『新たなビジネスが「農山漁村」を活性化する』をコンセプトに地域の魅力的な資源や、これを活用した多様なビジネスの農林水産省による起業支援プロジェクト「INACOME(イナカム)」。その一環として、2021年12月22日(水)に、課題を抱える農山漁村地域と起業者等のマッチングイベントが開催されました。全国の農山漁村地域から3地域が集まり、オンラインにて各自治体より起業者等へのピッチを実施しました。第1部では編集長・指出がファシリテーターを務め、実際に農山漁村地域で活動をされている起業者たちと、「私たちはローカルでビジネスをつくる!」と題してトークセッションを行いました。
【プログラム】
◆第一部 トークセッション「私たちはローカルでビジネスをつくる!」
『ソトコト』編集長・指出一正(写真 右上)
登壇者
『株式会社カトウファーム』
加藤絵美さん(写真 左上)
『株式会社INGEN』 代表取締役
櫻井杏子さん(写真 右下)
『株式会社フォレストーリー』 代表取締役
渡部真之助さん(写真 左下)
◆第二部 農山漁村地域からのプレゼンテーション(3地域)
高知県 北川村
長野県 栄村
石川県 宝達志水町
◆第三部オンライン交流会(55分)
https://inacome.jp/promoter2021
【第一部トークセッション】
◆テーマ『私たちはローカルでビジネスをつくる!』
それで気付いたら起業していました。今課題として、就農しても4年以内にやめるのが35%という問題があります。継続的に農家さんが安定して生活を続けていくには、技術を引き継ぐのが必要です。栽培指導者が人数不足でオンラインで栽培指導出来る環境を作るために立ち上げました。
加藤 農業を始めたきっかけは、主人のおじいさんが大きな面積の農業をやっていたからです。そんな中、孫の旦那さんが相談を受けて、サラリーマンをやっていて社会に疲れていた私たちで子供もいましたが、それなりに食べていけたら農業でもいいかなと思って就農しました。そんな中、震災が起きました。私たち若い世代が福島の農業をどう発展させて行ったらよいのかを真剣に考えました。色々な人に助けられたので、そこに恩返しを考え、儲けではなく、福島を発信できるチャレンジこそが恩返しだと思い、ビール醸造所もそのチャレンジの1つでした。
指出 ありがとうございます。加藤さんとは以前にご縁があって、加藤さんも属されている団体の「田舎のヒロインズ」というのがあり、女性就農者が地域の事、お子さんの事、未来の農業を考えながら農業をやっているコミュ二ティーがあり、それを知ったときに日本の農業はカッコいいと思いました。
僕は、櫻井さんのMr.カルテシステムは素晴らしいと思います。その辺の話を詳しく聞かせてもらえますか?大学時代の農業との接点なども聞きたいです。
櫻井 千葉大の農学部に行っていたので農業とは接点がずっとありました。
大学の時にヒアリングしたら、農業ITが農家さんにあまりささっていないことがわかりました。そこで見えてきたのは、病害虫予防のニーズが多かったことです。美味しく作りたい農家さん、たくさん作りたいと思っている農家さんの両方に共通していました。そこで、もう少し病害虫を深掘りしたいと思って起業しました。自分は機能性肥料や微生物の土壌改良などが得意だったので、肥料の相談窓口という看板を持って、創業1年目は農家さんを1000件くらい回りました。
農薬は使いたくないけど使わなければならない、ではどれをピンポイントでやるのか?微生物や機能性の液肥を組み合わせてどう健康に苗を育てて、病気にならずに生産、品質を維持するかについてのニーズがありました。もう1つ気付いたのは、色々な産地を回りましたが、異業種参入や新規就農者が農業に携わったが、苗を全滅させた話を聞いて不味いなと痛感しました。また地域によっては、昔からいたJAさん、県で回っている指導員さんに会った事も無い地域があり、栽培指導が不足していると感じました。場所によっては指導員さんに巡り合うことが出来ずに廃業する農家があります。なので、それをなくすためには、何とかオンラインで技術継承が出来るようにするしかないと思いました。ベテランの栽培指導者も属性問わず、JAさん、県、農家さんだろうが、栽培指導したいと思っている人をオンラインで就農者さんと繋ぐという事をやっています。
指出 ありがとうございます。今のお話の中には大事な言葉が沢山ありました。ファクトフルネス、ファクトベースで仕事が生まれていると思いました。
情熱とファクトと両方の面で、就農されている方が先々まで続けていく上で大事な視点で伝えて頂きました。デジタル田園都市国家戦略の中でもこれがDXとなって行ければ良いと思います。では、渡部さんにビジネス、プロジェクトを始めようと思った理由を深掘りして聞いてみたいと思います。
