『大崎電気工業株式会社』は電気器具の製造・販売に始まり電力量計の開発、2008年には国内初となる通信技術を介して電気使用量を計測する「スマートメーター」を開発するなど、日本の電力計測・制御技術の分野をけん引してきた企業です。この『大崎電気工業株式会社』が近年注力しているのが社員へのSDGs研修です。今回『大崎電気工業』のSDGs研修を『ソトコト』がお手伝いすることになりました。そこで、あらためて企業のSDGs活動のキーとはいったい何なのか、同社の経営戦略本部副本部長を務める高橋勝さんと雑誌『ソトコト』編集長の指出一正による対談をお届けします。
大崎電気工業の環境保全、そしてサステナビリティへの取り組みの歴史
高橋勝さん(以下、高橋) 私たちは、1949年の電力量計の開発、そして2008年のスマートメーターの開発(共同開発プロジェクトに参画)に代表されるように、電力計測をはじめとするエネルギー・ソリューションを長く手がけてきました。そのため、かねてより「環境保全委員会」を立ち上げ、会社の課題としてCO2削減などへの取り組みを続けてきました。そして、「環境保全委員会」をより発展させた組織として、2022年4月に「サステナビリティ推進委員会」を立ち上げました。これは、SDGsへの取り組みと大崎電気工業の企業活動を、より深く紐づけることを目的にしたアプローチです。そのなかで今回、SDGsについての意識を、企業が旗振りをし、スローガンなどを掲げて進めるのではなく、日々の仕事や暮らしのなかで当たり前のこととして考えられる人材の育成を目指して、社員へのSDGs研修をはじめることにしました。
指出 ただ企業として取り組むだけでなく、そのなかで取り組む人材を育てようという視点は素晴らしいものだと感じます。これまでは、環境問題の実情と一般の方が持つ問題意識には、残念なことに齟齬があることも多かったと思います。たとえば公害問題について、市民の方が問題意識を持って「解決したい!」と考えたとしても、その方々だけでは公害問題の解決は叶いません。問題解決にあたっては企業であったり、あるいは行政などとの連携が必要ですよね。また、一言で「環境の保護を!」といっても、それが森林や海、砂漠などの自然環境のことを指すのか、人々の暮らしを取り巻く環境のことを指すのか、それが主張する人によって統一されていないこともありました。そんななかで、大崎電気工業さんが取り組む人材の育成により多くの方がSDGsについての幅広い視野を持つことで、そういったズレが減り、より大きな活動につながるのではないかと思います。
SDGs研修はすでに初級が終了、現時点での手ごたえや課題は
高橋 いまは、今回の研修へのフィードバックを集めている段階なので、これといって「やったぞ!」という手ごたえはまだない状態です。ですが、いただいたフィードバックのなかには、私たちや経営陣の頭のなかにはなかった意見などもあり、ひとまず実施した意義はあったかなと感じているところです。
指出 高橋さんの印象的に残っているフィードバックにはどういうものがありましたか。
高橋 そうですね。具体的にあげるとキリがないのですが、主に、自分でできる環境面への取組み、当社が保有する計測技術等を活かした事業提案、働き方・働きやすさといった人的投資に関するフィードバックがありました。特に、昨今の電気代の高騰などから、自然と環境やエネルギー問題への意識が高まっており、社員のなかにそういった問題への意識が根付いていることを感じました。また、電力計測、エネルギー・ソリューションの分野で事業を展開してきた当社だからこそ、そのノウハウを活かして、多くの社会課題を解決できることも同時に感じました。
指出 電気代の高騰など、暮らしに影響を及ぼす問題は、それはそれで解決に向かわなくてはなりませんが、結果としてそれらの問題への意識が高まっていることはポジティブな側面だと言えそうですね。僕たちが抱えているさまざまな問題は、それぞれが独立したものではなく、たがいに影響を及ぼす関係にあること、たとえば気候変動などの自然環境の問題が、私たちの生活環境に影響するんだと理解することが大切ですが、はからずもその実感を皆さん得られていると。
高橋 これはまさに、今後のSDGs研修を『ソトコト』さんと一緒にやりたいと考えた理由でもあるのですが、一番の問題は「いかにして知ってもらうか」ではないかと感じています。
たとえば、SDGsへの取り組みを「やる」と「やらない」の二元論で考えれば、「やる」ほうがいいのは間違いないでしょう。ですが、企業として取り組むとなれば、そこにはコストが発生します。コストがかかりすぎれば、地球や暮らしの持続性のために、企業の持続性を犠牲にすることにもなりかねません。それでは結局不幸な人を生み出すことになります。それを避けるためには、自分の活動にはどういう意味があって、そのためにどれくらいの労力がかかるのか、それを知ってもらい、取り組みの意義やメリットと、それに必要な時間や人的資源といったリソースに対する正しいバランス感覚を持ってもらう必要があります。
高橋 はい。座学で得られた「知識」だけではなく、「体感」を経ることで「自分ごと」にしてもらいたいと考えています。
指出 研修を行う立場として、高橋さんが環境問題などを「自分ごと」としてとらえたきっかけは、どこにありましたか?
高橋 私の住んでいるところから、車でお台場方面に向かうと「夢の島」の近くを通ります。ごみ処分場としての姿を長年見続けてきましたが、そのことが、環境問題を考える一助になっているのかなと思います。また、さらに個人的な話で恐縮なのですが、お酒が好きで、国内のワイナリーを訪ねるのが趣味なんです。
指出 いいですね(笑)。僕もワイン、好きです。
指出 知識として「夢の島」のことを知っていたり、地方でのワインづくりなどを想像するだけでなく、実際に見て、聞いて、その地を歩いて……まさに、数多くの体験が身に染みついているわけですね。
テーマは「知る」。『大崎電気工業』と『ソトコト』が協力して取り組むSDGs研修の姿とは
高橋 私たち、企業の視点でのSDGs活動には、もしかしたら暮らしであったり、地域に住む個人の視点が欠けていて、それに気づかないまま研修を進めてしまい、実情とズレが発生してしまうことがあるかもしれません。ソトコトさんには伴走者として、私たちの方針がズレてしまっていないか、そこをしっかりと見ていただくこと、そして私たちの活動を知ってもらうための力添えをいただければと考えています。
指出 ありがとうございます。雑誌『ソトコト』は1999年の創刊から25年、何とか続けてくることができました。そのなかで感じているのは「変化」の大きさと、それをとらえることの重要性です。
先ほど、高橋さんから「電気代の高騰などが、自然とエネルギー問題へ目を向けることにつながっている」というお話がありましたが、環境やエネルギー問題の実情や人々の意識は、思っている以上に早く変化します。その変化を見逃さず、いまの社会の流れを、大崎電気工業さんに共有していきたいですね。
高橋 指出さんは、いろいろな問題は独立しておらず、互いに影響を及ぼすとおっしゃいました。それはネガティブな要素だけでなく、ポジティブな要素も含んでいると思います。今回、私たちと『ソトコト』さんが手を取り合って研修を行うことで、社員の皆さんの成長を促し、大崎電気が企業として発展することで私たちが暮らす社会にも良い影響を与え、それが巡り巡って大崎電気の社員の方にまた波及し……と、大崎電気とここで働く皆さん、そして社会がお互いに良い影響を与えあう好循環をつくり出したいと思います。