昆虫と植物、微生物の「生物間相互作用」を研究している井上真紀さん。年に何回かは虫を捕りに、学生と一緒に野山を駆け回っているそうだ。そんな井上さんが「もっと虫を知ってほしい」と、本棚から取り出した本がこちら。
東京農工大学大学院農学研究院准教授|井上真紀さんが選ぶ、「農度」を高める本5冊
そこで導入されたのが、IPM(総合的病害虫・雑草管理)という考え方です。害虫の駆除を化学農薬だけに頼るのではなく、生物農薬(害虫の天敵)などを活用し、根絶ではなく多少は害虫が生き残っても、経済的被害がある程度抑えられたらよしとする方法です。農薬散布による農家の健康被害も軽減されます。
IPMの考え方をベースにしながら、『「ただの虫」を無視しない農業』の中で著者は、IBM(総合的生物多様性管理)という新しい考え方を提唱しています。水田や畑には多様な生き物が暮らしています。たとえば、害虫の天敵であるクモが生きやすい環境をつくることで、天敵としての力を最大限に発揮させつつ、そのぶん農薬は最小限に抑える。昆虫も植物も、生き物全体を育てる農地を目指すことが未来の農業のあり方だと著者は主張しています。
そこで重要になるのが、「ただの虫」です。天敵の活躍で、害虫が田畑を害しない程度の数まで減れば、それは「ただの虫」です。害虫を「ただの虫」にすることが害虫管理の目指すところと、著者は述べています。
もう一冊は、岩手県・葛巻町の小学校であった実話を絵本にした『わたしたちのカメムシずかん』です。葛巻町は寒いので、冬が近づくとたくさんのカメムシが暖かい校舎の中に入ってきます。児童たちはそのカメムシを嫌々ながらホウキで掃き集め、外へ出すのですが、校長先生の提案によってカメムシのことを調べてみることになりました。児童たちは調べていくうちに、嫌いだったカメムシが、色、模様、形などさまざまな種類があることに気づきます。結果、1年間で35種類のカメムシを見つけ、「カメムシずかん」をつくることになるのですが、その顛末が描かれています。
カメムシは臭いも放つため、多くの人から嫌われている虫ですが、農業の世界では害虫を食べる益虫として販売もされています。嫌って排除するのではなく、虫に興味を持つことの大切さや、虫の多様性を知るためのユニークな題材としておすすめしたい絵本です。