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サスティナビリティ

【対談】未来は自分たちで考えるー参加者が語る、経産省の若手版カーボンニュートラル議論

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経産省は「自分ゴトにするために 共感から始めるカーボンニュートラル」と題した報告書を公開した。これは2020年10月に菅総理が「2050年カーボンニュートラル達成」を宣言したことを受けて経産省に設置された「グリーン成長に関する若手ワーキンググループ」のとりまとめである。若手だけによる議論の場が設置されるのは省庁ではまだ珍しいことだが、2050年を考えるならばそのとき現役世代である今の20~30代も議論することが大事なのではないか、という考えから、企業・大学・産総研・経産省の20~30代の若手77名を集めて発足した。5ヶ月にわたる議論を経て大臣に報告したところ、「世代を超えた議論ができる経産省にしていこう」と大臣も若手の新鮮な視点に感銘を受けた様子だった。

ワーキンググループに参加したメンバーに、議論の感想や印象深いこと、報告書の思い入れのある内容などを聞いた。

参加メンバー

小澤 暁人:産業技術総合研究所
福崎 幸乃:株式会社ナカダイホールディングス
真下 英也:関東経済産業局
簑原 悠太朗:経済産業省
杉山 実優:経済産業省(当時・聞き手)※現在は出向帰任して株式会社リクルート

目次

ものの見方が違うメンバーとの対話がとても刺激的だった

若手だけで集まって政策を議論するのは初めてだったかと思いますが、いかがでしたか?

簑原      組織を超えてフラットなスタンスで議論できたのがとてもよかったです。お互い本音で話すことができて、通常のヒアリングでは対「役人」と構えられてしまうこともあるのですが、そうではなく話し合えたなと感じています。

真下      若手だからこそ無邪気に個人個人の意見をぶつけ合えたのがよかったです。自分たちがどうしたいのか? を中心に議論したので、肩肘はらずに等身大に問題意識を伝えられたと思います。往々にして地方局からの現場の声は届きにくいのですが、今回はしっかり受け入れてもらえたのもよかったです。

小澤      ふだんの研究者同士の議論とは違う視点を感じることもあり、刺激になりました。たとえばサプライチェーンという単語一つでも立場によって前提が違って、研究者は客観的に「ものづくりのサプライチェーン」と捉えるところを、企業のメンバーは自社がサプライチェーンの中にあるという視点で考えていました。議論の中で視点をすり合わせることは大変でしたが、実際にビジネスや産業を動かす具体的な企業活動の視点を持って、研究でもその視点の切り替えをすることが大事だと学びました。

福崎      私も想定しない方向から様々な意見があって、とても刺激になりました。企業ではターゲットが同じ相手と組むことが多いですが、経産省では同じ方向を向いていない人も含めて皆に対して意見を出していく必要があります。今回の議論の中でも、純粋に環境をよくしたい/日本の競争力の源泉としたい/国際的なルールメイキングに活用したい、など向いている方向が皆ばらばらで、幅の広さに驚くと同時に、その中で議論していく難しさを感じました。

共感と持続可能性が、若手の考えるキーワード

今回は若手だけで話しましたが、ベテラン世代との価値観の違いが議論に反映された部分はあると思いますか?

真下      報告書のタイトルに「共感」という言葉を入れましたが、これは若者の視点の一つだと思っています。ベテラン世代はやらされることへの忍耐力があると思うのですが、いまの若手はやらされることへの抵抗感が強いと感じます。「べき論」ではなくて、「共感」を主軸にもっていかないと人が動かない。政策の価値観の変容がいま求められていると考えています。

小澤      サステナブル指標の提案も、若手の視点が反映されていると思います。GDPは経済成長によって将来が明るいことを前提にしていた指標であり、価値観。若い世代は、「将来は必ずしも明るくないかもしれない。経済が成長するとは限らないし、環境が悪くなるかもしれない」という不安感や危機感をもって生きています。未来のことは自分たちでちゃんと考えないといけない、という若手世代の考えがサステナブル指標の提案に反映されていると思います。

福崎      お二人の話をまとめる形になりますが、まさにサステナブル指標が共感の一つのカギになればと思って議論していました。SNSなどもあり、共感することの伝播のスピードはとても早いです。企業にとってカーボンニュートラルは取り組まないと生き残っていけないという危機感があるので、それによって新しい業務が生まれたり、これまでの業務を見直したりという改革につながっていきます。そのときにビジョンとすることができる、今の時代にあった分かりやすい軸があると一気に進むのではないかと思います。

