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脱炭素に向けて、これから企業や一人ひとりに求められるものとは〜数々の企業をサポートしてきた凄腕省エネコンサルタントが語る〜

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「省エネを進めているが成果が見えてこない」こう悩む企業は多いですが、省エネは一丁一夜では成果が出にくい取り組みです。脱炭素に向けて、企業は課題に対してどのようにアプローチし、解決していくべきなのか。今回は、省エネコンサルタントとして数々の企業を支援してきた日本カーボンマネジメント株式会社代表取締役社長の佐々木譲さんにソトコトNEWSの北野が脱炭素の現状と未来について話を聞きました。

目次

省エネ業界の歴史とゼロ・カーボンによって企業はどう変わるか?

北野:本日はお時間頂きありがとうございます。まずは省エネ業界の歴史について教えてください。

佐々木:私の仕事と絡めてお話させていただきます。私がこの省エネの仕事に出会ったのは1993年11月で、省エネ製品を販売する会社に入社したのがきっかけでした。働くうちに、省エネという仕事の魅力の虜になっていきましたね。魅力というのは、「お客様に良し、売る側に良し、環境に良し」の“三方良し”の精神が浸透していたことです。
 
 1997年に京都議定書が採択されたのを機に省エネ改修にかかる経費を改修後の光熱水費の削減分で賄うESCO事業に取り組む企業が増え、温暖化対策を推進していくために、省エネ関係にも支援策をということで補助金制度が開始しました。また、2000年に大規模事業所の電力自由化がスタートし、これからエネルギー業界に波が来るなと思いました。ところがアメリカが京都議定書から離脱したことで、世界全体の温暖化対策の動きは停滞しました。しかし、EUでは2005年に排出量取引制度ができ、2008年から日本でもCO2排出削減量を認証して売買する国内クレジットという制度ができました。それまでのエネルギー業界では、「エネルギーマネジメント」という言葉が多く使われていましたが、この頃からCO2排出量を把握して削減することを目的とした「カーボンマネジメント」という言葉が使われるようになりました。

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北野:日本カーボンマネジメント株式会社を設立されたのは2010年ですが、どのような想いがあったのでしょうか。

佐々木:業界内では、カーボンマネジメントという言葉が広く使われていましたが、それを社名にした会社がなかったので、日本のCO2排出量を削減することに貢献できたらいいなという思いで日本ンカーボンマネジメントという社名で創業しました。振り返ると、世の中に価値のある物を提供する仕事を続けたいという思いが強くありましたね。この仕事を通じて、多くの会社にお世話になってきましたが、どうしても既存のメーカーや施工会社など、企業の中核となる強みがある会社では、例えば省エネ診断をしてどれくらい削減できるか計算をし、実行した後に効果を検証したり、エネルギー管理業務だったりと幅広い業務に携わる必要が出てきます。強みが違う企業で活躍してきた専門家を組織にするのは非常に難しかったんです。そこで私は日本カーボンマネジメントを、そのような省エネの実務をサポートするコンサルタント業務に徹した組織にしていきたいと思い、会社を創りました。

北野:長らく省エネ業界に携わる中での強い想いが会社設立という形に結びついたのですね。2050年にゼロ・カーボンを政府が打ち出しましたが、これによって各企業にどんな変化がありましたか?

佐々木:ヨーロッパでは、企業に対して機関投資家と連名で気候変動対策などに関する取り組みを評価するカーボン・ディスクロジャー・プロジェクト(CDP)が2000年に活動を開始しました。また、国連では、2006年に企業の社会的責任を評価するESG投資が提唱され、2015年にSDGsが採択されました。また、企業の排出量削減を推進するイニシアティブとして、2014年にRE100、2015年にSBTが設立され、2015年にパリ協定が採択されました。まだ3年くらい前までは、省エネといっても我々への相談は設備更新に対して補助金を使いたいといったものが大半でしたが、最近では脱炭素化に向けたコンサルティングの相談が増えてきています。

