自ら赤道直下の国々のカカオ農園を訪ね、カカオ豆を選ぶことから始めるチョコレートづくりをしている人がいます。世界的なチョコレートの品評会で入賞し続ける『Minimal』代表の山下貴嗣さんです。今回選ばれた5冊は、チョコレートの現在を「未来につないでいく」ための本でした。
3人の熱中が多くの人の熱狂になって、実際にコーヒーという巨大産業が生まれた現象に「コーヒーと同じ世界を、チョコレートでもつくれるかもしれない」と、僕はチョコレートに熱中し始めました。例えば、生産者にいいコーヒー豆をつくり続けてもらうために、適切なお金を支払いたいけれど、間に入る業者に手数料という名目で大幅に搾取されていく。この構造との闘いは、まさに同じ。フェアトレードで高額なお金を産地側に支払うものの、生産者団体や発酵・乾燥工程を担う中間業者分が差し引かれて、生産者にいくら支払われているかはわからないでも、僕たちが生産者への支払いに意見できるくらいの存在になれたら、公正な取引はきっと実現できる。チョコレートを仕事にするうえで、起き得る問題や乗り越えた先の未来がリアルに描かれている一冊です。「僕の熱中が、日本発のチョコレートをコーヒーのような産業に育てる一歩目になる」と、読む度に大きな夢を思い出させてくれます。
そして当然ですが、大きな夢を実現させるためには、日々の仕事の積み重ねが大事。『お菓子を仕事にできる幸福』は、「自分の仕事が誰かを幸せにしている」と気づかせてくれます。『Minimal』の板チョコレートは、カカオと砂糖だけでつくっていて、素材の味わいと香りを楽しんでいただくことを基本にしています。これまでのチョコレートは大量生産が主目的でカカオ豆はさほど重視されなかったけれど、『Minimal』では、カカオ豆の状態に応じてつくり方を変えています。だからこそ、本の中に出てくる「ラクしてはいけません」「自分をドキドキさせて、お客さまをワクワクさせて。ライバルをヒヤヒヤさせてしまおう」という言葉にドキッとさせられて、「できているのか」と自分に問いかけます。
『Minimal』を始めて8年目、まだまだです。ですが、嘘をつかず、誠実にチョコレートづくりを続けていければ、関わるすべての人に笑顔がめぐる、チョコレートの新しい未来を拓けると信じています 。
記事は雑誌ソトコト2022年7月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。