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特集 | ソトコト流 東京宝島 離島歩きガイド

4度目の青ヶ島へ。編集者・久保田真理さんが行く、何度訪れても魅力あふれる青ヶ島。【青ヶ島・後編】

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編集者でありライターの久保田真理さんが青ヶ島を訪れたきっかけは、島で製塩事業を営む山田アリサさんとの出会いから。知人を介して知り合ったという2人は、今では仕事仲間であり友人でもあるそう。今回の取材で久保田さんは4度目の渡島。「島は大切なことに気づかせてもらえる場所」と話す久保田さんに、“何度も通いたくなる”青ヶ島の魅力を教えていただきました。

(取材は2021年11月に行いました。撮影時にのみマスクを外しています)
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「ひんぎゃの塩」をつくる、山田アリサさんとの出会い。

2021年11月下旬、青ヶ島に渡った久保田真理さん。2017年に初めて島を訪れて以来、すでに3度も来島しているという常連だ。
「ご縁があって呼ばれてきた感じですね。正直、それまでは青ヶ島のことは知りませんでした。だから、余計に衝撃的だったのかもしれません。潮の流れがきついから船が欠航するのが当たり前だったり、ヘリコプターで来島しようにも席数が限られているのでなかなか予約できなかったり。商店も、信号だって島にはたった1つしかない。そして、それらは決して“不便”ということではなく、私にとっては価値観を変える異文化との出会いのような新鮮さがありました」と久保田さん。
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事前にチケットを手配していたため、9人定員のヘリコプターで青ヶ島入り。本取材時、船は時化のため欠航していた。
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島の北部、長ノ平にあるヘリポート。青ヶ島の空の玄関口だ。
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ヘリポートで再会を喜ぶ久保田さんと『青ヶ島製塩事業所』の山田アリサさん。お互い笑みがこぼれる。
久保田さん自身、日本国内含め海外取材へも数多く出かけてきた。そんな中、青ヶ島は“灯台下暗し”ともいうべき、驚きがあったのだろう。そして、島に暮らす山田アリサさんとの出会いがなかったら、久保田さんは青ヶ島に来ていない。山田さんは島の名物「ひんぎゃの塩」を製造する『青ヶ島製塩事業所』を切り盛りする人物だ。青ヶ島は火山の島。その恵みを活かした産物の一つが塩。島で「ひんぎゃ」と呼ばれる火山噴気孔から吹き出す蒸気熱で海水を温め、ゆっくりと結晶させ自然塩をつくっている。山田さんはこの塩のパッケージデザインのリニューアルにあたり、大切な思いを文字にする人材として久保田さんと出会う。

「パッケージのテキストを書くための取材って、短縮したら1日でもやろうと思えばできてしまう。でも、アリサさんから『島のことをちゃんと知ってから書いて欲しいから』と、初回は3泊での来島を勧めていただき、島中を案内いただきました。製塩所をはじめ、島の観光地はもちろん、地図にも載っていないアリサさんのお気に入りの場所や、島人の暮らしの場にも。アリサさんと一緒でなかったら出会えなかった風景や人たちを知ることができました。自分にとって、本当にありがたい経験です」

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左/美しい塩。カルシウムを豊富に含む。右/地熱を利用し精製塩を製造する山田さん。
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『青ヶ島製塩事業所』の近くには火山噴気孔「ひんぎゃ」がいたるところに。
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塩の乾燥室で説明する山田さん。「粉雪みたい!」と久保田さんの感想。
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左/製塩途中でできる、ミネラルたっぷりのにがり。右/「ひんぎゃの塩」の商品。島にある『十一屋商店』や民宿などで買える。
その後、仕事は継続しつつも、ゆるやかに友人関係になっていった2人。島では山田さんの自宅に泊めてもらうこともあったという。隣の八丈島で一緒にバーベキュー検定のための講座を受講したり、山田さんが本土を訪れた際には一緒に食事をしたり。そんな中で、久保田さんにはある思いが。「アリサさんや青ヶ島と、せっかく縁をいただけたから、パッケージの制作以外にもなにか自分にできることがあったらいいなあという思いが生まれました。心のどこかに、この島の人とつながっていたいっていう思いがあるんでしょうね。ある意味、今の東京本土の暮らしには減ってきた、多世代が集うコミュニティであったり、人と人とが助け合いながら生きていたりすることに、自分は憧れがあるのだと感じています。そういう人や地域と触れられたことが、自分の人生を豊かなものにしてくれていると思っています」。
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「青ヶ島は“温情”の島。小さいころは人とのつながりが嫌だったけど、今はかけがいのない感じがします」と山田さん。

