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連載 | SOTOKOTOmtu人の森

ブランディング・デザイナー 青栁 徹

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“斜陽”の郷土食「しもつかれ」を持続可能にアップデートする。栃木県を中心に食べられてきた冬の郷土食「しもつかれ」が今、大きく変わろうとしています。クセが強く、食べる人が減っているこの食を地域の宝と考え、「しもつかれ祭り」を企画したのが、青栁徹さん。“アップデート”することで郷土食を守る、その思いを聞きました。

目次

ここにしかない
郷土食の可能性を
探り、再定義。

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上/伝統的なしもつかれ。下/「しもつかれ祭り」では、会場の『10picnic tables』店内でワークショップなども行われる。

 鮭の頭に大豆、粗くおろした大根、にんじんなどを酒粕とともにひたすら煮込んだ「しもつかれ」。栃木県を中心に受け継がれてきた冬の郷土料理だ。文献によると、発祥は平安時代。保存するために酢につけた大豆から発展したといわれている。
 ところがこのしもつかれ、実はイマイチ人気がない。クセの強い味や見た目のために好き嫌いが分かれ、“斜陽”的存在だという。
 そんな現状を変えようと、しもつかれに光を当てたイベントが企画された。この2月10日に栃木県下野市内で開催される。伝統的なプレーン味の食べ比べから、アレンジレシピの試食、ワークショップ、トークショー、鬼おろしの展示や早おろし選手権などのコンテンツを揃えた「しもつかれ祭り」は、徹底的なしもつかれ縛りの内容で行われる。しもつかれに関するあらゆる可能性を探り、しもつかれの価値を再定義しようという試みなのだ。
 主催は『しもつかれブランド会議』。その代表を務めるのが栃木市在住のブランディング・デザイナー、青栁徹さんだ。「人の役に立つデザイン」を日々目指し、本業のグラフィックやWEBデザイン以外でも、東北の被災地の復興支援や地域づくりなどをプロボノで活動。企業やショップ、プロジェクトなどをトータルでブランディングしてきた。青栁さんが描く、しもつかれの未来像とは?

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「しもつかれ祭り」は2月10日(日)10:00~15:00、『10picnic tables』(栃木県下野市国分寺821-1)で開催。入場無料、体験料1000円。

どうして、しもつかれに注目を? ご自宅でよく食べていたのですか。

 祖母はよくつくっていましたが、母はほとんどつくっていません。実は僕、しもつかれが好きじゃなかったんですよ。

なんと!(笑)。

 それでもしもつかれって、価値が高いと思ったんです。栃木県の名産といえば、イチゴと餃子が思い浮かびますが、ブランディングの観点からいうと、そこにしかないものってすごく大事。しもつかれは郷土料理として800年近い歴史があるのに、食文化として衰退している。これをブランディングできたら価値があると思ったんです。

青栁さんのホームページに、しもつかれ商品のモダンなパッケージが掲載されていましたね。以前、お仕事されたのですか?

 いや、あれはアップデートしたイメージで勝手につくったものです。イタリアントマト、ホワイトソース、カレーという、しもつかれのアレンジ料理の試食もつくって、食品会社に持っていったんです。めちゃくちゃ褒められたんですよ。すごくおいしいし、おしゃれだって。でも、新しいラインを増やすのは難しいらしく、商品化には至っていません。

栃木の
チャレンジ・シンボルを
目指して。

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左/県内で唯一の市販品、『大関商店』の「しもつかれ」。右/『しもつかれブランド会議』の初回には試食会を開催。SNSでの告知で20人ほど集まった。

新しいことはする必要がない?

 しもつかれを作る食品会社は、以前は4~5社あったけれども、今は栃木県で1社。売り上げも一定数はあるらしいです。この会社のすごいところは、それまでは2月前後にしか食べられなかったしもつかれを、年間通していつでも食べられるようにしたこと。同じ味をいつも変わらず提供することで、文化としての土壌をつくったところに価値がある。そこに気づいたんです。

なるほど。青栁さんはそれとは違う方向を探るために『しもつかれブランド会議』を立ち上げたのですか?

 そう、いろいろな味のものや、アレンジ料理をつくってふるまうことで「しもつかれが変わってきたな」と思ってもらえるようなことを、まずはやるべきだと思ったんです。

『しもつかれブランド会議』のメンバーはどのように集めたのですか?

 まずは試食会をやったんです。妻につくってもらったしもつかれのアレンジ料理をランチボックスにして食べてもらいました。

しもつかれがおしゃれに!

