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連載 | 犬猫ヤギと古民家と私。~From 安房暮らし Our life ~ | 12

台風で2度屋根が飛び、近所づきあいの大切さを知った2017年の秋

鍋田ゆかり

鍋田ゆかり

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千葉県南房総にあるわが家は、茅葺屋根にトタンを被せた築100年以上の古民家だ。2017年の台風21号で屋根が飛ばされ、北側一面の茅葺きがあらわになったことがある。そのとき北側から見たわが家は見事な茅葺屋根の家だったが、これを維持することはできないので屋根全体のトタンを新しく葺き替えた。その翌年、台風24号でまた北側一面の屋根が飛ばされ、北面だけ再び茅葺屋根の家に逆戻り。三度目は絶対に味わいたくない2度の実体験と、そのとき感じたことを紹介する。

目次

屋根葺き替えの予算は100万円。一番高いのは人工代

風呂、トイレ、キッチンなしの“無い無い”古民家に引っ越してからせっせと家の改修を進めてきたが、DIY仲間に「屋根がダメになったら意味がない」と言われてしまった。いくら内装をきれいにしても、屋根がダメで雨漏りしたら家はどんどんダメになるという。そりゃそうだ。茅葺きの上に乗っかった錆び錆びのトタン屋根は、ツギハギだらけで穴も開いている。いい加減、現実から目を逸らすのはやめて屋根の葺き替えをした方がいいに決まっている。
ボロボロ古民家

ボロボロ古民家

屋根は錆びて赤くなっている。
その予算は100万円。費用がいちばんかかるのは人工代で、知り合いの建築会社に相談したら古いトタンを外して降ろすときと、新しいトタンを張るときに人手があると早く進むことがわかった。結果安くできるとのことで、人を集めて手伝ってもらうことに。下地材も、今使われているものをそのまま使えそうだ。ということで、人生一度限りの屋根葺き替え計画を2017年11月に決行することにした。

災害は突然やってくる

10月23日未明、千葉県に最も接近した台風21号は、勝浦市で22日に瞬間最大風速39.5メートルを記録。総務省消防庁の資料によると、千葉県内での住家被害は一部破損が8棟。その中にわが家も含まれる結果となった。

とにかくすごい風で、トタンがガタガタ音を立て、風の音と物音が聞こえ続けた夜。ものすごく大きな物音が、ひじき(ヤギ)小屋の方から聞こえてきたので、夜が明けてからすぐひじき小屋へと向かった。そこで目に飛び込んできたのは、何やら大きな物体と何かを訴えるひじきの姿。

ヤギ小屋に屋根の残骸

ヤギ小屋に屋根の残骸

ひじき小屋に被さる屋根の残骸とひじきさん。
よく分からないけど、とりあえずひじき小屋もひじきも無事のようで一安心。そして気になるのは、この物体だ。これってどういうこと?

家の裏側に回ってみたら、屋根の茅葺きが丸見えになっている! そして、隣の敷地内に屋根の残骸が。

飛ばされたトタン屋根と、あらわになった茅葺き屋根。

飛ばされたトタン屋根と、あらわになった茅葺き屋根。

飛ばされたトタン屋根と、あらわになった茅葺き屋根。
納屋の柱と壁一面も見当たらないし、納屋の中にあった物が飛び出して散乱している。一通り敷地内を歩いて確認すると、納屋の柱や壁一面は庭先の耕作放棄地で発見。拾えるものは自分で拾い集めるが、大きな屋根の一面は、一人ではどうしようもない。
納屋の壁が無くなって、中身が散乱している。

納屋の壁が無くなって、中身が散乱している。

納屋の壁が無くなって、中身が散乱している。
人生初の体験で、こういうときにどうすればいいのかさっぱり分からないし、屋根材の塊を見つめて呆然と立ち尽くしてしまった。

地域の力は何よりすごい

「カンカンカ~ン」と消防の鐘の音が耳に入ってきた。消防団と思われる人たちが、消防車で見回りながらゆっくりとわが家の前を通り過ぎようとしていた。助けを求めようかとも思ったが、一歩も動けず立ち尽くす。地区の境目で折り返してきたであろう消防車が、再びゆっくりとわが家の前を通り過ぎようとしたとき、意を決して駆け寄った。

「すみません! 屋根が飛んでしまったんですけど、こういうときどうしたらいいんでしょう?」

消防の人は、現状確認をしてから区長に電話を入れ、その後すぐに区長が駆けつけてくれた。区長が現状写真を撮ってすぐに役場へ報告してくれたおかげで、罹災証明書の発行など、書類手続きをスムーズにすすめることができた。

