「みかん愛」と「田村愛」の強さで関係人口を増やす。
2020.08.02 UP

「みかん愛」と「田村愛」の強さで関係人口を増やす。

FOOD

まずは田村を知って。農業との関わり方に選択肢を。

田村に戻った樫原さんは、井上さんと共に大学生の受け入れに力を入れた。農業を手伝ってもらう代わりに、寝る場所と食事を提供するワーキングホリデーだ。拠点は、親戚の空き家を借り、井上さんが地元の友人とつくった「紀地わくわく」。農業体験に訪れた大学生が交流を持てる場として機能しているが、内輪感が出ないよう、誰かが住み込むことはしない。近隣住民も集まって交流が生まれるような、公民館的なコミュニティスペースを目指している。『東大みかん愛好会』のメンバーを筆頭に、口コミで田村を訪れた大学生は1年で延べ100人を超えた。

1度で終わらず2度、3度、目的が農業体験から田村に来ることに変わっていく学生もいる。井上さんは「彼らは来るたびに田村をもっと知りたいという。田村での気づきを僕じゃなくて、大学生の言葉で友達にボイスチェンジして伝えてもらいたいです。同じ言葉で言うより生々しくて説得力があるから」と話す。1000人の地区に多くの大学生がいる状況は、住民にとって馴染みがなく初めは不思議がられたという。しかし次第に、「今年はあの子ら畑手伝ってくれないのか」と樫原さんたちに尋ねるようになった。

2017年9月には、湯浅町で開催された「日本みかんサミット」の運営を支え、『東大みかん愛好会』と『静大みかんクラブ』の合同夏合宿の受け入れと、立て続けに大きな企画を行った。二人は田村を担う次世代も見据えていた。合宿で田村小学校の児童に向け大学生がみかんの授業を行う場を設けたのだ。「子どもたちにとって、みかんは当たり前の存在。みかん好きな大学生がそのよさを改めて伝えることで、子どもたちは田村に誇りを持てます」と樫原さん。

次の一手として、樫原さんは2つの団体を立ち上げた。『CHARLL'S(チャールズ)』は、Uターン当初から構想を練っていた団体だ。名前の由来は、和歌山の方言で「〜をやる」という意味の「〜ちゃーる」に「〜のもの」を意味する「's」。全国のゲストハウスの共有スペースにみかんを設置し、みかんを手に取ってもらう機会を創出する「みかんいちえ」など、一次産業を中心とした和歌山の「もの」を盛り上げるための企画・デザインを行い、樫原さんと和歌山県出身のデザイナー・クボリチサさんが中心となって運営している。

もう一つは、主にクリエイターやデジタルネイティブ世代をターゲットとしたサービスを提供する『CITRUSIST(シトラシスト)』。「3C(クリエイティブ・チャレンジ・ちょうどいい)」を掲げるこの団体は、柑橘業界に関わる人を増やすことを目的としている。クリエイティブな人材が不足している柑橘業界と、地方のプロジェクトに興味を持っているクリエイターとをつなぎ、人々の興味を柑橘業界に向けるための情報発信を行っていく。

「みかん農家を含むクリエイターへの憧れと敬意が強くて。彼らを照らす役割を担えたらと今は思っています」。農業への関わり方はグラデーションがあっていい。樫原さんの掲げる「ちょうどいい」は、彼自身の働き方も表しているようだ。

北風が冷たくなり、山を彩るみかんの鮮やかさが美しい今、田村みかんは最盛期を迎えている。「あー、今人生で一番楽しいかもしれない」とうれしそうに漏らした樫原さん。みかんの未来が明るいことを予感させる笑顔だった。

井上さんと
樫原さん(右)と幼なじみの井上信太郎さん(左)。

 

photographs by Hiroshi Takaoka
text by Hitomi Nakano

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