持続可能、そして世界で活躍できる子どもを育てる教育を考える連載「インターナショナル教育とSDGs」、第7回目は「火星から見た地球環境」になります。
先日、コロナ発生以降、初めて外国へ行ってきました。海外滞在中、久しぶりに外から日本を見ると、日本のなかに当たり前にあり、当たり前に行なわれていること一つ一つのすばらしさを改めて感じました。それと同じようなことを、今年実施したサマースクールでも感じました。そのテーマは、「火星移住」で、人間が火星で生き延びていくために最低限の衣食住から、快適に過ごすために必要な法律や医療体制、通信網などの社会インフラについてまで、楽しく学びました。そのなかで、火星のことを学べば学ぶほど、地球の良さを感じることとなりました。
たとえば、食用の「肉」について。地球上では、比較的簡単に、お店で買ったり、地域によっては、狩猟で得たりできますが、火星ではそう簡単にはいきません。そもそも食用になる野生動物はいませんし、家畜を飼うにしても、その動物用の水や空気、エサとなる植物が必要となります。その植物も、地球上のように養分を含んだ土もありませんし、養分を作り出すための土壌中の微生物もいなさそうで、植物を得るのも一筋縄ではいきそうにありません。そもそも人間にとっても大切なそれらを、人間を差し置いて、家畜に提供することはないでしょう。そこで、今回のサマースクールでは、鶏の有精卵を使った人工培養肉や、コオロギを使った昆虫食クッキーを作りました。
次に、「大気」について。地球上では大気の層のおかげで、地上に届く有害な紫外線(UV)の量が限られていますが、大気の薄い火星上では非常に強い紫外線が降り注がれます。サマースクールでは、シェルターを作って、その外からUVライトを照らし、子供たちはUVチェッカーを使ってシェルターでどれだけUVを防げるかを調べていました。
また、宇宙から飛んでくる放射線についても、地球は、それ自身が磁石であるため、その「磁場」で、地表に届く放射線量を、ある程度抑えることができていますが、火星には磁場がないので、まともに放射線が降り注いでしまいます。サマースクール中、子供たちはガイガーカウンターという放射線を測定する装置を使って実験し、放射線の人体への影響についても学びました。
そして、「重力の大きさ」も人が火星に住む上で大きな問題になります。地球の重力の大きさに適応してきている生物にとって、地球より重力の小さい火星では、受精卵がうまく発達できず、子供ができないと考えられています。そこで、サマースクールでは、人工重力を作り出すプロジェクトを実施している企業の方にゲストとして来ていただき、ご講演頂きました。
このように、火星移住にあたり出てくる問題について一つ一つ考えていくなかで、いかに地球が、人間が生きていく上で恵まれている場であるかを感じました。地球の重力や磁場、大気や土壌といった非生物的な環境と、その環境のなかで生かされている動物、植物、微生物などの生物的な環境。テーマは火星についてでしたが、それらが、微妙なバランスを保ちながらお互いに絡み合って成り立っている地球生態系の素晴らしさを再認識させられたサマースクールとなりました。また、一歩引いて、ちょっと外から見てみると、普段はあまり意識せずに当たり前にあるものが、見えてくることを体験した良い機会にもなりました。
ローラスインターナショナルスクール・オブ・サイエンス
サイエンス顧問:村上正剛さん
オーストラリア、マレーシア(ボルネオ島)にて環境教育に従事。東北大学、北海道大学の他、カナダやオーストラリアの大学(院)にて、人と自然との関わりや科学技術コミュニケーション等について研究。現在も引き続き京都大学にて研究中。