この写真が世に出たきっかけは2014年、工藤が84歳で亡くなってしばらくした後、家族が押し入れなどにあった大量のネガフィルムを見つけたことから始まった。これらのフィルムをスキャンしてデータ化し、2019年からInstagramにアップしはじめたところ、国内外に反響が広がり写真展の開催や写真集の発表が叶ったのだという。ストリートで起こる日常のちょっとした出来事が写し出されているスナップ写真からは、誰かの話し声や、自転車のブレーキ音までが聞こえてきそうで、街中に紛れ込んだような臨場感がある。地球の裏側のリアルタイムを検索一つで知ることができるインターネットでも、こんなにみずみずしく昔のまちの様子に触れられてしまう写真はなかなか見つからない。
今の時代に比べると、インターネット以前は才能が発見されるのが難しい時代だった。またどこかで発掘され、新たな発見をもたらしてくれるのではないかと期待してしまう。