北野:実際に企業が自分ごととして動き出したのはここ1、2年なのですね。

佐々木:ただ、この数年の脱炭素化に向けた社会の動きは目覚ましく、社会全体の脱炭素化への取り組みが、自社にどのような影響が及ぼすかご存知ない方々も多数いらっしゃいます。いま、国は脱炭素化に向けた技術革新と同時に、カーボンプライシングの導入を検討しています。具体的には、CO2排出量に税金を課す炭素税や、企業に削減義務を課して排出量を取引する制度などです。目標設定型排出量取引制度については、既に東京と埼玉県が取り組んでいますが、2020年度から2024年度が第三計画期間で、東京都の大規模ビルでは、最大27%の削減が義務づけられています。削減目標を達成できなかった場合、排出権を購入しなければならないため、当社にも対策に関する相談がきています。ヨーロッパの排出権取引市場は、今年に入って最高値を更新していますが、東京都と埼玉県の排出権価格も、今後高くなってくるかもしれません。日本のカーボンプライシングの方向性は、年内に決めることになっていて、段階的に炭素税を上げていくのか、排出量取引を導入していくのかということが議論されています。これから数年の間に、国内でカーボンプライシングが導入されれば、間違いなく企業のコスト負担が増えてきます。

脱炭素に向けて、企業に求められることとは

北野:脱酸素に向けて企業に求められるのはどういう取り組みでしょうか。また取り組む際の課題も教えてください。

佐々木:これから再エネを増やしていく動きは加速していくと思いますが、使う量を減らさずに供給力を維持しようとすると、その分多くの投資が必要になるため、私はまず企業が取り組むべき対策は、徹底した省エネだと思います。省エネは、いま使われているエネルギーを減らすことなので、そのためにはエネルギー使用状況を分析することが大切です。

 当社では、企業の省エネ診断を年間100件以上、多い年だと300件近く取り組んでいます。私自身も年間光熱費を3億円支払っている有名な大規模ビルを診断したこともありますが、そんな規模の大型のビルだったらすでに省エネができていると思いますよね?たしかに、最新の高効率設備と高機能なエネルギー管理システムが導入されていますが、設備管理業務を外部に委託しているため、設備の運転管理、点検、保守業務のみで、計測データを分析して省エネ運用に活かすことができていません。エネルギー管理システムの計測データは宝の山で、このデータを分析することで、効果的な省エネ対策を発見することができます。当社の省エネ診断では、お金をかけずに削減する運用改善に加えて、省エネ性能が高い設備に更新した際の削減効果と、実行した場合の利益を算出して提示しています。

 まずは徹底した省エネ、要するに“使う量”を減らすことを目標に真面目に一つずつ取り組んでいくことが課題だと考えます。というのが、例えば今はまだ再エネ由来の電気料金は、10%位の値上がり幅ですが、たくさんの企業が脱炭素化を表明して需要が増えれば、価格が高くなってくるかもしれません。また、将来、仮に1t当たり10,000円の炭素税が課せられた場合、光熱費が30%くらい高くなります。年間3億円の光熱費をお支払いしているビルでは、9,000万円のコスト増になります。

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北野:これから脱炭素に取り組む企業も多いと思うが、まずやるべきことは“省エネ”なのですね。

佐々木:例えば、既に脱炭素化を表明している大企業では、本社のCSR部門で、再エネ由来電力や、メガソーラー、バイオマス発電など、供給サイドの対策を検討しているニュースを多く見かけます。しかし、先程のお話のとおり、使う量を減らさなければ、その分多くの投資が発生してしまいます。私がお勧めする対策は、まず自社の工場のそれぞれの設備がどれくらいエネルギーを消費していて、設備更新や徹底した運用管理でどれだけの省エネができて、どれくらいの投資が必要か把握して、計画的に対策を実行することです。いま、メーカーの技術革新は目覚ましく、この10年間で多くの施設にLED照明が普及しましたが、既設の照明をLEDに更新すると60%から90%を削減することができます。また、20年間空調を更新していない施設が、最新式に更新した場合、40%から50%のエネルギー消費量を削減することができます。長期間使用している設備は、いずれ更新しなければなりませんが、壊れるまで使うのではなく、使う量を減らすことを目的として、計画的に省エネ性能が高い製品に更新していけば、その分、供給サイドの投資を減らすことができます。また、いまは国が脱炭素化を推進していくために、補助金や減税などの支援策があります。支援策を活用して省エネ対策を実施することで、投資効率を最大化することができます。

北野:ありがとうございます。企業はどうしても自社の本業で利益をあげることに注力しつつ、脱炭素に取り組まないといけないということですが、自社のみで脱酸素に取り組むのには限界があると感じました。そういった理由で御社の存在価値があるわけですね。

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