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連載 | SOTOKOTOmtu人の森

『欠損バー・ブッシュドノエル』運営 岡本タブー郎 北川 玲

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「欠損女子」のバーを、新宿ゴールデン街で開催しています。東京一の歓楽街、新宿・歌舞伎町にある「新宿ゴールデン街」。月に一度、『欠損バー・ブッシュドノエル』のあかりが加わる。先天的な理由や事故などで、腕や脚など体の一部がない“欠損”が個性の「欠損女子」といっしょに飲めるバーだ。彼女たちとフラットに語り合える場。運営の二人に話を聞いた。

目次

「欠損女子」と
飲めるバーが、
大盛況に。

 雑多で、ちょっと妖しげで魅惑的なバーがひしめく東京都新宿区の「新宿ゴールデン街」。そんな中にバー『からーず。』がある。『からーず。』は普段はギャラリーバーだが、月に1回、『欠損バー・ブッシュドノエル』として開店する。
 欠損バーは腕や脚などの体の一部が先天的に、あるいは事故などで「ない」女性――「欠損女子」が働くガールズバー。右腕の肘から先がない女子、左足がなく、義足と松葉杖で歩行する女子など5人のスタッフが働いている。
 『ブッシュドノエル』がオープンしたのは2015年10月。最初は不定期開催だったが、常連客や働き手の女子たちの要望もあって現在の月1回のペースになった。欠損女子が働くのに支障のない店舗を借りられるのであれば、地方に「出張」することもある。
 『ブッシュドノエル』を運営するのは、飲食店やイベント業の経験豊富な北川玲さんと、雑誌やネットニュース編集者の岡本タブー郎さん。立ち上げの経緯や、運営をとおして見えてきたこと、これから目指すことなどを聞いた。

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バースデーなどスタッフの女の子の記念日にはお客さんからお祝いが届く。

お二人が『ブッシュドノエル』を始めた経緯を教えてください。

岡本タブー郎(以下岡本)  私は以前『BLACKザ・タブー』(ミリオン出版刊、現在はネット運営)の編集長をしていました。雑誌では障害者の記事もよく掲載していて、『ブッシュドノエル』の立ち上げからのスタッフである琴音ちゃんと、その雑誌のインタビューで知り合ったのがきっかけです。琴音ちゃんは15歳の時に交通事故で右腕を失った女子なのですが、コスプレのグラビア写真を掲載したら、「かわいい」「会いたい」という声がたくさん届いた。バーみたいな形式であれば、カウンター越しに腕も見せられるし、イベントをしてみてもいいのかなと。それでゴールデン街でよく飲みに行く北川さんのお店『からーず。』に話を持ちかけてみました。

北川玲(以下北川)  話を聞いたときは、うちはゴールデン街だし、2階の店だし、バリアフリー対応もしていないので「本当にうちでいいんですか?」とびっくりしましたね。でも、琴音ちゃんが飲みに来てくれたこともあったし、知っている人なら彼女もやりやすいかな、と……。

最初の反響は?

北川  今もそうなんですが、お客さんは90分ごとの入れ替え制にして、18時から24時まで営業しました。そのときはその形式で2日間開催しました。

岡本  宣伝もツイッターぐらいで、ウェブサイトも今のように充実していなかったんですが、それでものべ150人ぐらいの方に来ていただきました。

そのときの客層はどのような感じでしたか?

岡本  最初は「珍しいものを見たい」という好奇心や、欠損の“フェチ”だからという理由で来る方が多かったですね。

北川  それが女の子たちの努力もあって、回を重ねるごとにいろんな方が来るようになりました。その中から「いいお客さん」が残っていきました。
 店がこぢんまりとしていて、カウンターしかなく、お客さん同士も仲良くなりやすい雰囲気だということもあって、変な人が入りづらい、(女の子に対して)変なことを言いづらい空気が早い段階でできたんです。

女の子が、
どんどんかわいく
なっていった。

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左/琴音ちゃんは事故で右腕を失ったが、料理や裁縫が得意。カクテルもつくれる。右上/フック型の義手はお客さんからのプレゼント。右下/琴音ちゃんの義手。外してお客さんに見せることも。『欠損バー・ブッシュドノエル』https://bucheden0el.official.ec

常連さんにはどんな方が?

