!」って教えてくれるんですよ。知ってるよって感じですけど(笑)。

フェムテックtv:子供への性教育に関して、もし気をつけていることがあれば教えください。

世永さん:それに関しては、私はノータッチです。娘の小学校も息子の中学も、学校が性教育に力を入れてくれてるんですよね。保健体育の授業には、親も一緒に参加するんです。学校から言われることと親から言われることって、受け取り方が違うと思うので、ありがたいですね。

どんな人、どんな働き方でも居場所がある社会に

フェムテックtv:フェムテック・ケアで意識されていることや使用しているアイテムはありますか?

世永さん:何かしなきゃいけないと思ってるんですが、自分の体の現実を理解しているくらい。去年の夏頃に右腕を骨折してしまい、生きていることに感謝のフェーズで。それ以上のことは、何もやれてないんですよね。後遺症も残ってしまい腕が上がらず、握力も1桁くらいに。「ママって人に意地悪もしないで一生懸命生きてるのに、なんでこんなひどいことになっちゃったの」って子供は泣き出しちゃいました(笑)。

「家族の後ろ姿を見るのがすごく好きです。最近では子供たちも大きくなり、私が家族で一番小さくなりつつあります」

フェムテックtv:お仕事にも少なからず支障が出てしまいますよね?

世永さん:思うように腕が動かないし、仕事をする気も起きないし、初めて仕事が遮断されました。これを機に、全部辞めようと思ったんです。ただみなさんに「待ってますよ」 「大丈夫になってからでいいよ」などと引き止めてもらって。そこが私の恵まれているところですよね。

それで思ったのは、確固たる目的や、なりたい自分像がない私でも、ある程度のところでお仕事をさせてもらえるんだよということ。「目標がなきゃいけない」と言うけれど、3年後、4年後のビジョンなんて45歳の私でもわかりません。何がなんでも“じゃなきゃいけない”になる世の中は窮屈だし、いろんな人の可能性を潰す気がしていて。もちろんそういう目標をしっかり持てる方は尊敬しますし、憧れます。

「料理をしている時は無心で仕事でのトラブルや時間に追われている日々を忘れて無心になれます。どんなに忙しくてもとにかく家で夕飯は作りたい。子供が生まれてから仕事との両立は今でも答えが見つからないほど難しい課題です。子供の頃に食べたご飯、美味しかったなぁ。と将来、子供達が社会に出て何か壁にぶつかったときに思い出して支えにしてもらったらな、そんな事を考えながら日々必死にご飯作ってます」

フェムテックtv:では最後に、世永さんが思うウェルビーイングな社会とは?

世永さん:多様性だと思っています。“こうあるべき”が、どんどん必要のない時代。息子の学校の保護者会に行った時に、先生が「僕は協調性があるクラスが、いいクラスだとは別に思いません」と仰っていて。みんなで肩を組んでやるのが好きな子もいれば嫌いな子もいるから、やりたい子はやればいいし、やりたくなければやらなくてもいいと。息子は「学校にいると居場所がない人がいないのがいい」って話をしていました。「スポーツが好きな子、理科が好きな子、それぞれに居場所があるから今の学校が好きなんだ」と。

私はこれこそが、社会の理想系だと思っています。選択肢が広がっているからこそ、必ず9~17時で会社にいれて、最前線で戦える人だけが評価される時代じゃない。もちろん、そこで活躍できる人もいれば、フルリモートで働く人も評価されていい。多様性が認められ始めているのはコロナ渦を機に感じますし、子供たちを見ていてもすごく思う。本人の努力やスキルさえあれば、なんでも叶うと思います。

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橋本範子(はしもと・のりこ)●女性誌を中心に手がける編集・ライター。趣味は深夜ラジオを聴くこと。小型船舶2級所持。