人体の30〜40パーセントの重さを占める筋肉は、健康な身体を維持するのに欠かせない器官。「ヘルスプロモーション」という学術領域で「骨格筋」を研究する眞鍋康子さんは、目的や結果を求めすぎない、好奇心に基づく継続的な運動習慣にウェルビーイングな健康管理のきっかけを感じると言います。
私もその考えに共感していて、長くランニングを続けていると、目的云々ではなく、不思議と走らずにはいられなくなります。週に3、4回は走りたいので、出張が重なっても「出先で走ろう」と旅行鞄にシューズを入れ、早起きをしてホテル周辺を走ります。走ることで生活にリズムが生まれ、肉体の疲労は深い眠りにつながり、結果として心身の健康を得るという自然なサイクルは心地のよいものです。
人によっては走ることで自ずと食べ物に気をつけるようになったり、走りながら聴く音楽を選ぶなかで流行を知ったり、思いがけない自己変容が起きることもあるでしょう。
運動だけに限った話ではありませんが、目に見える結果に固執して苦しさを感じるより、赴くままに淡々と続けて、ふといい状態に達していたと気がつく。健康管理もこれくらい自然体で臨むほうが、楽しめるように思います。
『素数の音楽』は、素数の謎に取り憑かれた数学者たちのドキュメンタリーです。数学は応用に展開しづらい研究だと思います。ある定理が解かれたからといって、すぐに何かに応用され結果を出すものでもありません。数学者自身も何かに応用しようとはおそらく考えていないでしょう。ただ、数学が好き、素数が好きという好奇心で研究を続けているはずです。「フィボナッチ数列」はウサギの繁殖パターンを説明しているとか、13年、17年という素数の周期で発生する「素数ゼミ」がいるなど、数学は生物の現象にもつながっているという話も述べられています。
数学に限らず、科学者の「好き」という情熱によって受け継がれてきた研究が、いつかとんでもない節理に結びつくことがあるかもしれません。シンプルな継続こそが大切。健康管理に加え、研究者の姿勢にも通底するところがあると思います。
記事は雑誌ソトコト2022年7月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。