これからの地域経済を考える、和歌山県田辺市の循環型ビジネス。

これからの地域経済を考える、和歌山県田辺市の循環型ビジネス。

「熊野古道」と「みなべ・田辺の梅システム」の2つの世界遺産や、農・水産物などの地域資源に恵まれた和歌山県田辺市では、地域内での経済活動が盛んだ。少子高齢化に伴って地域の担い手も消費者も減少するこれからの未来に向かってつながり合う人材を育ててきた田辺市で、新しいビジネスが生まれ始めている。


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地域資源に富んだ田辺のまちと自然を一望。

“田辺流”ビジネスの流儀は、「たなべ未来創造塾」から。


「ここには元気な大人がいっぱいいるんです」と大学卒業後にUターン就職した女性が話してくれた。そんな“元気な大人”を多く輩出しているのが、5年前に始まり、これまで47人が受講した「たなべ未来創造塾」だ。2020年度の第5期は、8月に始まった、全13日のプログラム。まちづくりや地域ビジネスの先駆者による講義を受けた後、ディスカッションを通じて学びを深め、最終的にはそれぞれの事業計画を発表するという内容だ。現在、市内で事業を営む12人の塾生が参加している。


 取材に訪れた9月19日は、プログラム4日目。今回は、生産から加工、物流、流通、消費までの一連の流れを意味する「サプライチェーン」と、地域課題の解決とビジネスを両立させる「CSV(Creating Shared Value:共有価値の創造)」をテーマに、田辺市で生まれたプロジェクトについての発表が行われた。


 最初に登壇したのは、市内で米の販売業を営む『たがみ』の田上雅人さん。人口減少の中で米の販売業が生き残る道を模索し始めた田上さんは、後継者不足が深刻化する地域農業を活性化するため、地元産ブランド米作りを手がけた。協力農家を探し、田んぼの除草作業の負担を軽減するために地域の梅干し作りの過程で出た調味廃液を利用した。誕生した「熊野米」は多くの反響を呼び、年々生産量を増やしているという。農業、加工業まで事業領域を拡大し、新たにECサイトも立ち上げるなど、10年間活躍を続ける大先輩の話に、参加者は感銘を受けていた。


 次に登壇したのは、当塾1期生で酒販店『堀忠商店』の堀将和さん。堀さんは先の「熊野米」を使った、オリジナルの日本酒造りを行った。商品開発の際に地域の人たちが関わり、多くのつながりの中で「葵交」(以下、「交」)を完成させた。最後は、当塾3期生でうなぎ専門店『太田商店』4代目の太田有哉さん。食べ合わせが悪いと言われてきた梅干しにあえて注目し、「梅と鰻の仲直りプロジェクト」を開始。3種類の梅干しで味を変えながらウナギとご飯を食すセットを考案して商品化し、田辺市のふるさと納税の返礼品としても人気を集めた。


 5期生は先輩たちの話に刺激を受けた後に、自社の現状と課題を分析。その課題を克服するために、どの企業と組むといい効果が生まれるのかを話し合った。仲間を見つけて障壁を乗り越え、行動を起こす。そんな“田辺流”のビジネスの流儀がそこにあった。


助け合う気持ちと行動が、地域ビジネスを生む。


「お互いの課題が分かったら、あとは自然につながって新しいビジネスが生まれる。コロナ禍で課題が見えてきた今こそ、つながれる契機と捉えています」。この塾を運営する田辺市たなべ営業室の鍋屋安則さんがそう話すように、塾の修了生の間でコラボレーションが始まっていた。


 昨年春ごろ、新型コロナウイルスの影響で同市内の飲食店の多くが休業状態となった。先の日本酒「交」を手がけ、飲食店にお酒を卸していた堀さんの事業でも売り上げが8割減に。それを知った塾の4期生で、フレンチレストラン『Restaurant Caravansarai(レストラン・キャラバンサライ)』をオープンした更井亮介さんは、堀さんに声をかけた。そこで誕生したのが、オードブルとお酒のセットだ。ゴールデンウィーク限定の5日間で計50セットを販売した。「『期限付酒類小売業免許』を取得してこのセットが実現しました。『もし在庫としてお酒が残ったら、戻してもらえばいいよ』という堀さんの言葉も活動を後押ししてくれました」と更井さんは話す。


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写真左から更井亮介さん、堀将和さん。

 また、堀さんは、塾の3期生で居酒屋『酒味道楽 なじみ』を経営する稲垣幸生さんに声をかけ、稲垣さんの作った弁当の配達を引き受けた。「酒店の仕事が激減して時間と配送車の積載に余裕が生まれため、一人で店をやっていた稲垣さんの助けになればと申し出ました」と堀さん。今後も多様な方法で他業種とコラボしていくことを考えているという。


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写真左から稲垣幸生さん、堀さん。

塾での学びとつながりで、スピーディに行動。


  塾の3期生で『はつやま鮮魚店』の初山徹さんは、4期生の鈴木さん、同じく3期生の林拓郎さんとそれぞれコラボすることに。ブドウ園を営む鈴木さんは2年前から、初山さんの店舗の並びにある空きスペースを借りて、収穫したばかりのブドウを販売している。「作業をしながら販売でき、お客さんからの『美味しい』という直接の声が、私たちのやりがいにつながります」と鈴木さん。初山さんは、「鮮魚店に来たお客さんがブドウ販売所を覗いたり、逆にブドウを買いに来たお客さんが鮮魚店を覗いたり。相乗効果が生まれます」と話し、にぎわいをつくるコラボに手応えを感じていた。


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写真左から鈴木格さん、初山徹さん。

 そして、ベーカリー&レストラン『KOKAGE』を営む林さんと初山さんは、コロナ禍での飲食店利用を促そうとスタンプラリーを手がけた。田辺市と隣の白浜町の7店舗で3000円以上をテイクアウトしてスタンプを集めると、特典が得られるという内容だ。林さんは、「何が課題か、どう生かすのかを塾で一緒に学んだ初山さんに相談すると話が早かった。仲間を巻き込んで大きな力にすることができたと思います」と話した。田辺で生まれたコラボが、じわじわと地域を変えていく。


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写真左から林拓郎さん、初山さん。

田辺の「今」を届ける、新しい拠点ができました!


JR紀伊田辺駅の真正面に、2020年8月にオープンした「tanabe en+」。紀州材をふんだんに使った建物の1階にはショップとカフェが、2階にはコワーキングスペースがある。「“編集者”として田辺で生まれたもの、また田辺の人を豊かにするものをセレクトし、情報も発信していきます」とショップの企画運営を担当する『南紀みらい』の和田真奈美さん。「田辺内、または田辺内外の人を結んでビジネスを起こしたり、駅周辺の活性化にもつなげたい」とコワーキングスペースを担当する片岡良輔さん。


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写真左から片岡良輔さん、和田真奈美さん。

名称:tanabe en+
住所:和歌山県田辺市湊41-1
営業時間:10:00〜19:00(年中無休)


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tanabe en+。1階にはショップとカフェが、2階にはコワーキングスペースと貸し会議室が完備されている。