わからないことを知る。
養老孟司の新著『ものがわかるということ』は、80代になって人生を振り返り、たくさんのことをわかろうとしてきたけれど、結局わからないことばかりだったと振り返る著者が、疑問をもち自分なりに考えることの大切さと、わからないことを味わう方法について教えてくれる一冊だ。読んだからといってすぐになにがわかるわけでもないが、心の中いっぱいに雑木林の深い緑の香りを感じて、なんだか救われたような気持ちになった。
数学や科学と違い、心には答えや法則がない。人は多くのわからないことを抱えて生きなければならない。養老はそれら多くの困難に、正面からぶつかるのではなく、折り合いをつけることが大切だとも言うが、わかるわからないの二択で判断する常の現代人にとって、答えの出ない問いと向き合うのは難しいことだ。
民藝では、平という字を大切にする。平凡、平穏、平和、そして自らが平になることで、世の中は少し丸くなる。理解したり、変えることは難しいが、それぞれの平を大切にし、不甲斐ない自分と折り合いをつけられたら、少しだけ誰かに優しくなれる。自分を思い労ることと、誰かを思い労ることはつながっている。
『ものがわかるということ』
あさくら・けいいち●1984年生まれ、岐阜県高山市出身。民藝の器と私設図書館『やわい屋』店主。移築した古民家で器を売りながら本を読んで暮らしている。「Podcast」にて「ちぐはぐ学入門」を配信。