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場づくり・コミュニティ

『公民館的』会議。第1回は「ドーナツと公民館」、文喫六本木でスタート

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地域に開かれた場である「公民館」。子供時代に学童クラブを利用していた、フリーマーケットに訪れたことがある、興味のある講座が催されていたなど、毎日足を運ぶ場所ではないにしても、一度は行ったことがあるという方は多いのではないでしょうか。

そんな公民館のあり方は、公民館と名のついた施設以外のさまざまな「場づくり」にも生きています。たとえば、公園やカフェ、コインランドリー、シェアオフィスなど。遊ぶ、くつろぐ、食べる、飲む、洗濯をする、仕事をする。共通する目的はあるものの、ばらばらにそこを訪れ、“場”に居合わせた他人同士が、それぞれの過ごし方でしばし時間を共にするというのは、実は非常に「公民館“的”」です。そして場が「公民館“的”」であることは、実はたくさんの可能性を秘めています。

そんな「公民館“的”」であることの可能性を、さまざまな“場”に当てはめて考え、場の可能性を探っていく。これをコンセプトとした連続トークセッション「『公民館的』会議」を、“本と出会うための本屋”文喫六本木がスタートしました。

シリーズ通しての講師に「公民館のしあさってプロジェクト」の西山佳孝さんを迎え、9月16日に開催された第1回「ドーナツと公民館」は、建築ユニット・ツバメアーキテクツが下北沢ボーナストラック内の新オフィス1階にオープンしたドーナツショップ「洞洞(ホラホラ)」を題材に、洞洞がどのような発想から生まれ、今後どのような場になっていくことでそれを実現させていくかを参加者と一緒に考える内容。

「ドーナツ」と「公民館」という、突飛にも思える組み合わせはなぜ誕生したのか? ツバメアーキテクツ代表取締役で建築家の山道拓人さんと、「洞洞」店長の佐藤七海さんが、その理由について語りました。

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目次

「公民館的なドーナツ屋」とは?

実は「洞洞」は、ドーナツショップでありながら、ドーナツを売って儲けることを目的に生まれたのではありません。また「ドーナツを売るとしたらどこがいいだろう?」と考えた結果、この場所に店舗を構えたわけでもありません。さらに店長の佐藤さんの前職は、企業のインハウスデザイナーです。
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「洞洞」ができた目的は、ずばり「ドーナツをきっかけに人が集まってくること」にあります。

キーワードは「コンヴィヴィアリティ(自立共生)」と「自治」。コントロールされるのでなく人々が自発的に行動し(コンヴィヴィアリティ)、場にいる人たちで居心地のよさを作り上げていく(自治)状態を指します。

山道さんいわく「下北沢は、いろんな活動に溢れていて、古着屋さんにしろ、劇場にしろ、人々が思い思いに“改造”を重ねてきたまさにコンヴィヴィアルな雰囲気を持っている街」。しかし近年、人気の高まりによって家賃が上がり、チェーン店の割合が増えてきていました。山道さんは下北沢ボーナストラックの設計にも携わっており、構想・設計にあたっては、集客力の強いテナントを誘致する手法ではなく、いかに地域とつながり、個人のチャレンジを支える仕組みをつくれるかを軸にしたのだそうです。その結果ボーナストラックは、昔ながらの商店街のように住宅の1階で商いをする建物が並んだ“職住近接”の施設となり、地域の園芸部が周辺の植栽を請け負うなど、もともとそこにあったものと新しいものが混じり合う場所となりました。

「そこにツバメアーキテクツの事務所を移転して、その1階で何をしようかと考えた時に、 テナント貸出も考えましたが、それよりも、場の役割はふわふわさせておいて、そこに集まった個人の潜在的な活動をエンパワメントするような場にしたいと思いました」(山道さん)

ドーナツ屋という「表の顔」の効果

では、その答えが「ドーナツショップ」だったのはなぜなのでしょうか。
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「ここって、下北沢駅前のにぎやかなエリアと、住宅街とのちょうど境目なんですよね。なので洞洞は、まず、ここに住んでいる人たちに“2つ目の玄関”のように感じてもらえるような場所にしたいと考えていました。そのうえで、外から遊びにきた人たちといい感じに混ざり合うような場所にしたいなと。『人々が同じ洞に集う』というイメージが初めのうちからずっと頭にあって、「洞洞」という名前もそこからきています」(佐藤さん)

「ドーナツを選んだのは、ここが住宅街や公園の近くなので、小さい子供から年配の方までなじみがあって、食べ歩きやピクニックに向いている食べ物がいいなと思ったからです。洞穴のように穴も開いているし(笑)」(佐藤さん)

