特集 | ローカルヒーロー、ローカルヒロインU30
『ソウ・コミュニケーションズ』代表/通訳・翻訳・コーディネーター・桑原果林さんが選ぶ「自分を見つける本5冊」
アムステルダムで働き、子育てもする桑原果林さん。日本とオランダの社会や考え方に触れてきた桑原さんが選書を通して話をしてくれたのは、「生きることの権利と制度」や「女性として子どもを産むこと」などについて。海外で暮らし、働き、家族を持つ女性の視点で興味深い本を紹介します。
*30代の先輩からU30の皆さんへ。今回は先輩たちの選書を通して、U30の皆さんに、自分たちにもこれからやってくる30代をより豊かに、気持ちいい生き方をしてもらえたらと思い、11名の方に本を選んでいただいています。
今は一人子どもがいるのですが、漠然と「もう一人産みたいな」「じゃあ2人目を産むことってどういうことかな?」と考えていた時に手に取ったのが『夏物語』。主人公は子どもがいない状態で、人工授精という道を選び一人で子どもを産むんですね。子どもを産む、産まないや家庭のあり方は人それぞれで、シングルマザーだっていいし、子どもをつくる方法にももっと選択肢があっていい。日本はまだまだ規制で難しい部分もあるでしょうけど、男女が1人ずついて子どもがいる家族のあり方にこだわらなくていいんじゃないか? と考えさせられる内容です。息子が通う学校のクラスにもシングルマザーはいるし、それは別に隠すようなことでもありません。同性愛のカップルとか、お父さんとお母さんが2人ずついることもごく普通。私たちの従兄弟にも精子提供で2人の子を産んだシングルマザーがいます。もちろん子育てすることの責任やリスクも理解したうえで、それを選択するのは本人自身。自分がどう子育てしたいかということを、見つめ直す機会になる本です。
リヒテルズ直子さんの『祖国よ、安心と幸せの国となれ』は、教育や政治、雇用から福祉に至るまでオランダという社会を知ることができるうえに、オランダ人がいかに権利を大事にしているかが分かるような一冊です。印象に残っているのは「法律とは人を縛りつけるものではなく権利である」というオランダ人らしい考え方が紹介されているところ。オランダ人は国民の自由なり生活が妨げられるのだったら、その法律が悪いから法を変えましょうと考えます。オランダ人は権利を大事にし、本当に主張します。たとえば日本だったら、有給休暇の日数が残っていても取得できないことが多々あると思います。あるいは、ある法律が自分の妨げになっていたとしても、仕方がないと諦めてしまいがちな印象。オランダ人の場合、法律が守られないようなら断固反対し、これは私が休む権利を持っているのだからと主張する。つまり”姿勢“が全然違うんです。国民性も真逆と言っていいくらいに日本とオランダは違う社会。この本はオランダの制度について紹介しているので、制度で権利が保障されているのだな、こんな国もあるんだな、こんなやり方もあるのだなと知ることができます。海外に住むこともそうですが、日本で暮らしているだけでは気づかない固まった価値観を壊してくれる読書体験になるのではないでしょうか。
和の菓子
高橋睦郎著、高岡一弥著、与田弘志著、ピエ・ブックス刊
はじめてのスピノザ ─自由へのエチカ
國分功一郎著、講談社刊
どうもニッポン ─イラスト辛口日本案内
橋本 勝著、筑摩書房刊
photographs by Yuichi Maruya text by Takuro Komatsuzaki
記事は雑誌ソトコト2023年1月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。
「女性性」を題材にした女性として共感できる本。パートナーなしの妊娠や精子提供で産むなど、生を授かることへの新たな選択肢やネガティブな一面にも着目して「子どもを産むとは何か?」を感じてみてください。
祖国よ、安心と幸せの国となれ/リヒテルズ直子著、ほんの木刊
この本が採り上げているのはオランダの制度。養子休暇と妊娠出産休暇について、高校まで教育費がほぼかからない学校制度、男女の働きやすさを促すワークシェアリングについても紹介されています。