行ってみたかった「あおちゅう・青酎」の試飲。

「ひんぎゃの塩」とともに青ヶ島の特産といえば「あおちゅう・青酎」。生産量が少ないため“幻の焼酎”とも形容される。麦やサツマイモを原料とした蒸留酒なのだが、そのつくり方が特徴的だ。麹も酵母も自然のものを使っているため、空気中の菌が降りてくるのを待つという江戸時代から変わらない製法。現在、現在、島には「あおちゅう・青酎」を製造している杜氏が8人おり、同じ蔵を共有し、ほぼ同じ原料を使っているのだが、それぞれ味が違うのはこのため。菌の増え方によって味が変わるそうで、逆に同じ味をつくることができないのだとか。
「青ヶ島といえば『あおちゅう・青酎』。昔は各家々でつくっていた家庭の味だと聞いています。以前、島に来たときに、アリサさんが麹菌を麦につける作業を見せに近所の杜氏のところへ案内してくれたり、また焼酎を仕込む機器が揃う『青ヶ島酒造』に連れてきてくれて。でも、その時は試飲をできなくて……。私はお酒が好きなので、『あおちゅう・青酎』を飲み比べられるなんて最高です」と久保田さんはうれしそう。
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詳細に書かれたテキストを見ながらの試飲。知識も得られ、満足度が高い。
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杜氏によって味がまったく違うのが非常におもしろい。
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「あ、私これ好きかも!」。香りを味を楽しみながら好みの一本を探す久保田さん。
試飲を担当してくれたのは『青ヶ島酒造』杜氏の奥山晃さん。『青ヶ島酒造』では杜氏のタイミングが合えば、予約制で「あおちゅう・青酎」の基本説明と試飲をさせてもらうことができる。今回は14種類の「あおちゅう・青酎」を、一つずつていねいに解説してくれた。それぞれ、本当に個性的な香りと味わい。樽で寝かせ熟成を加えたり、2種をブレンドするといった楽しみかたもあるようで、味のバリエーションが幅広いのも青酎のおもしろいところ。また、島内でしか飲めない、アルコール度数が60度もある青酎の原酒『初垂れ(はなたれ)』などもある。
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左/発酵途中のタンク。このあと、蒸留の工程へ。右/『青ヶ島酒造』杜氏の奥山さん。背景の壁には“蔵付き”の黒麹菌。
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蒸留過程で最初にできる「初垂れ」はアルコール度数60度。島内でしか味わえない幻の味だ。
「本当に一本一本個性的で、正直びっくりしました。しかも自然の麹や酵母を使っているから、狙った味につくれないのも興味深いですね。その年の味は、その時だけのものという感じがします。そして初垂れは、意外に飲みやすくってやばいかも……(笑)。でも、「あおちゅう・青酎」が試飲できるという情報を、私は今まで知りませんでした。興味ある方は宿でご案内いただけるとのことですが、杜氏さんたちはさまざまな島の仕事をする傍(かたわ)ら、焼酎づくりをされているので当然ながら忙しい。余裕をもったスケジュールで島に臨みつつ、タイミングが合えば体験できる、くらいの感覚を持っておいたほうがいい。思いどおりにいかないことも、青ヶ島の醍醐味です(笑)」

