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サスティナビリティ

砂糖しめ小屋 地域の風景と調和を成す、産業のための建築。

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 地域を支える産業は、ときに風景の調和を生み出す源になる。古くから続く漁村や棚田の美しい風景を見るたびにそう思うが、産業は社会の変化で瞬く間に姿を変えていくものでもあり、巨大な近代産業は今や地域の風景を壊す側の存在である。今回紹介する香川県高松市にある「砂糖しめ小屋」は、かつて讃岐地方の風景の調和を成していた産業のための建築だ。讃岐では江戸時代に薩摩藩から砂糖づくりの技が伝えられ、サトウキビが植えられるようになった。大阪という「食の一大消費地」を背景に、サトウキビの栽培と和三盆糖の生成が大いに盛んになった。当時は、讃岐平野のいたるところにこうした「砂糖しめ小屋」が建っていたらしい。屋根が円錐形のとんがり帽子のように茅で葺かれたのは、サトウキビを搾るための工夫からだ。円形の中央に白臼が据わっていて、臼の軸から、長い腕木が延びている。牛2頭がその腕木を曳いて廻ることにより、サトウキビが締められる。牛の苦労がばれるわけだが、牛が動きやすいようにと内部は無柱の空間になっている。ていねいに葺かれた茅の屋根や土壁、木の架構のどれをとっても素晴らしく、産業の建築でありながら一級の建築でもあるということに驚く。

「砂糖しめ小屋」は、四国村という、建築ミュージアムに移築保存されている。高松出身の画家・猪熊弦一郎は、オープンに際して「生きている四国村」という珠玉の文章をよせているが、特にこの「砂糖しめ小屋」について強い思いがあったようだ。この小屋は猪熊にとって生まれ故郷の原風景を成す重要な建築であったというだけでなく、あらゆる部分がすべて手づくりでできているこの小屋のような建築をずっと見ていると、人間の本源について思いを巡らせてしまうと語っている。建築とは時間をかけてゆっくり経験するものであり、だからこそ、ひとつひとつの部分が考え抜かれて、本物でつくられていなければならない。簡素かつ美しい「砂糖しめ小屋」を観ていると、そんな想いが強く湧いてくる。

「砂糖しめ小屋」

住所:香川県高松市屋島中町91 四国村内
施工年: およそ1865〜67年ごろ(四国村の開設は1976年)

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