体験して描く野菜作り読本。
1954年に発行され、今でも愛されている絵本『はなのすきなうし』(著・マンロー・リーフ、絵・ロバート・ローソン、岩波書店刊)は、花を愛し、一人で静かに暮らしていた牛のフェルジナンドが、ある出来事から猛牛と勘違いされ、闘牛場へ連れて行かれてしまうことから始まる騒動を描いている。
闘牛の是非は当時から問題にされていたこともあり、この絵本から闘牛に対する疑問を単純に感じる人がいるかもしれない。
絵本はスペインを舞台にし、背景に名所や名跡などが登場する。牧場の木陰で休んでいるフェルジナンドのそばの木をよく見ると、実としてコルク栓が生っているのに気がつく。コルクはスペインで多く生産されているが、そのコルクは実に生って収穫されるものではない。
今回紹介するリトルプレスは『野菜作り図解』。自宅の庭や市民農園、体験農園などで野菜作りをする人のために、初心者でもわかりやすくイラストで説明している。
発行人の漫画家・イラストレーターの荻野千佳さんが自宅で野菜作りを始めた頃、家庭菜園の本を読んで育て方を知ったり、野菜の病気などをインターネットで検索したりして、正しい育て方にたどり着こうと試行錯誤していた。
そのなかで、必要な知識が掲載されていないと感じる本や、インターネットのコピペばかりの画一的な情報が、あまり役に立たなかった経験から、菜園ライフを送るうえで必要な知識を、実際の畑の様子を撮影したり、農家さんに自ら取材して、誰にでもわかりやすいイラストにまとめて出来上がった一冊が、『野菜作り図解』。
紹介されている野菜は、トマト、キュウリ、ナス、ダイコン、ブロッコリー、チンゲンサイなど。植える時季、肥料の割合、枝のカットの仕方、害虫駆除の方法など、細かくていねいに描かれている。
知りたいことを知ろうとするとき、インターネットの検索ですませてしまうことも多い昨今。検索で表示された答えを鵜呑みにしてしまうことも多い。
『はなのすきなうし』で、闘牛のことも含め、コルク栓の実が登場するのは、ちょっとした違和感をそのままにせず、調べること以上に、感じて考えることの必要性を伝えようとしているのだと思う。
僕らの日常で毎日出合っている野菜も、その味や形ぐらいしか目にしていない。
身近な野菜のちょっとしたことから、植物の生態や、必要な時間、かけられた工夫と手間、生命と自然について知り、感じて考えることも必要だと思う。
今月のおすすめリトルプレス
『野菜作り図解』
イラストでわかりやすく描いた野菜作りのリトルプレス。
発行人:荻野千佳
2019年3月発行、300×210ミリ(14ページ)、1296円
『野菜作り図解』発行人から一言
野菜作りを始めた頃、わからないことがあると難解な本を読んだり、答えにたどり着きにくいネット検索をしていたため、ずいぶん時間がかかっていました。そんな時間がないように、わかりやすく! をモットーに野菜の作り方を図解しています。水や泥に強いコート紙製なので畑作業のお供にいかがですか。