北川  割合としては会社員が多いけど、義肢装具士やその学校に通っている方、医師や社会福祉士の方もいます。義肢装具士の方は、実際に装着して動いているところを見られてよかったと言っていました。意見交換もしていましたよ。

岡本  自分に障害がある方も多いです。最初はお客さんとして来ていたのが、働くことになった女の子もいます。

お店のつくり自体はバリアフリーではありませんが、そのあたりはどのように対応しているのでしょうか。

岡本  僕はけっこう多くの人を、2階まで「おんぶ」して上がりましたよ。

北川  最初はまったく階段を上れなかった方が、毎回来るうちにだんだん上れるようになって、「リハビリによかった」と言っていました。店で働く女の子にしても、私たちが思っている以上に、なんでもできます。最初は私がお酒(水割りやカクテルなど)をつくって、女の子にはお客さんと話してもらっていたんですが、そのうちに洗い物を手伝ってくれるようになって。最近はお酒もつくってもらうようになりました。そのほうがお客さんも喜んでくれるから。

岡本  片足が義足のさくらちゃんも、カウンターの中をケンケンで高速移動したり。

北川  今、働いている女の子たちにできないことって、重い物を持ち上げたり、傘を持ちながらスマホをいじったり、そんなことくらいなんです。
 琴音ちゃんは家では上手に料理を作ったり、裁縫をしたりもする。さくらちゃんは最近、お客さんが自分の義足姿に慣れすぎてしまったからと、あえて義足をはずしてカウンターに置いて見せたりしています(笑)。ただ、人によってできること、できないことは当然違うので、そのあたりは店としてもっと対応できるようにしたいと思っています。

普段、出会う機会がなかなかない相手だからこそ、『ブッシュドノエル』のような場で気軽に話せると、意識が変わりますね。3年間営業するなかで、女の子たちに何か変化はありましたか?

北川  女の子がみんな、かわいくなりました!

岡本  欠損があることでいじめられていたという子もいます。それで自信を失っていたり、ずっとネガティブになっていた子も多いんですよ。

北川  お客さんから「かわいいね」と言われても、「そんなことない」と冷たく返してしまった子もいる。それで、一度叱ったことがあるんです。「お客さんはあなたに会いたい、話したいと思って来ているのに、せっかくの好意を否定するような言い方をしたら、お客さんが傷つくよ」って。それからだんだん変わってきて、かわいい服を着たいからとダイエットしたり、メイクを研究したりするようになりました。

助けるのではなく、
普通に会話ができる
場所にしたい。

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左/出勤は自分がかわいいと思う服で。右/生まれつき指がないスタッフのあもりちゃん。

お店の中では、どんな会話が交わされるのでしょう?

北川  常連さんが多いと、欠損の話はあまり出なくなります。この間、こんな料理を作ったとか、どんなところに遊びに行ったかというような、「ごく普通の日常」の話です。

岡本  スタッフ同士でもそうですが、そうやって距離が近づいていくと欠損していることも日常のひとつになる。「こんなところに腕(義肢)を置きっぱなしにしちゃダメ」とか、「義眼を見せるならちゃんと拭いてから」なんて会話も出てきます。

お二人がお店を続ける原動力は、「みんな普通の女の子です」というのを伝えたいから?

岡本  そんな大層なものではないです。最初は「こういうバーを開いてみたらどんな人が来て、どんなことを話すんだろう?」という、それこそ好奇心で始めましたから。ただ、「欠損を見せ物にするなんて、間違っている!」といった批判が多かったこともあり、やっていることを広く知ってもらい、自分たちも女の子も変に気を使わなくていい状況になればと思って、開店直後は人脈も使って、取材をたくさんしてもらいました。その結果として「普通の女の子」という部分が前に出てきました。

取材を受け、伝えたことは?

岡本  「障害者を助ける」「かわいそうな人に手を差し伸べる」というような文脈にはしないでほしいとお願いしました。そう伝わると、お客さんが意図はしなくても上から目線になってしまう。助けるのではなく、わからないことを聞きに行くというような場所にしたかった。そうすれば女の子たちも、「これまでマイナスだと思っていたことは個性で、それでちゃんとお金を稼げるんだ」と思えます。いじめられていた子でも、場所さえ間違えなければ逆にその要素で人気者になれる。救う側、救われる側という分け方ではない、フラットなお店だということは常に発信していました。

『ブッシュドノエル』は年内(2018年末)で営業をいったん終えると聞きました。今後はどんな展開を?

北川  場所を替えて、もう少し規模を大きくしようと考えています。お客さんからも女の子からも、もっと開催の回数を増やしてほしいという要望があって。やるなら、店としてもっと多様なスタッフが働けたり、お客さんに来てもらえたりする場にしたい。今は女の子にタレントやアイドル的に振る舞ってもらうガールズバーという形式でやっていて、その部分で周囲の理解を得られず働けないという子もいたので、営業の形態も少しずつ間口を広げていきたいです。問い合わせをいただくことが多かった「欠損男子」のスタッフも採用しようと思っています。

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