渡部 林野庁主催のプログラムのお話しですが、林業、山が好きなメンバーがたまたまチームになってどうやって事業を作るかでスタートしました。
僕は林業をやっていたので、山に個性的な木が沢山あって、曲がった木などが、市場に出回らなくて切られて山に捨てられたりしていました。僕が東京で勤めていた時、材木の加工とかで個性的な木を使っていたデザイナーがいましたが、なかなかそんな木が手に入らない。そんな中、林業をやっているとその様な木がたくさんありました。そういった物をビジネスにしたいと思いました。ただ、メンバーと話しているとビジネスにするのはなかなか難しいと分かりました。メンバーで共通した思いがあって、山の良さ、林業の事を知ってもらいたいという思いがあったので、一般の人に山に来て欲しいと思いました。なかなか都会の人が山に入る機会がなくアクティビティもありませんでした。山で何をしたいですか?というアンケートを200名に取った結果、2位がサバイバルゲームでした。そこに着目したのが事業のスタートです。なかなか山に接点がない人に山に来てもらうきっかけを作る架け橋がしたかったです。それを通じて林業を知ってもらい林業を盛り上げたいと思いました。
櫻井 そうですね。お付き合いしている農家さんから美味しい物を頂く時です。
つまり、うまくいっていないから相談がきて、オンラインカルテを使っている指導者を紹介したり、肥料の相談窓口担当を付けたり、3年くらいかけて本来あるべき生産体制にもっていきます。うまくいったという事です。この前も、水はけの悪い土地で果樹栽培しているところがあって、3年経って土が良くなっていいブドウが出来て良かったと思いました。
渡部 まだ初めて1年も経っていませんが、今までやってきた中で山林所有者や地域の方々に関心を持って見守って下っているのがありがたいです。
実際に盛り上がっているのを、他の方が来てくれたりして交流できるのがすごくうれしいです。サバイバルゲームに来てくれているお客さんが、山林づくりや林業に興味を持ってくれるのが嬉しいし充実感があります。
指出 ありがとうございます。ローカルで仕事を作るのはど真ん中でなくても良い時代。加藤さんがお米ではなくビールも作ったり。地域で仕事を作る事については、より開放され始めていると思います。ここからはローカルという視点から3名に話を聞いてみたいと思います。
櫻井 技術向上をモチベーションする環境が必要だと思います。戦後は、農業技術はなんとなくみんなの物という認識がありました。それが今では足を引っ張っています。折角色々作っても、色々な人が寄ってきて、勝手にタダで技術を持って行ってしまう事もあります。あるいは、若手農家さんを指導しようとするベテラン農家さんも、本業の自分の農園がある中で、技術を継承しようとしても、お金無しでというと、本業が優先になり広がっていきません。だったら、お互いにお金を出し合ってでも行っていった方が、ベテランさんも沢山の人を教えられるだろうと思います。若手の中には、技術がお金になれば、もっと切磋琢磨しようと思う人も出て来ると思います。農協さんであれ、民間で肥料を売っている人であれ同じだと思います。全部がフリーになりすぎてしまったがゆえに弊害が来ていると感じています。病害虫の情報は流行する情報なのでみんなの物、美味しく作る技術は農家さんや栽培指導者さんの物、半分オープン、半分自分たちの物という線引きが必要だと思います。
指出 何でもオープンソースで共有するのではなく、それぞれの方が培ってきたものについてはプライオリティがあって、伸びるための補助輪はカルテであり、個々人がビジネスの中で特徴を出すものは自分たちの物、ということは農業で求められていると思います。
櫻井 カルテの中でも、みんなで情報共有出来る事になっていますが、病害は全員で共有、個別の技能はクローズドで情報をやり取りできる様に考えています。
渡部 やってみて気付いた点として、自治体が新しい事にチャレンジする事ができる地域だというのがありがたいです。栃木県壬生町はいい地域です。長野県が地元ですが、自治体に提案したけど、前例がないため出来ないとの回答がありました。なかなか新しい物に抵抗がある地域だと難しいです。山主さんは、自分たちの山をどうにかしたい、山を使って欲しいという悩みを抱えています。それと地域との兼ね合いが重要です。自分たちは、地域を元気に、山をよくしたいという事を地域にはしっかりと伝えて活動をしていきたいと思っています。
指出 この先もサバイバルゲームだけではなくて、森林の新たな活用を地域にアプローチしているのでしょうか?