「洞洞では店内の一角でアート展をしたり、厨房側でドーナツを販売しながら奥でイベントやワークショップを開いたり、ドーナツだけでなくお花を売ったりもしています。たまたまドーナツを買いに来た人たちから『何か企画をやっているんですか?』『ここではこういうこともできるんだ』『じゃあこれもできますか?』と会話が生まれて、思い思いの活動が発生するような場所になったらと思っています」(佐藤さん)

「公民館のしあさって」プロジェクトの西山さんは、この発想がまさに“公民館的”だとコメントしました。

「通常なら、飲食店がその地域の特性をどのように活かすかを考える場合、地元の食材を使うなどのアプローチをとることが多い。でもお二人は、下北沢のニーズやリソースをどう活かすのが面白いだろうというアプローチをとっていますよね。そして、場づくりを目的にしつつ、ドーナツ屋という“表の顔”をもつことで、人が訪れるハードルを下げている。『何でもできます』とただ箱を用意しただけでは、かえって来づらい場合も多いです。このアプローチはけっこう大事ですよ」(西山さん)

「公民館って、使用用途やルールがかっちり決まっているようなイメージがあるかもしれませんが、社会教育法を紐解いて見ると、本来はかなり柔軟に考えられているんです。常に地域に開かれている場所で、目的なく訪れていい。なんとなく集まった人たちの間で『何かやってみる?』『この人とこういうことをしたら面白そう』と動きが生まれた時、興味があったら輪に入ればいいし、傍から見ているだけでもいい。だから、山道さんや佐藤さんが話してくれた自治的な運営というのは『公民館的なあり方』ど真ん中なんですよ」(西山さん)

ドーナツを食べに来た人、創作を発信したい人、イベントに参加する人、たまたま通りがかりに気になって足を踏み入れた人。さまざまな人が洞に集い、誰かの動きに触発されてまた新しい動きが生まれ、人と人がつながり、にぎわいが広がっていく。何もない空っぽの箱ではなく、ドーナツという装置をぽんと置くことで、その動きがぐっと生まれやすくなる。ドーナツ屋ではあるけれども、真の姿は、誰にでも開かれた自由に使える場所である。

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「『公民館的』会議」ではこのように、実際にある“場”を題材にコミュニティのあり方を考えるトークセッションを全4回にて開催中。第3回(2022/10/13)は「東京ミッドタウン・デザインハブ」と隣接のセミナールーム「リエゾンセンター・ライブラリー」を題材に、公民館のあり方と「デザイン」について考えます(オンライン配信あり)。
イベント詳細URL:kouminkanteki-kaigi.peatix.com
【講師/運営紹介】
西山 佳孝/Yoshitaka Nishiyama
㈱タウンキッチン・取締役(東京)、株式会社Encounter Japan(Mexico)ほか。大学在学中よりNPO法人を設立。地方創生を軸として、デザインを用いた教育プログラムづくりなど、多くの事業を立ち上げる。大学自主退学後、株式会社設立や取締役を経て、霞ヶ関へ。その後、九州を中心とする公益財団法人ネイチャリング財団において、事務局長として社会起業家等の起業家人材の育成に携わり、現在に至る。経済産業省 派遣専門家、独立行政法人国立高等専門学校機構デザインコンペティション 審査委員長、鹿児島県庁 観光アドバイザー、東村山市空家対策協議会 委員など、多数役職を兼務。直近では、日墨ソーシャルアントレプレナー交流事業(国際交流基金)においてメキシコに滞在するなど、海外プロジェクトにも積極的に参画。

染谷 拓郎/Takuro Someya
1987年生まれ。㈱ひらく代表取締役社長/プランニングディレクター。生活者起点で場を作り豊かな時間を提供することを軸に、事業開発・サービス設計・企画プロデュースを行う。ブックホテル「箱根本箱」プロジェクトマネジメント、旅館内書店「Books&Tea 三服」プロデュース、図書館イベントパッケージ「Library Book Circus」企画・運営などを手がける。

有地 和毅/Kazuki Aruchi
1987年、広島県生まれ。日本出版販売㈱ 「文喫 六本木」ブックディレクター。ブックディレクターとして本のある場づくりを行う。2018年より、本と出会うための本屋「文喫 六本木」の立ち上げに携わり、コンセプトデザイン、選書、アートと本の領域を横断する企画展ディレクション、イベントを手掛けている。2020年からは、企業の文化的課題解決をアシストする企業ライブラリーのプロデュースを開始。選書、本を起点としたコミュニケーションの創出、ワークショップ運営に取り組んでいる。

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