島でしか手に入らない幻のガイドブック。

「あおちゅう・青酎」と同様に“幻”のものが島にあるという。それが東京の島のブランド化を目指す「東京宝島事業」の一環で島民によって昨年製作された、島を案内するガイドブック『HELLO!!青ヶ島-日本で一番小さな村を知る-』。2021年にできたばかりのこの冊子がなぜ幻かというと、青ヶ島に来ないと手に入らないから(一部例外もあり)。竹芝桟橋など、普通は伊豆諸島の観光系パンフレットなどは都内でも入手できるが、これは違う。島唯一の商店『十一屋酒店』をはじめ、島内にある宿にのみ置かれている。
ガイドブックを説明するにあたり、まず冒頭ページにある一文を引用したい。
絶海の孤島、星の箱舟、幻の島…
外からは色々なイメージを持たれていますが、
私たち島民にとっては生活している普通の島です。
この言葉どおり、制作に関わったのは島の人。島民の目線でつくられた、思いのこもったガイドブックなのだ。デザインを担当した佐々木加絵さんに、久保田さんが話を聞いた。
「何もないところが青ヶ島のいいところ。島のそのままを感じて欲しいんです。そして歴史を知れば、もっと楽しく過ごせるってことを伝えたい。だって、星空目当てで来たら、天気が悪くて見られなかったら満足できずに帰ることになる。そういう入り方よりも、村民と同じくらいの気持ちで青ヶ島の日常を楽しみにきてくれると、どんな天気でも楽しめるかなと思います」
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紙の質感にもこだわったパンフレット『HELLO!!青ヶ島-日本で一番小さな村を知る-』。
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写真中央がデザインした佐々木さん。左は島の歴史・文化に長け、文章などを担当した荒井智史さん。
佐々木さんはグラフィックデザイナーとして東京・本土で働き、2020年にUターン。現在はユーチューバーとして『青ヶ島ちゃんねる』も運営する。「『HELLO!!青ヶ島』の判型はA5サイズ。自分の経験として、旅行に行った時に、大きいパンフレットは邪魔になるかなと思いました。青ヶ島は風も強いので、大きいと飛ばされるかもしれないし。写真も私たちが思う“青ヶ島っぽさ”という視点で選びました。自然の厳しさも匂わせるようなリアルな色味にもこだわりました」。
掲載されている情報も独特だ。港やヘリポートの記載にスペースを大きく割いているところなどは、いわゆる普通のガイドブックではないだろう。「見るべきスポットとして三宝港(青ヶ島港)を入れたのは革命的。港を紹介しているのは今までの青ヶ島のパンフレットにないと思います。先人が、島が壊滅的な被害を受けた天明の大噴火のあと、死を賭して渡海した青ヶ島の『還住』の歴史を知っていれば、ここに船が着くことがどれだけ重要なことか理解できるはずです。ヘリコプターに変わってもそれは同じこと。そういう島民の気持ちを、このガイドブックで知ってほしいんです」と佐々木さんは続ける。
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「地図を含めた情報の正確さ、新しさにもこだわりました」と佐々木さん。
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左上・左下/想いの詰まったパンフレットの誌面。右上/島の飲食店でいただいた郷土料理の「酢漬け」。家や店ごとに味付けにこだわりがある。右下/青ヶ島港(三宝港)。撮影時も強風と激しい波。冬季の船の着岸率は低い。
郷土料理の紹介でも、これまでにほぼ紹介されてこなかった、魚を酢や生姜、島唐辛子などで漬けた「酢漬け」と呼ばれるソウルフードを初めて登場させたそう。冠婚葬祭の祭の行事食であり、暮らし中の日常の食。こういう視点も、島民がつくっているからこそ。
久保田さんも、「旅人が本当に触れたいのは、こういう島の人の本来の日々の暮らし」だと前置きしつつ、自身の活動にも触れ感想を話してくれた。「私も地域の観光パンフレットの製作や、情報発信のお手伝いをすることも多いですが、やはり内部からの発信ってすごい力がある。おもしろいし、魅力にあふれていますし、なにより現地の温度感に合った正確な情報が載っている。そして、島の人が大切に思っていることをガイドブックというカタチで共有してもらい、それを体験することで島の生活に少しでも触れたら、島の人たちと話すきっかけになるかもしれない。今回生まれた新しい青ヶ島とのつながりも含めて、また来島したいなと思いました」。
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佐々木さんに話を聞きながら、この日のランチは「ひんぎゃ」の噴気で調理した蒸し料理。
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左上・左下/使用中の釜の上には石を置くのがルール。右上/佐々木さんの指導のもと、「ひんぎゃ」の地熱釜で調理スタート。右下/うまみ、甘みたっぷりのサツマイモに仕上がった。
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集落の中にある「渡海神社」を散策する久保田さん。4度目の青ヶ島来島だが、「HELLO!!青ヶ島」を見て知り、初めて訪れた場所のひとつだ。
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「渡海神社」は、島で「トカイサマ」と呼ばれる渡海安全を祈願した社。玉石の石段が特徴的。
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「回数を重ねるごとに、青ヶ島を好きになっていく自分がいます」。
photographs & text by Yuki Inui 

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