渡部 今は山を使ってくださいという事で、まずはアプローチを行っています。地域によっては、前向きにアプローチを行っています。
櫻井 今は色々な情報がネットで得られるので、パーツパーツで断片的に得られるため、結果、何をしていいかが分からなくなるのが多いですね。フォレストーリーさんの、山があっても地域と繋げるのが大切なのと同じで、栽培もストーリーを立てて、種まきから収穫まで、どう作ったらいいのかのガイドラインが必要ですし、それを体験するのが大切です。
渡部 加藤さんをテレビで拝見したことがあります。素晴らしいと思いました。
難しい環境で、難しい地域で、純粋に活動されていて、そういうところに周りが一緒になって作っていこうとしています。我々もサバイバルゲームをやったことがなかったので、どうやったらいいか分からなかったのですが、こんな山がありますよ、皆さんと一緒に作りませんか?と働きかけたら、サバイバルゲームの参加者、市町村、山主、地域も、そういったやり方をしたら周りが入ってきてくれました。
櫻井 日本人は農業に向いています。つまりオタクが多い。極めだすとマメに手入れしようとします。日本人ならではのマメさ。それに加えて、生で食べてもおいしい物がたくさんある。白米などは水で炊いただけでも美味しい品種があります。日本は特定の技術には特化していますが、基本の技術、例えば病害を抑える、苗を健康に育てるというのが整えば、職人技を残しながらも、いい意味で産業化できるのではないかと思っています。
渡部 林業をやっているので、山の方向からビジネスをアプローチしています。
今は地域、ユーザー、みんながハッピーになれるようにしています。サバイバルゲームでは赤外線の光線銃を使う事で子供や親子も楽しめる事もやっています。サバイバルゲームをしない人も山に来て、山や自然を五感で感じる事ができるような企画も考えています。初めの活動からどんどん多面化しています。それが可能性だと思っています。田舎の方々は、最初は入りにくくて閉塞的な部分はありますが、入ったらすごくいい方が多いので、楽しみながら協力をして頂いています。まずは、自分が入り込んで、扉を開いて、他の方たちも入って行けるようになればいいと思っています。
指出 僕は「関わりしろ」という言葉をよく使います。その地域に「関わりしろ」があることでビジネスが生まれる。その場所で何かやってみたいなと思わせる人や仲間がいる事で地域に仕事が生まれる。それが「関わりしろ」のある地域です。農山漁村は、その「関わりしろ」という事では、櫻井さん、渡部さん、加藤さんのビジネスは、正にそこに「関わりしろ」があるからこそ、生まれてきていると感じます。
櫻井 最初のきっかけは、何を作りたいとかでもいいと思いますが、どうしたら売れるとか、どういうキーワードが今のトレンドか、という事に振り回されない方がいいと思います。よくある例ですが、いきなり無農薬で育てたいと固執する方が多いですが、そうではなくて、一通りストーリーとして生産技術を学んでからでも無農薬にシフトは出来ます。一貫して広い目線で捉えて、どういう物が求められるのか、どういったニーズがあるのか、どうやったら手の届く範囲でうまく作れるのか、総合的に1つずつの技術と情報を繋いでいくのが大事なのではないかと思います。
渡部 道徳なき経済は犯罪であり、経済なき道徳は寝言である。メンバーとビジネスについて色々と話し合いましたが、それを実現させるのは困難な事であって、自分たちの理想だけ描いていてもうまく続ける事が出来ない、続けていく事が出来ないと、関わった周りの人も幸せにはなれないと思います。ちゃんと事業としてやっていける物を見つけるのが大事です。その中でサバイバルゲームを選んだ理由としては、人数、頻度、単価でした。全てを考えた結果、サバイバルゲームは事業として行けると思いました。絵に描いた餅ではダメで、ちゃんとした裏付けが必要だと思います。アンケート、ヒアリングなどを続けて深掘りをした結果、スタートできました。あと、僕たちは今でもワクワクしながらやっています。そのスタンスが追い風になっています。
でもただ、お店が出来るだけではなく、農村とそうじゃない地域との架け橋が大事で、5年、10年で見出したいと思っています。30年後は、きっと孫もいると思っていますので、孫の世代も平和に暮らせるようなしくみづくりが出来ればと思っています。
櫻井 今は本当に潮目にきています。というのは、農業は70、80代の人から、30代の孫の世代にいきなり技術継承をしようという感じになっています。そうなると、今までのやり方に固執しすぎて、今までこうやってうまくいったからというままでは、他の国の農産物に負けてしまうと感じています。二世代前の技術でうまくいっている話を30代の人たちにしても、中には変えていかないとならない技術、やり方もあります。ですので、うまく育てばいいじゃない!というくらいに、柔軟に変化していける環境になったら良いなと思っています。そうなれば、日本の農産物も値段がそんなに高くなく、手ごろにたくさんの量を外国に輸出できるのではと思います。職人のいい技を残しつつ、産業化して行く未来にしたいと思っています。
渡部 林業の人たちは、外から来る人を拒んだりするところがありますが、仲間内ではよく話します。その話の中で、補助金や国の政策がないと成り立たない現状があって、政策が悪いという話になりがちです。経験があってベテランの知見がある方もそういった事をおっしゃいます。それも勿論、理解はできますが、僕はもっと楽しく、ゆるく関わって行けたらと思います。そういった閉塞的な林業の世界を広げて行けたらと思います。その1つがサバイバルゲームです。これを全国に展開していきたいという気持ちはありますが、全国の山をすべて僕たちが良くしていく事は、到底、不可能なことです。横の広がりで、こういった森林を使っていく事で、森林や林業に関わりのない人たちの関心を引いて、人を引っ張って来ることで、輪を広げて日本の山を良くしていくような事に繋がればよいと思っています。
指出 3名とも仲間を増やせるものすごい天性の才能がある方々だと思います。
農山漁村に面白い事が実はいっぱいあるという事を伝えるチャンネルが増えれば、みんながそこに現れて、その中で自分がやってみたい事が出て来る事もあります。是非、櫻井さん、渡部さん、加藤さんに、ここで出会った皆さんは、そこから農山漁村への興味を更に広げて貰えたらと思います。