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SNSで発見された 青森の写真家。

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工藤正市の写真集『青森 1950-1962』を手に取って、少し驚いた。それまで戦後の青森といえば、小島一郎の写真でしか知らなかったからだ。1929年生まれの工藤より5歳年上の小島は39歳の若さで亡くなったが、工藤とは同世代の写真家だった。その作品は青森の冬の寒さや厳しさを表現したもので、張り詰めるような緊張感と造形美があった。でも、工藤の写真は全く違う。にぎやかな雪のまちを歩く多くの人たち、子育てをする家族やご近所で井戸端会議する人たちが笑顔で写るスナップの数々。小島の写真でイメージしていた当時の青森の風景が、がらりと変わった。

この写真が世に出たきっかけは2014年、工藤が84歳で亡くなってしばらくした後、家族が押し入れなどにあった大量のネガフィルムを見つけたことから始まった。これらのフィルムをスキャンしてデータ化し、2019年からInstagramにアップしはじめたところ、国内外に反響が広がり写真展の開催や写真集の発表が叶ったのだという。ストリートで起こる日常のちょっとした出来事が写し出されているスナップ写真からは、誰かの話し声や、自転車のブレーキ音までが聞こえてきそうで、街中に紛れ込んだような臨場感がある。地球の裏側のリアルタイムを検索一つで知ることができるインターネットでも、こんなにみずみずしく昔のまちの様子に触れられてしまう写真はなかなか見つからない。

今の時代に比べると、インターネット以前は才能が発見されるのが難しい時代だった。またどこかで発掘され、新たな発見をもたらしてくれるのではないかと期待してしまう。

『青森 1950‐1962 工藤正市写真集』

 (84760)

工藤正市著、みすず書房刊
text by Nahoko Ando
記事は雑誌ソトコト2022年1月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

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