 驚きがないと人って惹かれないから、最初の回はインパクトを重視しました。FacebookなどSNSで募集したら20人ほど集まりました。今、メンバーは20人くらい。なかには、しもつかれへの愛情がすごい高齢の方とか、高校生もいて、一緒にアレンジ料理を考えています。

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その初回で試食したしもつかれのランチボックス。

青栁さん自身は、しもつかれを好きになったのですか?

 好きになりました(笑)。きっかけは地域の高齢者が主催している食べ比べイベントで、10種類くらいの手作りしもつかれを食べたこと。どれもおいしくて、苦手意識がなくなりました。

「しもつかれ祭り」でも、そういう人が増えるといいですね。この祭りは『しもつかれブランド会議』から生まれたのですね?

 はい、アイデアのひとつです。僕らはしもつかれを、「前例がないチャレンジを繰り返して、栃木の象徴となるブランド」にします。そして、「栃木のチャレンジ・シンボル」になることを目指しています。

チャレンジ・シンボル、いいですね。

 しもつかれって、誰からも期待されていない。それをリ・ブランドすることで、地域でがんばろうとしている人たちや、あきらめないでやっていくことのシンボル的な立ち位置になれるといいなと思っています。そもそも期待されていないものに対して、僕が勝手に動いているだけなので。でも、それが大事なことなのです。iPhoneだって、誰も求めていたわけじゃないけど、あれができたことで、新しい未来とスタイルが生まれた。そうした気づきを与えることが大事だなって思うんです。

そうした目指す未来をつくるために、大切にしていることは?

 まずは継続すること。ブームではなくて、カルチャーにならないとダメだと思っています。ブームのように上り詰めたらすぐ落ちるものではなく、ピークをつくらず、緩やかに成長し続けるのが理想。そうすることがしもつかれだけでなく、地域自体が持続可能に、アップデートしていくことにもつながるのかなと思っています。

今を変える大人、
未来を変える子ども、
両方の目線が大切。

アップデートという視点がおもしろいですね。

 宮城県・女川町でまちづくりのプロジェクトに関わっていたとき、「何回も通いたくなる町」って、どういう場所だろうと考えるようになったんです。観光や食べ物も大事なファクターですが、いかんせん飽きもくる。そんななか、常に変わって成長し続けるのは、人。自分がどこかへ出かけるときも、「あの人に会いたい」という動機が大きいことに気がつきました。だったら、地域におもしろい人を増やせばいいと思ったんです。僕にできることは、今までいろいろな場所で得たことを活かし、地域の人たちと一緒になって、チャレンジして学んでいくこと。それが地域をアップデートしていくことだと考えて、プロジェクトを進めています。

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栃木市立国府南小学校で行う教育プロジェクト「oneclass」。全39名の児童は卒業すると生徒数約640人の中学校へ。その不安を取り除くためコミュニケーションの授業を行うとともに、アートや動画製作などクリエイティブな授業も行う。

そうやってプレイヤーが着々と増えていくのですね。

 僕は個人レベルの尖っている部分が大事だと思っているんです。『しもつかれブランド会議』には野菜ソムリエで料理家の方がいて、アレンジ料理を100種類、考えてもらっているんです。

それはすごい。

 彼女には「しもつかれアレンジ料理家」と名乗ってもらっています。しもつかれのアレンジをやっている人がほとんどいないなか、先に名乗っちゃうことって大切。「しもつかれアレンジ料理家」は、約195万人いる栃木県民で1人だけ。一番なんです。それって、すごいことだと思うんですよ。自分の得意なことと、もうひとつを組み合わせることで、その人にしかできないものになって目立ちやすくなるから、注目される状況になる。それがフックとなって、自分自身も仕事も広がりがもてるようになる。

すると、地域への貢献にもつながっていきますね。

 地域にクリエイティブの土壌をつくっておかないといけないと思っています。ここでビジネスが生まれなかったら、ここで活動する若い人が生まれない。地域の人の意識をアップデートすることで若い人が活動できる土壌をつくりたいんです。
 今、統廃合の危機にある全児童39人という栃木市立国府南小学校で、教育プロジェクト「oneclass(ワンクラス)」を運営しています。ここでしか体験できない授業をすることで、学区外からでも通ってもらえる学校を目指そうと、外部講師や芸大生を呼んで授業をやっています。子どものうちからクリエイティブ感度を高めたら、おもしろい大人になるのかなと思って。大人は今を変えられる、子どもは未来が変えられる。その両方の視点が大事です。今だけでなく、未来に対しての作業もすることで、地域を持続可能にしていければと思っています。

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