古民家の屋根が飛ばされる

古民家の屋根が飛ばされる

北側の一面だけ茅葺き丸出しになったわが家。
屋根の葺き替え作業をしてくれる建築会社にも連絡し、散乱した大きな屋根材を撤去してもらう。葺き替えのときにそのまま使う予定だった下地材も飛ばされてしまったが、せめてわが家のお風呂を沸かす薪として活躍してもらえるよう、適当な長さにカットしてもらった。これで当分薪には困らなさそうだ。

茅葺き屋根にトタンを被せるときに、屋根の頂上にある茅は取り除かれているので、土間から天井を見上げたら空が見えた。

古民家の土間から天井を見上げると、空が見えた。

古民家の土間から天井を見上げると、空が見えた。

土間から見上げた景色。
ということは、雨もふつうに入ってくるのだ。なので、建築会社の人たちにブルーシートを張ってもらう。

屋根の葺き替えをする予定だったから、すぐに対応をしてもらえた点はラッキーだ。飛ばされた屋根が隣家を破壊することもなく、人に怪我を負わせることもなかったのは、不幸中の幸いである。

12月、無事に屋根の葺き替えが終わり、錆び錆び屋根から美しい屋根へと変身した。

<次のページでは、「一年も経たずに、再び茅葺き屋根が姿を現す」を紹介する>

一年も経たずに、再び茅葺き屋根が姿を現す

2018年9月30日和歌山県に上陸した台風24号は、暴風域を伴ったまま北東に進み、最大瞬間風速は館山市で36.3メートル。総務省消防庁の資料によると、千葉県の住家被害は一部破損が48棟。そのうちの1棟がわが家である。

前回同様、北側の屋根一面が下地材ごと飛ばされて茅葺き屋根が姿を現していた。

茅葺き屋根があらわになった古民家

茅葺き屋根があらわになった古民家

再び茅葺き屋根が姿を現したわが家。
しかも、飛ばされた屋根材は前回から飛距離を伸ばし、隣の畑を通り越してその先にあるハス畑へ落下。ちょうど収穫し終えたばかりのハス畑だったのはよかったが、太ももくらいまで深さがあるハス畑に落ちたこの塊を、いったいどうやって片付けろというのか。一年も経っていないきれいなトタンと、まだまだ新しい下地材が無残にもハス畑に漂い輝いていた。
ハス畑に着地した屋根の残骸

ハス畑に着地した屋根の残骸

ハス畑に着地した屋根の残骸。

屋根が飛ばされたとき必要なのは保険? それとも……

先に伝えておくと、私は一切保険に加入していなかったので金銭面は保険に頼ることができなかったが、その分地域の人たちや仲間が助けてくれた。ハス畑に着地した屋根の塊は、地域の人が重機を出して引き上げてくれ、屋根以外の破損した場所はDIY仲間が補修してくれたのだ。
重機で屋根の残骸を引き上げる

重機で屋根の残骸を引き上げる

地域の人が重機を使い、ハス畑の人が泥の中に入って作業をしてくれた。
古民家の屋根一面を覆うブルーシートは相当な大きさが必要になるが、ブルーシートもトラロープも地域の防災組織が貸し出してくれた。
古民家の屋根を覆うブルーシート

古民家の屋根を覆うブルーシート

古民家の屋根を覆うブルーシート。
二度目の屋根葺き替えについては、また飛ばされでもしたらもうお手上げだし、金銭的にも相当悩んだ。そこで信頼できる大工さんを紹介してくれたのも、地域の人たちだった。

保険は必要かといわれれば、必要だと思う。信頼できる保険屋さんを地域の人に紹介してもらい、加入したくらいだ。でも、保険だけではやはり不十分だとも思う。災害があったときにすぐ動けるのは、やはり近くに住んでいる地域の人たちだ。「お宅の屋根がうちに飛んできたぞ!」と文句を言われない関係性を築いておくことも大切にしておきたい。

ふだんは面倒だと思うこともある、地域の共同作業や役員としての仕事があるが、毎日の小さな積み重ねが災害時は大きな助けにつながるのかもしれない。令和元年房総半島台風では、近所でも屋根が飛ばされたり倒木で道が塞がれたり、断水や9日間の停電を経験した。そのとき活躍したのもやはり地域の防災組織であり、地域の人たちだったのだから。

2023年6月6日、『ウェザーニュース』は今年の台風傾向について発表し、今シーズンの台風は平年よりもやや多い29個前後と予想されている。今のうちから、日々できることを積み重ねておきたい。

ヤギのひじきと犬のあわ

ヤギのひじきと犬のあわ

どんな状況でもマイペースなヤギのひじきと、犬のあわ。
写真・文:鍋田ゆかり
ライター。身近な面白い場所や人を取材するのが好き。築100年以上の古民家で、犬猫ヤギとともに田舎暮らしを堪能中。自転車キャンプ、犬連れ車中泊しながら自然を満喫するのが好き。
https://awaawalife.com/

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