杉山      大臣にご報告したときにもお話したのですが、いまの若者はバブル崩壊後に生まれ、リーマンショックや東日本大震災を見ながら育ってきた世代で、右肩上がりの成長と言われても正直ピンとこないのだと思います。またこれから人口減少や気候変動に向き合っていく中で、GDPの経済規模だけを指標とするのではなく、経済の基盤となる環境や社会とのバランスが大事なのではないかと考えます。企業もESGなど財務だけでない価値に注目していますし、国連ではSDGsを指標化する新国富指標などの議論があります。カーボンニュートラルのビジョンとして掲げた「経済と環境の好循環」というフレーズを軸に、経済成長と両立して、持続可能な経済を模索していきたいという思いでこの議論をしていました。

真下      持続可能性の話を受けて、大臣も循環型経済や再生可能エネルギーの供給拡大についてお話されていたので、価値観が変わってきていることを感じていらっしゃるのかなと思いました。時代の流れのスピードが速いように、人の感性の変化も早くなってきているので、若手とベテランが目線を合わせる機会がとても重要だと思いました。

ケイト・ラワース. (2018),ドーナツ経済学が世界を救う 人類と地球のためのパラダイムシフト, 河出書房新社
引用:ケイト・ラワース(著)『ドーナツ経済学が世界を救う 人類と地球のためのパラダイムシフト』 (2018)(河出書房新社)

自分なりのカーボンニュートラルへの納得感が大事

簑原      価値観の多様性というのも大事にしたい点です。今回の議論は、最初の問いを「誰の何を守るために、2050年カーボンニュートラルを目指すのか?」から始めました。普段は、組織としての方針は大前提として「どうやったら進むか?」をスタートラインに政策を考えてしまいがちですが、必要だと分かってはいてもどこかで「本当にやる必要があるのか?」とよぎる気持ちがどこかにあるなかで、自由に暗黙の前提を疑うところから始めたことで、より本音をいいやすい関係性をつくることができました。組織を背負うのではない、個と個の関係性の中でこうした議論ができたことがとても貴重でした。

小澤      率直な心境として「カーボンニュートラルは大変」という意見が多かったのは、安心した部分でもありました。「楽観視しているのでは?」というのを危機感として持っていたのですが、それを話せる場はこれまでなかなかありませんでした。

真下      国がカーボンニュートラルを宣言してから、ゼロカーボンシティ宣言が急激に増えたり、企業も宣言を始めたり、客観的には盛り上がっている雰囲気がありますが、実態がまだ伴っていないと見ています。地方局として、地域にとってカーボンニュートラルは何のためにやるのか? 何を得たくてやるのか? を議論することを大事にしていきたいです。それぞれの価値観の中で、カーボンニュートラルに意義を見出して、納得感をもって取り組んでいただけるといいと思います。

若手で未来のビジョンを議論し、発信する場が増えるとよい

今回の議論を経て、今後につなげたいことはありますか?

真下      カーボンニュートラルを進める取り組みはさることながら、このような若手の議論の場が継続されるといいなと思います。長期的な課題に対して、5年や10年かけて様々な人を巻き込みながら、真摯に考えて検討する。こうした座組はこれまでの政策議論でもあまりなかったものだと思います。

小澤      こうした話ができる仲間を増やしたり、さらに下の世代に引き継いでいけたりするといいですね。同じテーマでも中高生はまた違う議論をするのではないかと興味があります。

福崎      経産省だけでなく、企業や自治体などいろいろな場所で、今回のような若手による議論が横展開されていくといいなと思います。

杉山      若手による議論の価値は、政策提言というアウトプットやそれを実現するというアクションだけでなく、議論を通じて組織を超えた共通の目線づくりができることも大きいのではないかと思います。皆さんがそれぞれの組織で活躍して、5年後10年後にここでの議論が何らかのインパクトにつながっていたら素敵ですね。

▼グリーン成長に関する若手ワーキンググループの報告書はこちら

「自分ゴトにするために 共感から始めるカーボンニュートラル」
https://www.meti.go.jp/press/2021/06/20210602004/20210602004.html

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